CYNHN、呼び覚まされたロックな興奮 8年の歴史で最も強い支持を浴びる今――ガーデンホールワンマンを振り返る

CYNHN、呼び覚まされたロックな興奮

 2017年11月1日にシングル『FINALegend』でデビューしたCYNHN(スウィーニー)。グループ名が“青”を意味する4人組ボーカルユニットだ。その8周年当日を迎えた2025年11月1日に恵比寿 The Garden Hallで開催された『CYNHN ONE MAN LIVE 2025 November First -111』は、独自に成熟した、ほかに類を見ない“青”を鮮烈に印象づけるライブだった。

 スタンディングで最大1500名を収容する恵比寿 The Garden Hallは、開催前にソールドアウト。当日は、メンバーが何度も前に詰めるようにアナウンスするほどの超満員ぶりだった。これほどの人々が、現在のCYNHNを見るために集まったのだ。

CYNHN(撮影=Makoto Nakagawa)
Photo by Makoto Nakagawa

 オープニングVTRでは、青いバースデーケーキが映し出され、メンバーが広瀬みのり、月雲ねる、青柳透、綾瀬志希の順で登場し、お祝いをする場面も。そして、低いベース音が鳴り響くなか、「飴玉」でライブはスタート。すると、ステージ上の紗幕越しにCYNHNのメンバーがおり、歌詞とグラフィックが投影されるVJとともにライブが展開された。演奏を務めるのは、ギターの中村純一とkurara、ベースのアベノブユキ、ドラムの西沢拓海、キーボードの桑原康輔の5人からなるバンドだ。

綾瀬志希(Photo by Makoto Nakagawa)
綾瀬志希(Photo by Makoto Nakagawa)
月雲ねる(Photo by 真島洸)
月雲ねる(Photo by 真島洸)

 「飴玉」での陰影の濃いCYNHNのボーカルは、まさに現在のCYNHNの魅力を雄弁に物語る。そして、「飴玉」の〈嫌な色も舌に付いて消えない〉という歌詞は、“青”を背負ったCYNHNの宿命をもイメージさせる。「サファイア」の歌詞も、CYNHNというグループの特異さを物語る。〈僕〉と〈君〉が歌詞に登場しても、ラブソングというよりも内面の葛藤を抉りだすように描くからだ。そして、声量も豊かに感情を描き出す綾瀬、甘い歌声にニュアンスを込める月雲、芯のある歌声がCYNHNのボーカルを支える青柳、歌声に広い表現の幅を持つ広瀬からなるCYNHNというボーカルユニットの真価を発揮していく。この4人の歌声が、彼女たちをアイドルとして見ても、ボーカルユニットとして見ても、特異な存在であることを印象づけるのだ。

 「イナフイナス」は綾瀬のシャウトで幕を開けるが、通常より長い間を空けてシャウトが行われ、その間、会場には強い緊張が張り詰めた。そして、シャウトとともに紗幕が落ち、4人のメンバーと5人のバンドメンバーが、直接その姿を現した。「Tokyo stuck」は洗練されたナンバーで、シティポップをも連想させる。振付師のMёgが演出、ステージングを手掛けたCYNHNのダンスパフォーマンスも光った。そう、ボーカルで魅了するCYNHNだが、ダンスパフォーマンスのレベルも高いのだ。「ごく平凡な青は、」は、“青”そのものをキーワードにした楽曲であり、〈そこはごく平凡な青溢れ〉〈青く茂ってた青の下抜ける〉といった歌詞も鮮烈。サビで4人がお立ち台に立って歌う光景も堂々たるものだった。

広瀬みのり(Photo by Makoto Nakagawa)
広瀬みのり(Photo by Makoto Nakagawa)
青柳透(Photo by Makoto Nakagawa)
青柳透(Photo by Makoto Nakagawa)

 MCでは、8周年の記念すべきワンマンライブでチケットがソールドアウトしたことに感謝。そして、「ここにきてくれたみんなはCYNHNの共犯者です。これからも一緒にわるいことをしましょう」と青柳がファンに呼びかけてから、「わるいこと」へ。楽曲の持つリズムの妙をCYNHNが掴んで歌っている姿が頼もしい。

 軽いソウル風味を持つ「アンフィグラフィティ」では、CYNHNのボーカルの可憐さが浮き彫りになる。エレクトロな音から始まる「キリグニア」は、CYNHNのボーカルの艶がよく出るナンバー、アレンジに大きな変更が加えられていたのが「インディゴに沈む」だ。あえてサウンドの音数を少なくして、CYNHNのメンバーそれぞれの生々しいボーカルをじっくりと聴かせる。さらには、演奏がほぼ止まり、4人が同時に歌う瞬間も。「インディゴに沈む」は、この日のワンマンライブの白眉だった。

綾瀬志希(Photo by Makoto Nakagawa)
綾瀬志希(Photo by Makoto Nakagawa)

 「バニラ」でも、ポストロックのテイストを聴かせた音源より大幅に音数を減らし、CYNHNのボーカルをありありと聴かせた。作詞は綾瀬が担当し、〈もうピンクにでもなってしまおうかな!〉という“青”への葛藤がメンバーの手によって描かれている。「AOAWASE」では、ダイナミックな演奏に対して、CYNHNは強いエネルギーを歌声とともに放ち、それはまるで放熱するかのようだった。

 そしてCYNHNがステージを一旦去り、バンド演奏が続いたのち、新衣装で再登場。10月にリリースされた最新曲「もうだいじょうぶ」を初披露した。抑制されたトーンから激しいトーンまでをCYNHNは歌い上げ、強烈な緊張感のなかで楽曲は終わった。

月雲ねる(Photo by 真島洸)
月雲ねる(Photo by 真島洸)

 MCでは「もうだいじょぶ」初披露や新衣装について触れて、「ノミニー」へ。このファンキーなナンバーでは、ファンの激しいクラップやシンガロングが起きた。さらにバンドメンバーの紹介も。やはりファンキーな「水生」では、演奏とボーカルのせめぎ合いが白熱した。ファンのシンガロングのリズム感のよさに感心させられる瞬間もあった。メンバー、バンド、フロアの相互作用によって熱気が生み出されていく。メインソングライターの渡辺翔によるCYNHNの最高傑作のひとつだろう。「ラルゴ」では、ファンの激しいクラップが起き、躍動感と疾走感に満ちた演奏とCYNHNが描く“曖昧な弱さ”が同居することで、唯一無二な世界を作り上げた。

 青柳はMCでこう語った。「ここまで連れてきてくれて、本当にありがとう。別々の場所で生活しているみんなが、この瞬間この場所を選んでここに集まってくれたこと、そして私たちがここに立って歌っていること、当たり前じゃないなってあらためて感じています。9年目の私たちにこんな素敵な宝物たちでいっぱいの景色を見せてくれて、本当にありがとう。これは私たちとあなたの歌です。届けます」。そして、「いいおくり」が始まった。メンバーがユニゾンで〈正しく怖がって長引くセカイを〉と歌うパートは、強烈な興奮をもたらした。

青柳透(Photo by 真島洸)
青柳透(Photo by 真島洸)

 エレクトロニカの要素もある「くもりぎみ」では、激しく狂おしい歌声が生まれ、シンガロングも起きた。こんなメランコリーを含んだシンガロングはそうそうない。本編ラストの「息のしかた」では、演奏の迫力とボーカルが拮抗し、圧倒的なスケールを感じさせた。

 ファンのアンコールを受けて、CYNHNが再登場。「2時のパレード」が始まると、ファンは一斉に赤いサイリウムを輝かせた。CYNHNは、楽曲の持つ痛みを繊細に歌い上げ、〈青。青。青。〉という歌詞では、メンバーそれぞれの個性が表出し、それが深い余韻を残した。

 MCでは、「もうだいじょうぶ」のMV公開のお知らせのほか、新情報が次々と発表された。ひとつ目は、12月22日にアコースティックライブ『CYNHN Acoustic live 〜 Libero in blue 〜』を浅草花劇場で開催すること。ふたつ目は、2026年1月21日にニューシングル『ループバック・ロールトラッシュ』をCDリリースすること。そして、最後に発表されたのは、2026年2月から全国ツアー『CYNHN TOUR 2026 -ループバック・ロールトラッシュ-』を開催することだった。全国ツアーでは、埼玉、福岡、北海道、千葉、愛知、大阪、宮城、神奈川、沖縄を巡り、初の仙台公演もここに含まれる。

広瀬みのり(Photo by 真島洸)
広瀬みのり(Photo by 真島洸)

 アンコール最後となる「楽の上塗り」では、銀テープが噴射された。ファンのクラップとともに「楽の上塗り」は響き、淡く幸せな余韻とともに『CYNHN ONE MAN LIVE 2025 November First -111』は終了した。

 今回の8周年記念ワンマンライブは、後半でファンのシンガロングが何度も起きるほど、ロック的な興奮に満ちていた。それは、CYNHNというボーカルユニットの現在の強度の高さを体現するものだった。それでいて、その歌声はニュアンスに富み、繊細な感情を表現し続けるのだ。CYNHNは内向性を抱えたグループであり、だからこそ彼女たちの表現は、8周年を迎えた今、その歴史で最も強い支持を受けている。そうしたCYNHNとファンの熱狂的な交歓が行われたのが『CYNHN ONE MAN LIVE 2025 November First -111』だった。その光景は、CYNHNの未来を明るく照らし出すかのようだったのだ。

CYNHN、女子流、フィロのス、リリスク、STU48……『アイドル楽曲大賞2022』体制変更や時流を追い風にできたグループが上位に

アイドルが1年間に発表した曲を順位付けして楽しもうという催し『アイドル楽曲大賞』。11回目となる2022年度の『アイドル楽曲大賞…

CYNHN、ツアー最終公演で確固にしたファンとの信頼関係 新メンバー 広瀬みのりの加入が起爆剤に

女性ヴォーカルユニット・CYNHNが10月9日、東京・恵比寿LIQUIDROOMで『東名阪ツアー -キリグニア-』の最終公演を行…

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる