水平線が目指す場所、鳴らすべき音楽、なるべき姿 変化と決意の夏――新曲「エンドレスサマー」を語る

水平線がなかったら、きっと曲を書く人生にはなってない(安東)

――安東さんは誘われた側ですけど、当時の心境は?
安東:なんとなく自分で音楽を作ることに興味はあって。ただどうすればいいかわかってなかったんですよ。「バンドを組みたい」と漠然と思っていたところに声が掛かったので、普通に嬉しかったですね。
――ということは、水平線が結成されるまで曲を作ったこともなかった?
安東:なかったです。遊びながら、自分でメロディを作ったりはあったけど、曲を作ったことはなかったですね。だから、バンドを結成したから曲を書かなければいけなくなったというか。バンドがあるから曲を書く、みたいな。水平線がなかったら、きっと曲を書く人生にはなってないですね。
田嶋:僕もオリジナルをやりたいと思っていたわりにはあまり作ったことがなかったですね。水平線を始めてから本格的に作り始めましたね。1曲くらいしょうもない曲があったかもしれないですけど……それは、制作歴にはカウントしないので(笑)。
――(笑)。そこから水平線として飯を食っていくというか、明確に「こういうバンドを目指すんだ」と決意したのはいつ頃のタイミングだったんですか?
田嶋:やっぱりコロナ禍は大きなきっかけだった気がします。それぞれが社会人になっていくなかでコロナ禍がやってきて、「アルバムを作ろう」ってなったんですよね。そこが転換点かな。
安東:そうやな。2023年か。
田嶋:そうそう。全員が仕事を辞めた時に、「アルバムを録ろう」って。そこがターニングポイントかなと思います。
――そこで音楽で生きていくことを決めた?
安東:それは、もう少し前に腹を括ってた気がします。それこそ、田嶋が大学を卒業するタイミングで「就職しない」って言うたんですよ。バンドでひとりだけ就職してない奴がおってもしゃあないやん、って(笑)。それじゃあどうにもならんやろと思ったし、僕も仕事とバンドを天秤にかけたらやっぱりバンドをやりたかった。水野くんと無限くんはまだ仕事をしていたけど、僕は仕事を辞めて。田嶋と「ふたりでできることをやろうぜ」って、曲を作ったり、弾き語りで活動をしたりとかして、音楽に時間を割いていって。でも、いつかは水野くんも無限くんも仕事を辞めてバンド一本にしていこうって。2022年には、そう決めてました。
――水平線は、ツインボーカルという武器を持っているバンドで。そこに着地したのはどういう背景があったんですか?
田嶋:それは成り行きかな。サークルでいろんなコピーバンドをしていたんですけど、そこで「(田嶋と安東のボーカルの)どっちもそこそこええ感じですやん!」って(笑)。
安東:ね(笑)。歌えるし、リードプレイもできるし。
――(笑)。実際にやってみて、手応えはどうですか?
田嶋:ツインボーカルが面白いという声は結成当初からいただきますね。どっちかがメインで歌っている時に、がっつりハモれるんですよね。両方ボーカルやからこそ、添えるというよりも、ふたつの声として前に出てくる。鍵盤もいないし、シンプルな楽器編成ですけど、声があるからこそサウンドに厚みが出せるのかなと思います。手応えとしてはいいですよね? いまだに研鑽中ではあるんですけど。
安東:そうやな! これを極めていけばいいんじゃないかと思います。
――男性ツインボーカルのバンドって、あまりない編成だと思うし。
安東:どちらかが結局メインになるパターンはあったかもしれないけど、僕たちはふたりともメインで歌うし、それぞれが曲を書けるし、書く曲の色も全然異なる。ただ、どちらかが書いても水平線として通ずる部分はあると思う。そこは面白い部分だなと思います。

――ここからは最近の話をしていこうと思うんですけど、2025年は水平線にとって、飛躍の年になっていると思うんです。「エンドレスサマー」で3作目のリリースとなって、今年は『SUMMER SONIC』、『SWEET LOVE SHOWER』と大型フェスにも出演しましたし。それを経て今おふたりが感じている手応えはどのようなものですか?
田嶋:もともと自分もメンバーもフェスに遊びに行ったことがあまりなかったんですけど、実際に自分たちが舞台に立って、メインステージでライブをするアーティスト、そこでライブを観るお客さんの姿を目の当たりにして、「こんないい空間があるんや」って。それこそ洋楽かぶれの危険思想が根にある僕は「楽しいだけではアカンやろ」という思想が強かったんですけど、演者目線から見るとあのデカさにならないと表現できないかっこよさがあると思ったし、お客さん目線では純粋にフェスを楽しんでいるエネルギーがあって、そのふたつが共鳴してこんな素晴らしい空間ができあがっているんだと目の当たりにした感じがあって。
――意識が変わるきっかけになった?
田嶋:そうですね、拗らせていた考え方が少しずつ解れた気がしました。ある種のカルチャーショックというか、水平線もあの場所を目指したいなと思った。
安東:たしかにそうよな。一体感を『サマソニ』と『ラブシャ』で目の当たりにして、自分たちがやりたいこともこれやなと思った。漠然と盛り上がったらいいなと思っていたものがちゃんと言葉にできる、そのきっかけをもらったというか。大きいステージに立つには、ライブの作り方、曲のアレンジ、音楽の部分で何が必要なのかを勉強した夏でしたね。
――水平線に何が必要なのか、言語化できますか?
安東:オープン感ですかね。いままで、どちらかというと自分たちが楽しむマインドだった気がするんです。お客さんには楽しむ僕らを観て楽しんでもらえたらいいという考え方で、視線が内側に向いていた。でも、大きいステージに立つアーティストを観ると、外に視線が向いているように感じて。決してそれだけではないと思うけど、共通してみんながそうだったから、水平線もそれができるようになってからが勝負なのかな、と。それができないとあのステージには立てへんのかなと感じました。
田嶋:夢見た舞台ではあったけど、出たら出たでそこで終わりじゃないし。さらに上のステージを目指さないといけない。勉強しに行ったつもりはなかったけど、いい意味で喰らったっすね。
――学びのあった夏を経て、今ふたりは水平線をどんなバンドだととらえていますか? パブリック的には、はっぴいえんどを筆頭とする日本のフォークロック的な情感と、OasisをはじめとするUKロック的なギターサウンドと形容されることが多いと思いますけど。
田嶋:今年リリースした曲を考えると、関わってくれる方が増えたことでいろんな意見をいただけるようになり、その意見と向き合いながら、年始からシングル、EPとリリースして、そのあとに初めてのタイアップ「たまらないね!」(テレビ東京 ドラマ25『晩酌の流儀4 〜夏編〜』OPテーマ)で何かをモチーフに作ることを初めて経験して。そこを踏まえると、新しく得たエッセンスとこれまで培ったものや地でやっていたもののエッセンスを混ぜていくターンやなと。立ち返りつつ、前に進みつつというフェーズがやってきた。挑戦したことで自分たちがいままでやってきたことが浮き彫りになった感じがあって、そこのバランスを探ってるバンド。めちゃくちゃ探り中です。ここから生まれるものが、これからの水平線の指標になる気がする。
――それは、田嶋さんが考えていたバンド像と変化していってる?
田嶋:変化している感覚はそこまでなくて。洗練されたものにブラッシュアップされながらも、もともと持っているよさ、いなたさみたいなものを出すことにチャレンジしていっている。変わらないまま変わり続けるというのはひとつのテーマとしてあるので、もちろん変化してる部分はあると思うけど、それと同時に自分たちも変わっているから、相対して変わっている感覚はないというか。みんな、ハートはそのままなので。
――根幹を変わらず、そこにいろんな要素を上積みしていって分厚くなってる感覚?
安東:そうですね。僕も変わり続けるバンドでいいと思ってます。バンドのテーマとして“旅するロックンロール”と謳っていたりするし、根幹にあるものは共通しているけど、それぞれがいろんな形でアウトプットを続けていく。それがある意味では、旅とも通ずると思うし。いろんなものを吸収して、それが積み重なることがバンドとして健康的だと思うし、一本の軸をぶらさなかったら水平線として成立する気がしてます。喩えるなら、今は船にいろんなものを乗っけて旅を続けている感じというか。


















