粗品「怒りの感情で自殺を止めたい」 本名を冠した新アルバム『佐々木直人』で通したたったひとつの“筋”

粗品「怒りの感情で自殺を止めたい」

「俺が世直ししないとって思いますね」

粗品『佐々木直人』インタビュー

――以前インタビューをさせていただいたとき、記憶に残っていることがありまして。いじめにあって悩んでいた“みどりちゃん”の相談に乗って、カメラが回っていないところで「どうしたら学校に通えるのか」をみどりちゃんのご家族と親身に話し合っていたこともそうなんですけど、「なぜ、そこまで救いの手を差し伸べようとするのか?」とお聞きしたんです。先ほど言った「自殺をします」とDMを送ってくる人だって、粗品さんが言ったように「本気でそう考えているんじゃなくて、ただ言いたい人だけのケースも多いですよね?」って。そしたら粗品さんは「そうなんですけど、1%でも死を選んでしまう可能性があるんやったら、やっぱり僕は見捨てられない」と言っていたんですね。「だから連絡をもらったら、無視できない」と。

粗品:うんうん。

――そんな方が自殺しようとしてる人に強い言葉を向けるのは、とても大きな心境の変化だなと。

粗品:止められなかったから、というのが大きいですね。ひとり死んでしまったから、このスタンスで。まあ……飯に行ってやれるわけでもないんでね。「朝影の宝石」は割とストレートに自殺を止める曲ですけど、もっと限界の人にはこっちの方が刺さると思って挑戦してみました。根幹には「1%でも本当に死にたいと思っていたら、なんとしてでも助けたい」と思う気持ちは、今も残ってはいるんです。アプローチの仕方としてあえて厳しく言ってみようか、って感じですね。

――そうやって救いの手を差し伸べたり、人生に悩んでいる人の気持ちに寄りそったりする曲がある一方で、「粗品のテーマ」はすごいですね。

粗品:(手を叩きながら)ハハハ、オモロいですよね。レコーディングが終わって、みんなで笑っていました。

――「宙ぶらりん」では対芸人さんに向けて好戦的なことを歌っていましたけど、今回はさらに対象を広げていて。

粗品:うん、言うたら対象は全員というか。芸人もそうやし、俳優、アーティスト、テレビ関係者、スタッフ、そして一般人にも目を向けて全員に攻撃する歌になりました。

――これを「粗品のテーマ」と名付けたのは?

粗品:テンポダウンしてメタル風になるところを、いちばんやりたかったんです。最初にデモを作ったときは〈お前の事誰が好きなん?〉とか、僕がセリフでわーっと言っているところの歌詞は決まってなくて。ラップみたいな感じにしようかなとか、シャウトしてデスボイスみたいな感じで歌おうかな、とも思っていたんですけど、どれを当てはめても「誰誰みたい」ってなるんですよね。ミクスチャーの音楽って日本ではあんまり浸透していないからこそ、特定の有名な人が思い浮かんで「粗品は○○の真似をしたな」となると思った。自分にしかできへん方法は何かなと考えた結果、思いついたのがツッコミの口調で暴言を吐くこと。〈ええ加減にせえよコラ〉と言うのは僕に似合うし、それを音楽に落とし込んだ曲を聴いたことがない。〈は~いこんにちは〉〈ただぁ!〉〈お前の事誰が好きなん?〉のオンパレードは僕にしかできない。なので、曲名もそのまま「粗品のテーマ」にしました。

――素晴らしいのが、言葉を発してる箇所も音楽のリズムになっているんですよね。

粗品:その感想は嬉しいっすね! 僕、こういうのは得意だったんですよ。お笑いでも音楽を流して漫談することもやってきたんですけど、拍に合わせてセリフを言い切るのとかが好きで。顕著なのは〈いや図星やから病気なったことにしたのバレてますよ〉を3連符で言ってるところ。3文字ずつの一文にして、あんなにスッと入る言葉も珍しいと思うんです。まさにリズム感は意識しました。

――粗品さんの“尖り”の部分でいうと、「毒棘スウィングノート」もそうですね。

粗品:復讐心を向けて人に強く言うのも自分らしい音楽だと思って、攻撃的な歌詞を書きました。この曲はゴスペルなんですよね。それを3ピースバンドがひとりの声でゴスペルをやるのも尖っている。“復讐ゴスペル”という、新しいジャンルの音楽を作れて嬉しかったです。

――「粗品のテーマ」や「毒棘スウィングノート」は粗品さんの強者的な側面を感じますが、その裏にある孤独や心の脆さが「惑乱竜クレイジア」で描かれているように思いました。

粗品:おっしゃる通りです。1stアルバムのときは、言葉で形容できる筋が通っていました。「みんなを救う」「優しい」みたいな音楽だったんですね。ただ、今回のアルバムは12曲ともバラバラなんです。それこそ強者的な曲だったり、脆さの曲だったり、変な曲があったり。アルバムのコンセプトとして、言葉で形容できる筋は通ってないんですよ。でもひとつだけ『佐々木直人』という筋だけが通っていて、僕が本当にやりたい曲だけを集めた。これは筋と取るに足る大きな理由だと思っていますし、本名をタイトルに掲げているように、人間だから強い部分もあれば弱い部分もあって。この「惑乱竜クレイジア」は脆さの部分を曲にしました。

――ちなみに「惑乱竜クレイジア」を含めて、12曲中5曲に「世界」「今世」とか世界を表した歌詞が入っていまして。

粗品:え、そうなんですか(笑)! それ、気づかなかったです。

――粗品さんが歌う世界ってなんですか?

粗品:要は芸能界ですよね。クソやなって思うことが多いし、飽きているんですよ。「どうなっとんねん」と思うことが多いので、それを音楽にぶつけています。

――どこに怒りを感じますか?

粗品:自分が身を置いている仕事の環境ですね。ほんまに汚いんで。「毒棘スウィングノート」に〈信者は絶句「良い人だと信じてたのに」〉って歌詞がありますけど、表でいい顔をしている好感度の高い歌手とか俳優も、裏ではめちゃくちゃだし、弱い者いじめとかそういうのも結構見る。そんな世界に対してキモいなって思いがいちばんですね。

――そこに対して、果敢に一石どころか二石も三石も投じてる。

粗品:うん、やっぱり戦わないと。俺が世直ししないとって思いますね。

音楽を通して届ける“母への手紙”

粗品『佐々木直人』インタビュー

――先行配信された「ビームソードで斬れたらいいのに」は「ビームが撃てたらいいのに」と対比になっているようにも感じるし、曲単体としても心に沁みるカッコよさでした。

粗品:僕の音楽は「ビームが撃てたらいいのに」から始まっているので、『佐々木直人』というアルバムを作るにあたって、2回目のスタートを切る気持ちで、初期作をオマージュした曲を作りたいと思いました。僕、自分で自分の曲に似ている曲を作るとか、歌詞を引用するのが好きなんです。でもね「2曲を同時に流したらハモって聴こえる、すげえな」とファンの人から言われたんですけど、それはちょっと褒めすぎというか。

――褒めすぎ?

粗品:そのつもりでは作っていなくて。いや、そう思うのは分かるんですよ。コードとBPMと小節が一緒なので、自ずと綺麗に聴こえる。でも、それを狙ってやろうと思ったらもっとできるから。どちらかと言うと、単体で聴いてほしい曲です。

粗品 - ビームソードで斬れたらいいのに

――様々な側面を表現した楽曲が並ぶなか、特に粗品さんのパーソナリティを感じたのが「直人とお母さんの歌」でした。

粗品:1stアルバムで「はるばらぱれ」というお父さんへの歌を作ったんですけど、父ちゃんが死んだときに「もっと、ありがとうって言っとけばよかった」と後悔したんです。同じく母ちゃんにもあんまり感謝を言えてないな、と思ってこの曲を作りました。

粗品 - 直人とお母さんの歌

――お聞きしたい歌詞がふたつあって。ひとつは〈愛されすぎて 間違わず育った直人が/恵まれてるって 気づいたのは最近だった〉の箇所。一体、どんなきっかけでそう思ったんだろうと。

粗品:僕ね、人に対して「みんな親孝行しようぜ」と押し付けていたんですよ。それが年を重ねていって、孝行する価値がない親もいることに気づいた。毒親だとか虐待をされていたとか、酷いことをされて愛されずに育った方もいる。そんな人がいることを僕は知らなかったんです。愛されて育てられるのが普通やと思っていたんですけど「これだけ愛されてきた俺って、ラッキーなんだ」「幸せなんだ」と大人になってから、いろんな人と触れ合うことで気づいた。それが歌詞に繋がっています。

――もうひとつ気になるのが〈俺の腎臓あげるからね/だから、だから、頼むから、死なんといてくれ!!!〉のフレーズです。これって、どういう意味ですか?

粗品:僕が中学生のときに、父ちゃんが腎臓を悪くして透析生活を送っていたんです。それで、このままだと向こう5年以内に必ず死にます、と言われて。「どうしたらいいですか?」「腎臓移植をお勧めします」となったときに、当時の腎臓移植って今よりもドナーの数も少なくて、順番待ちがエグかったんですよ。中々できないし、お金もかかる。海外に行ってどうこうするのも難しいとなったときに――まあ、ここからはセンシティブな話になりますが、腎臓移植って家族が腎臓を提供するパターンがほとんどなんですね。なぜ、ドナーが見つからないのかっていうと、体に合う・合わないがあるから。移植するためには何項目も数値があって、それが全て合致していなければいけない。あとは、(親族以外から移植を受ける場合は)移植施設の倫理委員会と(一般社団法人)日本移植学会の承認が必要。でもね、血が繋がっていたら移植のハードルが低くなるんです。

粗品『佐々木直人』インタビュー

――両親か兄弟(血縁者(両親・兄弟姉妹・子供など6新等以内の血族))、または配偶者と3親等以内だったら、ということですね。

粗品:父ちゃんの親はどっちも亡くなっていて、頼れるのは4人の兄弟だけでした。だけど、誰も腎臓をくれなかった。倫理的には提供してもいいけど、拒否してもいいんですよ。どっちが正解とかはないんです。でも「腎臓をあげへん」と言われた側の僕からしたら、これはよくない考えかもしれないですけど「いいからくれや!」と思ったんです。「腹立つな! 血を分けた兄弟のくせになんやねん!」って。そんななか、母ちゃんが「私の腎臓を父ちゃんにあげる」と言ったんです。医者からは「いやいや、家族と言っても血が繋がってないから無理ですよ」と断られて(※当時、夫婦間の組織適合性の問題は大きく、成功の可能性も低かった)。せやけど、母ちゃんは「いや、あげたいです」って。「じゃあ、検査してください」と言われて、検査したら奇跡的に全部の数値が合致した。まるで血が繋がっている人かのような、運命の腎臓だったわけです。こんなこと、ほんとに稀らしくて。それで、母ちゃんは父ちゃんに腎臓をあげるんですよ。

 今でも忘れないですけど、ベッドに横たわった両親。ふたりが同時に手術室に運ばれて、僕はひとりで病室の外からその背中を見ていました。あの一瞬は目に焼きついています。もちろん大手術なので、ふたりの親を同時に亡くすかもしれない。「もし手術が失敗したら、俺は中学生にして父ちゃんと母ちゃんのどっちもおらなくなるんや」って思いながら見送ったんです。

――壮絶な体験ですね。

粗品:手術は無事成功しましたが、父ちゃんは癌になってしまって数年後に死ぬんです。僕が高校生のときでした。父ちゃんは母ちゃんの腎臓を持ったまま死んだんですよ。人間には腎臓がふたつあってね、ひとつでも生きてはいけるんです。今、母ちゃんはひとつの腎臓で頑張って生活をしている。でも大変なんです。分かりやすく言うと、酷い風邪を引いたら死ぬかもしれない。医者には「安静に過ごしてください」って言われているけど、母ちゃんは父ちゃんが残した焼肉屋を守るために毎日深夜まで立ち仕事をして、病院へ行くたびに「腎臓が疲弊しています」と怒られたりして。今72歳で結構いい年なんですよ。

 それで、少し前に久しぶりに会ったとき、急に「私はいつ死ぬか分からんから、直人も母ちゃんに任していることとか、いろいろとひとりでできるようにしいや」と言われて。別に病気になったとかそんなんじゃなくて、ふと言われたんですよ。僕、めちゃくちゃ泣いてもうて。「なんでそんなこと言うん……」ってめっちゃ悲しかった。でも「確かにそうか、母ちゃんもいつか死ぬぞ」と。もし苦しいってなったときに、俺は自分の腎臓をあげる。その約束を母ちゃんに言えてなかったんですけど、この歌で初めてしました。母ちゃんは絶対に断ると思いますが、何を言われようが「俺があげるって決めたんで」という歌詞です。

――まるで手紙のような1曲ですね。

粗品:まさしくそうです。最初は手紙風にしようかなと思ったぐらい、自分の今の思いを詰め込んだ歌ですね。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる