きゃりーぱみゅぱみゅは全てを糧に表現を続ける ポップとリアリティの共存、無二の世界を届けた出産後初ワンマン

きゃりーぱみゅぱみゅ、出産後初ワンマン

 きゃりーぱみゅぱみゅが、出産後初のワンマンライブ『きゃりーぱみゅぱみゅ ワンマンLIVE 2025 dreamin dreamin』を、東京・LINE CUBE SHIBUYAにて10月25日に開催した。

 2024年10月に第一子の出産を発表したきゃりー。約2年3カ月ぶりのワンマンライブとなった本公演では、妊娠から出産にいたるまでに自身が見てきた夢をステージで表現。切迫流産/切迫早産の宣告という過酷な体験、アーティストと母親という役割の狭間で揺れる感情、そして無事誕生した命の奇跡。のちに「心のジェットコースター(のようだった)」と語る壮絶な日々を描いたステージは、ポップな可愛さとリアリティが共存した、鮮烈で愛おしい2時間だった。

“出産”まで表現したコンセプチュアルなステージ

 この日はあいにくの雨模様だったが、客席は久々の再開を待ち焦がれていたファンで満員。開演前から「きゃりー! きゃりー!」とコールが始まり、期待が最高潮に高まったところで暗転。オーロラのようにきらめく透明なカーテンがステージ全面に垂れ下がるなか、中央の赤いドアがそっと開く。そこから水色のネグリジェをまとったきゃりーが現れ、大歓声に迎えられながらベッドにもぐりこむ。一曲目は、ライブタイトルでもある「dreamin dreamin」(CAPSULE)。きゃりーは妊娠中にこの曲を心の支えとして聴いていたことから、プロデューサーの中田ヤスタカへ直談判し、今回のカバーが実現したという。曲の後半はベッドから出てステージの中心に立ち、妊娠中の感情を表現する赤い衣装のダンサーとともに、キュートなダンスも披露。復帰後も変わらぬキラキラしたパフォーマンスで会場を魅了した。なお、このネグリジェ衣装やステージセットのベッドは、自身の過去の活動のオマージュでもあるとのちのMCで明かされた。

 続いて、テーマパークのワクワク感が楽しい「コスメティックコースター」、1stシングルであり代表曲のひとつでもある「つけまつける」、人と人との絆をテーマにした心温まる「キズナミ」と多彩な楽曲を次々と届ける。客席には原宿系ファッションの若者や親子連れなど、老若男女のファンが集結。ライブが始まると全員がペンライトを振り、きゃりーの世界に心から没入していた。

 「みなさんこんばんは、きゃりーぱみゅぱみゅです! 久しぶりー!」と笑顔で始まったMCパートでは、あらためて出産の報告をしつつ、切迫流産の宣告を受けた当日の夜にライブをやり遂げたこと、その後病院で手術を受けようとしたら心拍が確認できたこと、その後も切迫早産を診断され不安になっていたことを赤裸々に語るきゃりー。そして、「今こうして無事に出産できて、みんなの前に帰ってこられてライブができるという奇跡を、このライブにまとめてみたいと思っています!」と宣言した。

 撮影OKのアナウンスがあった「OEDOEDO」は、これまでのライブで一度しか披露されていないという幻の楽曲。過去披露した際は妊娠中のためジャンプできなかったというが、今回は軽やかに飛び跳ねながら完全版のパフォーマンスを届ける。その後も「CANDY CANDY」「とどけぱんち」「ちゃみ ちゃみ ちゃーみん」などを続けて投下。ライブを存分に盛り上げたところで、きゃりーはバルコニーから一旦ステージの奥へと消えていった。

 ここからはダンサーによるステージが展開され、妊娠から出産に至るまでの激情が生々しく表現された。羊水を想起させるコポコポという水音と、弱々しい心電図の音。「ピー」と長い電子音が鳴り響いたあと、不穏な音楽が会場を包み込み、真っ赤なライトがステージを照らす。きゃりーの感情を表すハートのダンサーは、悲痛な表情で激しく踊り狂いながら、その場に崩れ落ち、床を叩く。不意に赤ちゃんの声が聞こえると、一筋の光が差し込み、心拍が再開。カラフルな衣装に身を包んだ4人のダンサーも加わり、エネルギッシュなステージが繰り広げられていった。

 

きゃりーぱみゅぱみゅは「私の人生そのもの」

 頭にトレードマークの大きなリボン、胸元にはカラフルなエプロンをつけたきゃりーが再び登場。原点回帰と新たなフェーズへ踏み出した今が同居したようなファッションだ。「キャンディーレーサー」で披露したパワフルなダンスや、人生の節目を祝福する「ふりそでーしょん」を歌う晴れやかな表情が、観客の胸を熱くさせていった。

きゃりーぱみゅぱみゅ

 ここできゃりーは、本公演や今後への思いを語るなかで、あらためて妊娠期間を振り返る。なかでも「いちばんメンタル的にきつかった」と語ったのは、妊娠によりスケジュールを白紙にしたあと、切迫流産を宣告された瞬間。「私は母親にもなれないし、きゃりーぱみゅぱみゅでもなくなっちゃったんだと思ったときに、頭のなかが暗くなっちゃって自分のなかに何もないような気持ちになりました。でもそのとき感じた気持ちを、きゃりーぱみゅぱみゅのプロジェクトで活かしたいなと思ってこのライブに行きつきました」。そして、「きゃりーぱみゅぱみゅは私の頭のなかのワクワクしたプロジェクトなんだけど、私の人生そのものでもあって。公私混同してまーす(笑)」と笑顔を見せる。

 ライブ後半は、観客がペンライトの色を手動で変えることで演出に参加した「演歌ナトリウム」、エレクトロサウンドが楽しい「ファッションモンスター」、ファンタジックななかにも切なさが感じられる「もったいないとらんど」など怒涛の勢いでアッパーチューンを展開。クライマックスへ向けて会場の熱気はさらに高まっていく。そして、本編ラストを飾ったのは、優しいワルツの「おやすみ」。きゃりーは再びベッドへもぐりこむと、幸せそうな微笑みを浮かべて目を閉じる。盛大な拍手と可愛い赤ちゃんの声に包まれながら、ステージは幕を閉じた。

 アンコールでは、活動初期の衣装でもあるうさ耳の被り物をして登場。始まりの曲でもある「PONPONPON」、家族の絆をテーマにした「ファミリーパーティー」の2曲をパフォーマンスし、最後までエキサイティングなライブを繰り広げた。

 出産という人生の一大事を乗り越え、さらにその経験をポップでドリーミーな世界に昇華させることで、大きな感動と楽しさを届けたきゃりーぱみゅぱみゅ。「私の人生そのもの」と明言したきゃりーの世界が、人生の歩みとともにどう広がっていくのか楽しみだ。

<セットリスト>
01 dreamin dreamin
02 コスメティックコースター
03 つけまつける
04 キズナミ
05 OEDOEDO
06 100%のじぶんに
07 キミに100パーセント
08 キャンディーキャンディー
09 とどけぱんち
10 ちゃみちゃみちゃーみん
11 キャンディーレーサー
12 み
13 ふりそでーしょん
14 演歌ナトリウム
15 KURU KURU HARAJUKU
16 もんだいガール
17 ファッションモンスター
18 原宿いやほい
19 もったいないとらんど
20 おやすみ

ENCORE
21 PONPONPON
22 ファミリーパーティー

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