粗品「怒りの感情で自殺を止めたい」 本名を冠した新アルバム『佐々木直人』で通したたったひとつの“筋”

粗品「怒りの感情で自殺を止めたい」

 お笑い芸人だけでなく、アーティストとしても活動する粗品(霜降り明星)が、前作から1年半ぶりとなる新アルバム『佐々木直人』をリリースした。自身の本名を冠したタイトルの通り、“粗品にしかできない音楽”を詰め込んだ全12曲のロックンロールアルバムとなっている。

 リアルサウンドでは、本作に込められたメッセージの核心に迫るべく粗品へインタビュー。1stアルバムリリース後の経験で変化した楽曲へのアプローチ、変わらぬ音楽的挑戦への意欲、ライブ活動との向き合い方など、幅広く聞くことができた。“死”と“怒り”、そして“優しさ”に彩られた本作に関する対話を通じて、“アーティスト・粗品”の本質が浮かび上がる内容となっているはずだ。(編集部)

「今まではロックンロールをやりにいってた」

粗品『佐々木直人』インタビュー

――2ndアルバム『佐々木直人』は、これまで以上に音楽性の幅が広がっていて、歌詞の内容も含めて大きな変化を感じました。

粗品:ありがとうございます。アルバムのテーマとしては“自分らしい音楽”をやりたい、という思いがいちばんにあって。今まではロックンロールをやりにいってたんですけど、今や“ロックンロール”って言葉の意味が広くなって、ロックじゃない奴に対しても「お前ロックやな」と言う場面も目にしてきたし、大衆化されてきた。それだったらロックに固執するのも微妙だなと思ったし、やりにいってた自分もカッコ悪いなって。革ジャンを着たり、わざとアイメイクをしたり、リーゼントみたいな髪型でライブもしていたのですが、ライブを重ねるうちに「自分にしかできへん音楽ができたら素敵だな」と思ったんですよ。それで「自分にしかできない音楽って何なんだろ?」というのが今年のテーマだったりして、それをアルバムでも出したいと思ったんですね。

 『佐々木直人』というタイトルにしたのも「自分らしい音楽にしたい」という気持ちの表れです。1stアルバム『星彩と大義のアリア』は聴いている人に寄り添うような、ひとりでも多くの人が救われてほしいと思いながら作った曲が多かったのですが、今回は前作ほど寄り添わずに、どちらかと言うと自分本位な12曲になりました。

――以前、僕が『星彩と大義のアリア』のインタビューをさせていただいたときに「優しさが多めの1枚になった」と言っていましたよね。今回はどんな要素が出ていると思いますか?

粗品:前が“優しさ” だったら、今回は“尖り”ですかね。そもそも僕はお笑いで救えなかった人を救いたいから音楽を始めている、というのが理念にありまして。その考えのもと『星彩と大義のアリア』を作りました。でも、今回はそんなに救う気持ちはなくて。基本は「自分を見てくれ」「歩み寄らないけど、これでもいいならついてきてよ」みたいなニュアンスですね。尖りと言ったのは音楽的な要素。尖っている言葉もあるんですけど、それ以上に音楽のテクニカルなことだったり、尖った曲構成もふんだんに取り入れて、僕が好きな感じの1枚にしました。

――先日MVが公開された「告白」は、歌詞に救いの要素がありつつ、ロックやスカやスラッシュメタルなど、演奏で表情の変化をつけているところに攻めの姿勢を感じました。

粗品:ハイブリッドな感じですよね。歌詞はできるだけいろんな人に向けた、今回のアルバムでも珍しい曲になっていて。元々ああいうMVを作りたかったので、Aメロとサビの繰り返しを飽きさせずに聴かせなあかんなって思いました。演奏のアレンジで言うと1番は普通で、2番はスカの裏打ちで、3番はツービートになっていて。これもベタだとは思いますが、なんとなく変化をつけることを意識しましたね。

粗品 - 告白

――歌詞にはどんな思いを込めたのでしょう?

粗品:僕らしい音楽は何かなって考えたときに、粗品がどんな人間なのかが、僕の音楽を聴く前から周知されていることって、異常な状態だと思ったんです。「僕という人間が歌うから、説得力あるよね」「粗品が歌うから意味があるな」というのは、僕のアドバンテージ。そんななかで、「告白」は「嫌なこともあるけど大丈夫、頑張ろうぜ」みたいな応援ソングなんですけど、今までの曲と違うのはメタ的な歌詞になっているところ。漫才をしながら漫才のことをいじる、みたいな。それこそ〈この歌を以て全部過去になった!〉というのは非常にメタ的で、ちょっと側から言っているんですよね。粗品という人間が無理やりそうしたから、この曲を聴いているあなたがどう思おうが、どうくよくよしてようが、「悪いけどこの歌を聴いた時点で、もう過去になったから。全部消し飛んだから」って。それは僕にしか言えへんかなって思う。もしくは僕が言うから意味があるかな、って曲ですね。

――「告白」をはじめ、粗品さんの歌詞はどういう人を救いたいのかが解像度高く書かれているし、的確に聴き手の琴線に触れている。これって、どうしてなんでしょう?

粗品:ファンの方との距離が近いのもあると思います。お笑いの土俵ですけど、投げ銭をしてくれた相手を認知した上でライブをする、というシステムを作っていて。芸能人にしてはファンの人のことが、よく分かっている方だと思うんです。

――アカウント名を聞いただけで、その方のエピソードが次々に出てきますもんね。

粗品:名前を聞いたら顔が出てくるし、どんな人なのかもすぐに思い出せる。たまに悩みを投げかけてくる方もいたりとか、その相談に乗ったりして。そういうので解像度が高いんじゃないですかね。常日頃、ファンと触れ合っているからだと思います。

“自殺”へのアプローチの変化

粗品『佐々木直人』インタビュー

――「死にたい」とか「生きてるのが辛い」という悲痛な思いを持っている人が、「粗品さんの存在や音楽に救われた」と書いているのを、MVのコメント欄やSNSでよく見かけます。そういったリスナーに対して、ご自身の音楽のあり方をどう考えていますか?

粗品:最初は「全部救うぞ」と意気込んでいたんですけど、少し考え方が変わりまして。それこそ「死にたい」と言っている人をお笑いでは止めにくかったから、自分なりの応援歌で「生きているだけで偉いんだ」というメッセージを込めた曲を、これまでは出していたんです。だけど、僕の音楽を好きで聴いてくれていたファンの人が自殺したんですよ。その子の友達が「生前は粗品さんの曲に救われていました。でも、いろんな事情で自殺しちゃったんです」ってDMと亡くなった子の写真を送ってくれたんですけど、それを見たときに僕は全く嬉しくなかったんですよ。だって、力及ばずだったわけじゃないですか。「あ、死んだんや……」と思って、それを機にちょっとだけ考え方が変わったんですよ。音楽にも限界はあるなって。しんどいときは死んでまうよなって。そう思って悩みながら、今は全部救うという感じではなくなったんですよね。

 その子とは別で、今回は自殺に特化した曲を1曲だけ入れたのですが、基本はあんまり救うことを意識せんでもええかなって。どっちかって言うと、僕の曲を聴くということは僕のことは好きでいてくれているんだから、自分のやりたい音楽をやるよ、と。その様を見て勝手に救われてください、っていうスタンスになりました。もちろん手は差し伸べるし、優しい言葉も言うけど無理はしない。自分が好きな音楽、自分がやりたいことをとにかくやっているので、見といてくださいっていう。

――自殺に特化した1曲というのは「朝影の宝石」ですか?

粗品:ああ、確かにそれもそうですね。「朝影の宝石」は死にたくなったときに聴いてくれって曲で、もう1曲「はらぺこジョアンナとマラフーテのたまご」があるんですけど、これは今屋上に立っている人に「キモいなお前!」と投げかけていて。それを聴いて考え方が変わってくれたらいいと思って書きました。この2曲はバリバリ“生き死に”にかかわる曲ですね。

――「はらぺこジョアンナとマラフーテのたまご」は、演奏や歌の構成も含めて異様なテンションを放っていますよね。

粗品:ちょっと重い話が続きますけど、言うたら自殺がテーマになっていて。当然、自殺を擁護しているわけでは全くなくて、むしろ「しょうもないから止めろ」という曲です。自殺をするときの精神状態や異常な環境とか、自分自身のいろんな人格みたいなのを再現したら、ああいう音楽になりました。何が面白いって、僕の声色が4から5種類に変わっているところもそうですし、演奏中に音が消えるところですよね。

――プツっと音が消えますよね。

粗品:EDMとかジャズの世界ではよくある手法なんですけど、3ピースバンドではやらんよなって。しかも3.5拍や1小節丸々じゃないところとか、歯切れが悪い間もあるんですよ。もうちょっと言うと、コードもかなり凝っていて。サビは同じフレーズなんですけど、4回コード進行を変えてみたりなど、おっしゃった通り構成は歌詞の意味に負けないぐらいトリッキーな曲になっていて、すごく気に入っています。

――いきなり演奏も歌も止まる間には、大きな意味を感じるんですよ。

粗品:また、ちょっと深い話になりますけど、1人の準公人として自殺をしようとしている人は止めたいんですよ。まあ、当たり前じゃないですか。でも止められなかったのがあって。

粗品『佐々木直人』インタビュー

――先ほどの話ですね。

粗品:はい。今でも「自殺に失敗しました」みたいなDMをよくもらうんです。中には病院の診断書を送ってくる人もいて。「飛び降りに失敗して骨が折れて、今は入院しています」と。それがほんまかどうかは分からないですけど、それを聞くたびにめっちゃ腹が立つんですよ。なめんなよって。最近「ちょっと自殺したいです」と言ってくる奴がかなり増えたんです。それこそ、僕がそういう人に対して優しく接しているからなんですけど。これはライブでしか喋ったことがない僕の死生観ですが、「今、俺はそういう人たちに厳しい目を向けないといけないフェーズに入るべきじゃないか」と危機感を覚えたんです。9割9分は「大丈夫やで」と言ってほしいだけの奴だと思う。言うのは全然いいですけど、あまりに命を軽んじている奴が多すぎる。そもそも自殺する気がないのに「自殺します」と言っている奴もいる。逆に、本気で自殺しようとして「失敗しました」と連絡してくる奴もいる。そいつらに言いたいのは、「若くして父ちゃんを亡くしている俺に、よくそれを言うな」と思うんですよ。人の生き死にに対してすごく敏感で、身内が死んで悲しい思いをしたことがある俺に「ちょっと自殺しようとして、失敗しました」はなめすぎだろって。この怒りの感情で(自殺を)止めたいと考えたんです。

 この曲は自殺を今にもしようとか、一瞬でもよぎった奴に「自殺って怖いし楽にならんぞ」という説教ですね。そんなしょうもないこと考えるな。オモロないねん、つまらんねんお前って意味で作りました。曲が進行していくなかで、いちばん最初に音が消えるところは、聴いている人をビックリさせたかったんですよ。「自分は何を考えていたんだろう」とハッとさせたかった。歌詞で〈さよなら〉と言って音が止まり、〈嘘まだ行かない〉と命をもて遊んでる描写があるんですけど、〈さよなら〉と言われて逝かれた側の感覚や、大切な人がそうなった感覚を味わわせて、ドキっとさせたい。最終的にそういう最悪なこと考えるのを止めたい、という意味でこの構成にしました。

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