ラランド サーヤ、霜降り明星 粗品……気鋭ミュージシャンとタッグを組む芸人たち お笑いと音楽が生み出す“グルーヴの親和性”
お笑いコンビ、ラランドのサーヤがCLR(クレア)名義で作詞作曲とボーカルを担当し、晩餐こと川谷絵音(Gt)や春日山こと休日課長(Ba)らと共に結成した5人組バンド、礼賛が1stアルバム『WHOOPEE』を1月18日にリリースした。川谷と共にさまざまな現場でレコーディングを経験している名うてのプレイヤーが織りなすロックやジャズ、ヒップホップなどのジャンルを越境するトラックはもちろん、ラッパー、シンガーとしてのサーヤのスキルがとにかく圧巻で、「芸人とは思えない」などといった枕詞など一切不要のクオリティにただただ驚かされる。
礼賛の結成は、川谷が作る楽曲をさまざまなボーカリストが歌うプロジェクト・美的計画にサーヤを招いたことがきっかけだった。それ以前から川谷は彼女の歌声をテレビ番組などで耳にし、その実力を高く評価しており、サーヤもことあるごとに「(川谷に)曲を作ってほしい」などとアピールをしていたというから、バンド結成はいわば相思相愛の形で実現したわけだ。
以前、筆者が礼賛のインタビューをした時、サーヤは自身の音楽的ルーツについて「特にルーツと呼べるようなものはないんです」と断りながらも、ニーヨやビヨンセ、マイケル・ジャクソンなど親が聴いていた洋楽アーティストを「なんとなく聴いて」いたのが最初の音楽体験だったと述べていた。
「自分で掘るようになってからはロックもアニソンも演歌もK-POPも、とにかく見境なく全ジャンル聴くようになりました。中高生の頃は、有志で集まって『天使にラブ・ソングを…』みたいな、ゴスペルを歌ったりもしていましたね」(※1)
例えば「愚弄」という曲では、先輩芸人の〈かまいたち〉や、おそらく相方・ニシダのことを指すのであろう〈私の隣はクズでゲス〉など、“お笑い芸人 サーヤ”ならではのワードをリリックに散りばめ、舞台に立つ芸人としての緊張感を「橋は焼かれた」などと表現。かと思えば「Mine」では、彼女の作り手としての個人的な苦悩や葛藤を、リスナー誰もが多かれ少なかれ抱くであろう普遍的な感情へと昇華している。
「リリックの中に、どれだけ自分のリアリティを込められるか?」がラッパーとしての腕の見せどころの一つだとすれば、自分の人生をまるでリアリティショーのように“エンタメ化”し、それをメタで楽しんでいるようなサーヤの表現は彼女にしかできないものであり、ジム・キャリーに憧れ『トゥルーマン・ショー』がフェイバリットムービーと公言しているのも頷ける。ちなみにアルバムのリード曲「TRUMAN」は、いうまでもなくサーヤが『トゥルーマン・ショー』にインスパイアされて作られた楽曲だ。
サーヤのみならず、ここ最近はお笑い芸人が気鋭のミュージシャンと手を組み、本格的な音楽活動を行うケースが増えている。記憶に新しいところでは、霜降り明星の粗品が2021年1月、自身のYouTube公式チャンネルで前年の5月よりアップしてきたオリジナルのボカロ楽曲8作品を配信リリース。それを契機に、自ら立ち上げたレーベル soshinaから第一弾作品「乱数調整のリバースシンデレラ feat. 彩宮すう(CV: 竹達彩奈)」を同年3月31日に配信リリースした。ギターにRei、ドラムに石若駿を迎えて本格的なバンドサウンドを展開しつつ、作詞・作曲・編曲だけでなくプロデュースまで全て粗品が手がけて大きな話題となった。
2歳からピアノを習い始め、かつては指揮者を目指したこともある粗品。他にもまらしぃと「とある霖雨」、花譜と「サンパチスター」を共作したり、自身の28歳の誕生日である2021年1月7日にリリースした「Hinekure feat.初音ミク」ではギターもプレイしたりと、アーティストとしての才能を遺憾なく発揮し続けている。
他にも、かまいたちの濱家隆一が生田絵梨花とダンスボーカルユニット・ハマいくを結成し、昨年11月にデビュー曲「ビートDEトーヒ」を配信リリースしている。これは、同年9月24日にNHKホールで公開収録された特別番組『Venue101 EXTRA』内で初披露された楽曲で、作詞・作曲は「なにやってもうまくいかない」でメジャーデビューを果たし、CM音楽や楽曲提供なども手がけるmeiyoが担当。濱家と生田をイメージして作ったというSota(GANMI)の振り付けとともに話題となった。