十明、“生身の自分”で書き綴った新しい音楽 薄暗いワンルームの中から届けたかったメッセージとは

十明、“生身の自分”で書き綴った音楽

 十明が2ndデジタルEP『1R+1』を10月15日にリリースした。「一人暮らしの女の子のワンルーム」がテーマの本作には、日々の生活の中で得た自身に対する新たな気づきや、等身大な十明の姿を切り取った5曲が収録されている。そんなコンセプトが通底しつつ、体を揺らしながらゆったり聴きたい「月並」から、ピアノと凛とした歌声が作り出す壮麗な世界観に浸る「GRAY」、タイトルのインパクトも大きい軽快なロックナンバー「クズ男撃退サークル」まで、5曲の幅は実に広い。「どの曲もどこか不穏」と語る十明だが、本作で表現した“音楽で届けたいもの”とは一体何か。11月の東名阪ツアー『十明 QUATTRO TOUR 2025』への意気込みと合わせて、話を聞いた。(編集部)

「もう少しリアルな姿を見せていきたい」

――十明さんが昨年リリースした1stアルバムのタイトルは『変身のレシピ』。自分ではない誰かに変身できることに、音楽の醍醐味を感じているんでしょうか?

十明:そうですね。自分は私生活で感情を剥き出しにすることがあまりなくて。もちろん泣いたり怒ったりすることもあるんですけど、「許せない!」「なんで私じゃないの?」みたいな、人に見せたら嫌われてしまいそうな感情は怖くて外に出せないんです。だけど曲を書く時は、自分の中にある一つの感情を見せるために誇張している。ライブも、自分の素を出すというよりかは、曲ごとのキャラクター性を表情や動きで表現するような感じで。演劇やショーのようなものを目指していました。“誇張”こそが自分の個性だと思いながら、そういうやり方をしてきたんです。だけど……このEP『1R+1』のリリース後、11月にワンマンライブがあるじゃないですか。そこではもう少しリアルな姿を見せていきたいなと思っていて。

――なぜ考えが変わったんですか?

十明:一つのきっかけになったのは、1stアルバムに収録されている「夜明けのあなたへ」という曲です。この曲を長く聴いてくれている人が多いみたいで、「なぜだろう?」と思っていたんですよ。自分の気持ちを個性として押し出すような曲ではなく、誰にでも当てはまるような気持ちを言葉にした曲だったので。だけど「毎朝聴いてる」「帰り道に聴いてる」「ちょっと寂しい時に聴いてる」といった声をいただく中で、「今、私の音楽は誰かの生活の中にあるんだ」「聴く人の生活に寄り添うような音楽だから長く聴いてもらえているんだ」とわかってきて。それもあって、私が学生時代からずっと引きずっているピリピリとしたもの……誰かに対して強い感情を向けたり、一つのことに対してすごく敏感に反応してしまうような自分の性質を曲にするのではなく、穏やかさの中にある喜びや悲しみ、言葉にできないほど細やかな気持ちに寄り添うような曲を作りたいと思うようになりました。

十明 撮り下ろし写真

――そうなると、メロディや音の質感、歌詞の内容も自ずと変わっていきますよね。

十明:そうですね。今までは編曲の段階でインパクトのある音作りをしていただいていたんですけど、今回は「染み込むような音楽を作ろう」というイメージで。少し違うアプローチをしてみました。

――「一人暮らしの女の子のワンルーム」というEP『1R+1』のテーマはどこから?

十明:私はまだ実家で暮らしているので、「一人暮らしってどんなものなんだろう?」と思って。一人暮らしをしている友達の家に遊びに行ったり、本当に一人暮らしをしようと思って一度だけ部屋を見に行ったりしたんです。そこで「あっ、このような感じなんだ」と初めて知って。「自分の世界観のある小さな空間を作り出すって素敵だな」「ちょっと音楽みたいだな」と思ったりもして。そこから次第にEPのテーマが固まっていきました。

――作品のテーマにまでなったということは、ご友人のお家を訪ねて生活を垣間見た経験は、十明さんにとって新鮮なものだったんでしょうね。

十明:今その人が恋をしているのか、していないのかが部屋の空気で何となくわかるんですよ。例えば、大学入学と同時に上京して、もう何年も一人暮らしをしている子の部屋に行った時は、変な言い方になってしまうけど、「ちゃんとしていて、自分一人で生活を成り立たせている感じがするな」「恋愛なしで生活が満たされている人なんだろうな」と思って。だけど恋愛をするのが好きな友達の家に行った時は、わかりやすく男性の影があるとかではないけど、その子一人だけでは部屋の空気感が完成していないような雰囲気を受け取ったんです。その違いが面白くて。

――今作の主人公は、どちらかというと後者のイメージですよね。

十明:そうですね。ちょっとだけ生活に不足感があって、一人でいると何か欠けてるような感じがする子、みたいな。『1R+1』の「+1」は、その部屋から透けて見える自分以外の誰かのことを指しています。“誰かを思っている一人部屋”の空気感を曲にしたいなと思って、このタイトルをつけました。

十明 撮り下ろし写真

「暗い部屋は、逃げ場としてずっと存在してくれているイメージ」

――閉鎖的で内省的な空気を全曲に感じました。日の光が入ってこない部屋というか。

十明:窓が全開で太陽光が入ってくる部屋というよりは、カーテンを閉めて、微妙な隙間から入ってくる光でしか昼と夜を認識できないような、そんな部屋のイメージが強くありました。私自身がそういう部屋に住んでいるから、その空気感が曲にも漏れているのかな。空気も全然入れ替えないし、カーテンもほとんど開けないんですよ。

――暗い場所が好きなんですか?

十明:カーテンを閉めてるのは、太陽の光で日に焼けるのが嫌だっていうシンプルな理由なんですけど(笑)。

――なるほど(笑)。

十明:でも「暗いところが好き」という気持ちも確かにありますね。明るいところにいると、「動け」って言われてる気がするんですよ。活動を催促されているような気持ちになるから、物の輪郭がぼやけるくらい暗いところに逃げたくなる。「体が動かない」「考えもまとまらない」「何もできない」という時に、暗い部屋があると、すごく助かるなと思っていて。逃げ場としてずっと存在してくれているイメージがありますね。

十明 撮り下ろし写真

――その感覚、わかります。社会に出ると成長が求められがちだし、SNSを見るとキラキラした投稿ばかりで、みんな活発に活動しているように見える。だけど人間はいつでもポジティブで活動的でいられるわけではないですよね。明るい場所と暗い場所、表層と深層のギャップは特に現代は大きいなと思いますし、だからこそ「暗い場所、落ち着くな」と私自身も感じます。

十明:そうですよね。停滞を許さない空気感があるというか。変化や動きそのものや、それを人に示すこと、明るみに出すことを常に求められる感覚があります。そういう空気感に対して私は日頃から「怖いな」と思っているんですけど、そういう気持ちが曲にもやっぱり出ているなと思いますね。

十明 - 月並 [Official Music Video]

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