由薫、25歳の現在地と自分自身に向き合う日々 ドラマ『推しの殺人』主題歌「The rose」で手にした気づき

しっかりと「ここに私はいます」と叫ばなきゃいけない感覚が強くあった――。彼女は今回のインタビューでそう話してくれたが、自分を見つめ直して、居場所を探す作業、その答えとして「The rose」という楽曲は生まれた。暗いけれど、光に手を伸ばしている曲というふうに喩えてくれたのだが、由薫の指針にもなり得る楽曲である。自分の感情を信じること、自分の美しさを理解すること。それが自分自身を刻むことになる。そんな気づきをもって、この「The rose」は大衆に届けられるのだ。
「The rose」は、木曜ドラマ『推しの殺人』(読売テレビ・日本テレビ系)の主題歌として書き下ろされた楽曲だ。しかし、その意味をも超え、由薫自身が“由薫”の居場所を記した曲となった。25歳最初のリリースとして、この「The rose」が生まれたことは、これからも続く彼女のアーティスト人生の中ですごく意味のあることのように思う。由薫に、新たに手にした自覚を話してもらった。(編集部)
「The rose」を作る過程で生まれた「自分自身に対する問い」
――昨日、福岡でライブだったんですよね?(取材は9月中旬)
由薫:はい、8月から弾き語りの全国ツアーをしていて。昨日が福岡公演で、夜中に東京に帰ってきました。
――お忙しいですね。
由薫:むしろ去年までのほうが多くのフェスやイベントに出演したりとか、スケジュールがかなりタイトだったかも。今年の夏は、静かな中で自分と向き合う時間が多かったです。
――ご自身と向き合う中で、気づきや学びはありました?
由薫:学びしかないです。弾き語りツアーは初めての試みというのもあって、自分の音楽人生の中でも気づきと反省の連続です。自分の弱さと向き合って「次のライブまでにどう直そう?」とトライアンドエラーの日々です。
――「ここが自分の強みなんだ」というプラスの気づきもありましたか?
由薫:そうですね。ワンマンライブって、アーティストの個性が表れるじゃないですか。人によってはMCを一切しないでクールに終える人もいれば、喋るのがうまくてそれを楽しみにしているお客さんもいる。そんな中、自分はどういうタイプなのかを見つめ直したんです。
――答えは見つかりました?
由薫:今は「自分を大きく見せないほうが私らしいんじゃないかな」って。それを、ちょうど昨日のライブで感じたんですよね。でも、これは私ひとりで気づけたことじゃなくて、スタッフの方が意見を言ってくれたおかげでもあって。弾き語りツアーはひとりぼっちなのがすごく不安でしたけど、むしろみんなで話し合う時間は、今までよりも多いです。
――由薫さんは、10月2日から放送の木曜ドラマ『推しの殺人』の主題歌を担当。オファーをもらった時の心境は?
由薫:まず『推しの殺人』というキャッチーなタイトルに惹かれたのと、原作が第22回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリを受賞されたということで、ワクワクしながら読んだら、とても奥深い内容だったんですよね。「自分が何をしたいのかを見定める」という私の人生のタームとも重なる部分があったので、「新しい表現に出会えるかも」と嬉しい気持ちになりました。今作はトリプル主演(田辺桃子、横田真悠、林芽亜里)で、女性3人が主軸の話なんです。これまでになかった作風の主題歌に選んでいただいたことも、嬉しかったです。


――『推しの殺人』の内容をひとことで言うと、アイドルが殺人を犯し、それを隠蔽する物語です。主人公のひとりである高宮ルイ役の田辺桃子さんは「何が悪で何が真なのか、どれが仮面で、どれが本心なのか。コントラスト高めのヒューマンサスペンスになっている」とコメントされていましたが、由薫さんは作品に対してどんな印象を持ちましたか?
由薫:まさに同じようなことを感じていて。「美しさってどういうことなんだろう?」というテーマが自分の中で芽生えたんですよね。ちょうど原作を読むタイミングで、美しさに対して、ちょっとトゲトゲした感情を持ち始めていて。先ほど言った通り、タイミング的に自分を見つめ直す時間だったりとか、自分と向き合ってどういう作品を出していきたいのかを考える時間でもあったから……たくさん曲を作っていたんですよ。でも、たくさん曲を作ろうとすると、メロディラインのよさとか「今何が流行ってるのか」とか「日本の音楽シーンはこうで、世界の音楽シーンはこうなっていて、そこに適応するにはどうするべきか?」ということもそうですし、とにかく「私は売れないといけないんだ」みたいに考えていた。同時に、自分の居場所をどうやって作ろうかと考えていた時期でもあって。
――大衆に受け入れらる表現とは何か、その中で自分らしさをどう打ち出していくのかを探っていた、と。
由薫:そうなんです。
――「美しさとは何か?」の疑問もそこに通じるわけですね。世間一般の美しさと、自分が思う美しさは何が違うのかっていう。
由薫:はい。すごく華やかに見えるものってたしかに美しいけど、自分はそこを斜めに見てる感じとかトゲトゲしい感情があって。そんなタイミングで『推しの殺人』の原作を読んだ時に、華やかな美しさもあるけど、身を削ってボロボロになっていく美しさもあると思ったんです。私が感じたコントラストは、美しいものの裏にも過酷な労働だったり、搾取だったり、醜い部分がついて回る光と影のようなもので。
――その両方が投影されていることにシンパシーを覚えた?
由薫:そうです。しかも今、世間がどんどん美しさや完璧を求めていってる気がして。表面的な美しさばかりが評価されていることに対して、怒りの感情があったんです。だけど『推しの殺人』は表だけの美しさじゃない美しさが描かれていて、そこに希望を感じました。今回は曲作りを通して、自分自身の棘を見つめ直して、一本一本抜いていく感覚があったのかもしれないです。
――ステージ上でスポットライトを浴びている人って、客席から見ると神々しくて美しく見えるんですよね。でも、強い光を浴びている人ほど、その背後には長く黒い影ができている。その影というのは苦労、挫折、葛藤の表れだと思うんですよね。
由薫:まさに光が強ければ強いほど影が伸びていくっていうのは、どの世界でもあることだと思っていて。この前、映画『国宝』を観て感動したんですけど、この作品も一瞬の美しさのためにたくさんの痛みや壮絶な日々を乗り越えた人たちの話じゃないですか。まさに光が強ければ影も長く伸びる、みたいなことかなと思って。
――そう思います。
由薫:この『推しの殺人』もそのひとつだと思うんです。お客さんに夢を与えるアイドルという仕事の裏で、女の子達の夢が消費されていたり奪われたりしてる。そのコントラストが痛いぐらい強く描かれている。「自分はどう生きていけばいいのか」を問われるドラマでもあるし、私もこの曲を作る中で、自分自身に対する問いをもらった感じがします。
――曲を書くうえで、ヒントになった場面やキャラクターはいますか?
由薫:主人公の3人それぞれが、アイドルになるまでに、コンプレックスとか闇を抱えていて、だからこそ光に憧れてアイドルをしている。それって誰にでもあるよなと思いました。人生って、必ずしも美しい脚本になっていない。どこかで傷つくタイミングが絶対あると思うし、それがその人を構成していくと思うんです。それが曲のヒントになりました。私は、昔からネガティブな感情が自分を奮い立たせてくれていた。何よりも、怒りとか悲しみとか、そういう感情が人間に備わっているということは、生物として生きていくうえで必要な機能だからだと思うんです。そういう暗さを無理やり明るくしたりとか、曲の中で「人生ってこうだよね」という答えを書かないで、ただただ暗くて答えのない曲を作ろうと思ったんです。日本の音楽で、ただ暗くて答えのない曲というのはあんまりない気がしていて。逆にすごく勇気をもらえる曲とか、共感して救われる曲が多い気がする。
――最後は希望に着地する曲が多いですよね。
由薫:登場人物たちも過去の暗い部分を忘れて、美化する必要なんてない。そういう感情とか色をそのまま置いておく曲が作りたくて、「The rose」を書きました。この曲は「美しさを勝手に決めてくれるなよ」という自分自身へのアンチテーゼでもある。それと、真っ暗な曲にしたからこそ、そこに光がきらめいてる曲にも感じました。



















