w.o.d.が2025年の世界で鳴らすグランジ “踊る=生き抜く”――進化を続ける今を示した『LOVE BUZZ Tour』

w.o.d.が2025年の世界で鳴らすグランジ

 w.o.d.が夏の東名阪ワンマンツアー『LOVE BUZZ Tour』を開催。初日公演となるZepp Shinjuku (TOKYO)でサイトウタクヤ(Vo/Gt)、Ken Mackay(Ba)、中島元良(Dr)は、現在進行形で変化と進化を続けるw.o.d.の“今”を叩きつけてみせた。

『ONE MAN TOUR “LOVE BUZZ Tour”』(撮影=森好弘)

 8月23日。夏の甲子園で沖縄代表の高校が優勝を決めたこの日、8月下旬だというのに最高気温は36℃。真夏のピークがなかなか去らない地獄のような暑さの中、Zepp Shinjuku (TOKYO)に入るとSonic Youthの「Kool Thing」が聴こえてきて、やっと気分が落ち着く。開演前のBGMはAudioslave、Alice In Chains、NIRVANAなど。もちろん彼らのルーツにあるバンドであり、この夏リリースされた配信EP『grunge is dead. EP』とも繋がっている。

 そして18時過ぎ、Vanilla Fudgeの「Ticket to Ride」(The Beatlesのカバー)とともにサイトウ、Ken、元良がステージに現れ、まずは「UNINSTALL」を放つ。『grunge is dead. EP』に収録されたこの曲はグランジ、ガレージパンク、ドラムンベースがぶつかり合うアッパーチューン。フロアを埋め尽くした観客は拳を挙げ、身体をぶつけ合いながら興奮を高めている。そのまま「STARS」「Fullface」といったライブアンセムを次々と披露。

『ONE MAN TOUR “LOVE BUZZ Tour”』(撮影=森好弘)
サイトウタクヤ(Vo/Gt)
『ONE MAN TOUR “LOVE BUZZ Tour”』(撮影=森好弘)
Ken Mackay(Ba)
『ONE MAN TOUR “LOVE BUZZ Tour”』(撮影=森好弘)
中島元良(Dr)

 崩壊寸前まで緊張感を高めるようなアンサンブルと会場の音響の良さが絡み合い、どこまでもテンションが上がっていくと、元良は楽しそうに笑っていた。直進的なエイトビートの中にも必ず16ビート的なノリがあり(元良のスネアのゴーストノートが効いている)、どの曲も踊れる。もともとw.o.d.に備わっていた要素だが、“踊れる”感覚がさらに向上してると感じたのは筆者だけではないだろう。

『ONE MAN TOUR “LOVE BUZZ Tour”』(撮影=森好弘)

 「『LOVE BUZZ』というタイトルをつけたけど、俺たちの愛が広がればいいな……みたいな気持ちはまったくなくて。音楽で遊びに来ました。よろしく」というサイトウのMCに導かれた「イカロス」「1994」でライブは早くも最初のピークに到達。サビのコーラスで観客のシンガロングが自然発生した「lala」から少しずつ歌の要素が強くなっていく。それを象徴しているのが、EPに収録された「DAWN」だ。ギターと歌を軸にしたオーソドックなロックバラードなのだが、〈変わっていく世界で 憶えていて/ねえ ずっと僕のままで ここにいるから〉に象徴されるどこか諦念的なリリック、重くて暗い音像を含めて、この曲もやはりグランジと重なっている。

『ONE MAN TOUR “LOVE BUZZ Tour”』(撮影=森好弘)

 サイトウが「昔、このあたり(新宿)に住んでいたことがあって。その頃に書いた曲をやります」と紹介された「白昼夢」も心に残った。この曲が書かれた時期はおそらく数年前だが、〈こんなの全部 嘘だって 笑ってよ/終わった夢から 醒めないままで〉というラインは、あり得ないことが起こりまくっている2025年の夏にこそふさわしい。

『ONE MAN TOUR “LOVE BUZZ Tour”』(撮影=森好弘)

『ONE MAN TOUR “LOVE BUZZ Tour”』(撮影=森好弘)

 「今回のツアー、セトリ予想キャンペーンやってたけど当たった人いる?」と語りかけた後、サイトウは“踊る”という言葉について話し始めた。歌詞の中で“踊る”というワードをよく使っていること、もともとロックンロールはダンスミュージックだったこと、それは生活の苦しさやイヤなことから逃げるためでもあったと思うが、自分の中では“踊る=生き抜く”というイメージがあること。そして、「ムチャクチャな今、ムチャクチャな場所で生きてるんだから……まあ、そういうこと。最初に言ったように音楽で遊びたいだけなんで」という言葉からEPの1曲目に収められた「TOKYO CALLING」を放つ。

『ONE MAN TOUR “LOVE BUZZ Tour”』(撮影=森好弘)

 Arctic Monkeysを想起させるギターリフ、現在のヒップホップとも繋がるビートの構成、大胆なテンポチェンジを組み合わせたこの曲は、カオスとしか言いようがない歌舞伎町を照らしていく。サイバーパンク的近未来を映し出すVJも文句なくカッコよかった。そこから「踊る阿呆に見る阿呆」「My Generation」「エンドレス・リピート」とダンス×ロックな楽曲を重ね、フロアの熱狂をさらに引き上げていく。

『ONE MAN TOUR “LOVE BUZZ Tour”』(撮影=森好弘)

  これまでならここでエンディングだが、この日のライブにはさらなるクライマックスが待っていた。それを担っていたのは、やはりEPの収録曲「BURN MY BEAUTIFUL FANTASY」。刺激的なノイズが走る中、グランジの進化型と称すべきサウンドが響きわたり、〈僕らの選択は自由か?〉という歌詞が広がっていく。感動や衝撃とは違う、ずしんとした手触りは、今回のツアーの在り方とダイレクトに繋がっていたと思う。ラストは「Sunflower」。〈ここには 花があって/風が吹いて 君がいた〉というフレーズがもたらす刹那的な救いにも、強く心を打たれた。

 サイトウは「踊ることとは生き抜くこと」という趣旨の発言を行ったが、それは単なる逃避ではなく、カウンター(対抗)の意思だと筆者は思っている。グランジは90年代の混沌を打ち抜き、散ってしまったが、その遺伝子は今も受け継がれ、2025年の世界で鳴らされている。今回のツアーでw.o.d.は、その事実をダイレクトに証明してみせたのだ。

『ONE MAN TOUR “LOVE BUZZ Tour”』(撮影=森好弘)

■セットリスト
『ONE MAN TOUR “LOVE BUZZ Tour”』
2025年8月23日 Zepp Shinjuku (TOKYO)

M01.UNINSTALL
M02.STARS
M03.失神
M04.THE CHAIR
M05.Fullface
M06.イカロス
M07.1994
M08.スコール
M09.lala
M10.喜劇
M11.DAWN
M12.白昼夢
M13.あらしのよるに
M14.TOKYO CALLING
M15.踊る阿呆に見る阿呆
M16.My Generation
M17.エンドレス・リピート
M18.BURN MY BEAUTIFUL FANTASY
M19.Sunflower

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