w.o.d.がグランジを“終わらせる”真意 カオスな世界に生きる自分を描写した今鳴るべきロック

w.o.d. グランジを“終わらせる”真意

 w.o.d.の『grunge is dead. EP』は混沌とした現代に必要なロックそのものだ。ダンスミュージックを取り入れモダンなサイケデリアで全体を彩り、音の重ね方など微細な部分に至るまで殻を破りまくったのが昨年のメジャー1stアルバム『あい』だったが、今作はバンドの核であるグランジやUKロックのソリッドさを純度100%の爆音で放出したEP。裾野を広げたからこその原点回帰作ではありつつ、ポストプロダクションやアレンジ面ではヒップホップやドラムンベースなどがしっかり昇華されており、ストレートなアンサンブルも確実に進化していることが垣間見えて素晴らしい。

 そんな4曲に乗せて、w.o.d.は滑稽なほど狂いすぎた世の中に一石を投じる。“踊る”というのは彼らが一貫して歌ってきたことでもあるが、皮肉なことにそれが最も痛烈に刺さる時代になったということだろう。“グランジは死んだ”というタイトルで今作を投下した意図、そしてそこに滲む、いち人間として現代を生きる上での切実な想いとは。夏の東名阪ワンマン『LOVE BUZZ Tour』も控えるw.o.d.の3人にじっくりと話を聞いた。(信太卓実)

w.o.d. - grunge is dead. EP [Teaser Movie]

グランジとの向き合い方の変化がコンセプトに

ーー昨年のアルバム『あい』までに多くの変化を重ねてきましたが、今回の『grunge is dead. EP』では原点回帰的な剥き出しのロックを鳴らしていますよね。どんなEPになったと感じますか。

Ken Mackay(以下、Ken):いいEPができたなってまず思いました。「めっちゃグランジやったろう」という感じで作り始めて、4曲でうまい感じにまとまったなって。

ーーグランジに立ち返ったのはなぜなんでしょう?

サイトウタクヤ(以下、サイトウ):『あい』はいろいろチャレンジしたメジャー1stアルバムだったんですけど、そのカウンターというか、もっとw.o.d.としての根っこの部分を出したくて。それで仮の段階からつけていたタイトルが『grunge is dead.』。カート・コバーンがそう書いてるTシャツを着てたりとか、むしろスタイルとしてはグランジっぽいんですよね。そのひねくれた感じがしっくりきていたし、そのままのタイトルでリリースしたらウケるよねって。あとはEPを出したことがなかったから、単純に出してみたかった。アルバムとは違うテンションで、コンパクトにまとめたコンセプチュアルなものを出せたらいいかなという感じでした。

w.o.d. アーティスト写真
w.o.d.(写真=Masushi Watanabe)

ーー確かにアップデートされた“今なりのグランジ”を真正面から鳴らしているなと思いました。現代の日本を皮肉ったような歌詞が多いし、そこで生きることの叫びまで鳴らされているから、『grunge is dead.』ではありつつ、「グランジここにあり」と言ってるのと同義なのかなって。

サイトウ:そうですね。無邪気につけたタイトルですけど、作っているうちに意味合いもだんだん変わってきて。「ちゃんとグランジやるぞ」って始まったところから「グランジをやり切って1回終わらせよう」みたいな気持ちになって、最終的にタイトルの言葉に戻ってきたような感じがありました。

ーー“終わらせる”とは?

サイトウ:自分も周りもわかりやすさ込みで、“グランジ”というワードを引っ張りすぎてるなとずっと感じたりしていて。俺が中学生の時に影響を受けたものやし、もちろん今も影響を受け続けてるんですけど、実際30代になって、この年齢でグランジってどうしてもしっくりこないんですよね。共感はできるけど、27歳頃までのマジだった目線とはだいぶ違ってきていて、ちょっと俯瞰で見ているというか。だけど“グランジのバンド”だと言っていたり捉えられていたりもするので、だったら今作でやり切って終わらせようと。「TOKYO CALLING」はEPの中で一番現代っぽい曲になったんですけど、「UNINSTALL」「DAWN」「BURN MY BEAUTIFUL FANTASY」は、ガーッと考えまくって、瞑想モードに入って、最後は叫びまくるみたいな曲たちで……だいぶ言語化できてないですけど(笑)、終わらせるための新陳代謝みたいな流れです。

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サイトウタクヤ(写真=Ayumu Kosugi)

ーーそうやって俯瞰するようになって鳴らすグランジというのは、何が変わったと思いますか。

サイトウ:シンプルに言うと、年齢とか勢いとか体力とか(笑)。でも、そもそもNirvana、Soundgarden、Pearl Jam、Alice in Chainsあたりの1990年代前半のあの頃までが俺にとってのグランジなので。グランジってそもそも成長し切った文化じゃなくて、若くて、浅くて、勢いでやっているからこそ良かったものやと思うので。けど、今の自分は良くも悪くも、若くて浅くはいられない。生きる中でどうやっても大人にならざるを得ないし、考えることもいっぱいあって、1つの視点だけでは判断できへんようになったなと。そこも大きいですかね。

 でもネガティブな意味だけじゃなくて。毎回俺らはそうなんですけど「もうこれ以上出ないな」というところまでやり切らないと次に行けないので、「1回やり切っちゃおうぜ」くらいの気持ちでもあって。だから「めっちゃグランジ作ろう」と言っておきながら、『あい』でやっていたポストエンジニアリング的なこともいろいろ入れたし、次へのきっかけとして句読点を打つEPにできたかなと思います。

中島元良(以下、元良):今挙がったようなグランジのバンドって俺のど真ん中ではないんですけど、そこに影響を与えたちょっと前のハードロックとかは根幹にあるので、たぶん自然と良いものになるだろうなと思っていたし、今回は本当に無理矢理なことはまったくしていなくて。アルバムとして見ると“5.5枚目”で、重ねてきた分フレージングの作り方も慣れてきているから「これで行く」って決まるまで早いし、確信持って作れている感じでしたね。

ーー『あい』の時はいろいろな音が重なったり、差し引きの実験があったと思うんですけど、今回はまず3人のシンプルな演奏が爆音で響いてくる感じがしますよね。

Ken:『あい』には悩みながら作った部分が結構入ってたりするので。でも、それを経てバンドがまた成長してるし、芯がちゃんとでき上がってるから「何が来ても大丈夫」みたいな気持ちで作れたのかなと思います。

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Ken Mackay(写真=Ayumu Kosugi)

サイトウ:そもそも目的が違ったかもしれないですね。『あい』の時はいろいろチャレンジしたい気持ちがありつつ、メジャーで出すアルバムがどれくらい受け入れられるのかっていう不安もあったので、悩みながら作って。けど、ツアーをやってみて、結果的にいろんな人が受け入れてくれた反応を見て、俺らも自信を持って「やりたいことをやっていいやん!」という気持ちになれたのもデカくて。あと意外に1990年代前半のグランジってあれ以降誰もやれてないけど、俺らもまったく同じことをやっても仕方なかったなと。当時の生っぽいアレンジも試したんですけど、「おもんな!」みたいな(笑)。最終的に参考にしたのはLinkin ParkとかMarilyn Mansonとか、生っぽさは残ってるけど、ほんまはグランジやりたかったんやろうなというポストグランジ的なもので。そこからさらに影響を受けて詰めていった感じでした。

Ken:普段のライブセットでそのまま音出して録れて、エンジニアの佐々木優さんもめっちゃハマったよね。

ーー今回はどこで録ってるんでしょう?

元良:西荻窪のTUPPENCE STUDIOっていうところです。

サイトウ:エンジニアもスタジオも新しくして全部そこで録り切りました。生っぽく録れるところだったし、最終的に「TOKYO CALLING」以外は(シーケンスを)使っていないので。

元良:スタジオのドラムの音もめっちゃ良くて。毎回そうなんですけど、クリックありで1回録音して「これでいいんじゃないか」となってから、クリック外したバージョンも1回やってみて、結局外した方が選ばれるんですよね(笑)。今回もそうなりました。

w.o.d. アーティスト写真
中島元良(写真=Ayumu Kosugi)

ーーそこがw.o.d.っぽいのかもしれないですね。3人が出すグルーヴにはいつも絶妙な揺らぎがあって、それを計算じゃなく天然で鳴らせるのがw.o.d.らしいなって思います。

サイトウ:その極致がストーンズ(The Rolling Stones)ですよね。上手いのか下手なのかわからん、みたいな(笑)。でも今回やってみて思ったんですけど、アレンジとか上モノの重なり方とか、俺らにとっての正解を入れられた4曲かもしれへんなって。グランジっぽいアレンジに寄りすぎても違うし、(シーケンスを)いろいろ上乗せしすぎても違うなと思って。『あい』を経た自分らがしっくりくる一番いいバランスで、「ここをやればコピーじゃない、俺らのオリジナルでできるんや」って感じで鳴らせた気がしました。

混沌とした現代を踊ることで“生き抜く”

ーーちなみに最初にできたのはどの曲ですか?

サイトウ:完成という意味では「TOKYO CALLING」ですね。リズムが変わる手前までのワンコーラスはもともとあって、シングルカットしようという話になった時に、BPMも変えてもっと変なことをやってみようって(レーベルのA&Rから)提案があって、「いいっすね!」と。

ーーサウンドのイメージ的にはどんな感じだったんでしょう?

サイトウ:Arctic Monkeysっぽいリフは最初からイメージしていて、そこにジャージークラブとかエレクトロの踊れる要素も入れてみたいなと。ミクスチャーっぽくいろいろ組み合わせながら考えていきました。

ーーArctic Monkeysは自分も連想してたんですけど、そういうUKロックにモダンなヒップホップが加わっているのが面白いし、ミクスチャーとして鳴らされているからこそ、東京のことを歌ってるのもしっくりきたんです。

サイトウ:SFとかサイバーパンクが好きなので、そのイメージがずっとあって。現代都市、シティっぽさに合うバンドサウンド、『ブレードランナー』あたりと繋がっているような世紀末的な世界観を具現化しました。退廃的なグランジの要素も、サイバーパンクとかSFではよくあるので。

w.o.d. - TOKYO CALLING [OFFICIAL MUSIC VIDEO]

ーーそういう雰囲気をやろうと思ったのはなぜなんでしょう?

サイトウ:「TOKYO CALLING」は混沌とした東京をそのまま切り取ったつもりなんですけど、今の世の中ってめちゃくちゃカオスじゃないですか。AIとかの問題もあって世界中カオスだけど、日本も日本でいろいろなことが起きていて、「マジ!?」みたいな。正直、逆にワクワクしている自分もいるというか……SFで観ていた世界とあまり変わらへんし、怖さとおもろさが両方ある。それを俯瞰で見ているけどその中に自分もいる、みたいなイメージで書きました。

ーー炎上や争いを〈火事も喧嘩も〉とか〈斬り捨て御免〉といった江戸っぽい言い回しで皮肉っているのも効いてるし、あらゆる危機的なニュースもユーモラスに切り取ってもはや面白がるしかないんじゃないか……という感じですよね。

サイトウ:ほんまにそう。曲中で使う“踊る”って、生きるというより、“生き抜く”みたいなイメージに近いんですよ。楽しく暮らそうと思っていたら、信じられへんくらい大変なことが起こって食らう瞬間もあれば、しんどいなと思って日々暮らしていても、たまに俯瞰するとそうでもないし「とりあえず踊ろうぜ」みたいになる瞬間もどっちもあると思っていて。ピート・タウンゼントの名言じゃないですけど、ロックとか音楽はその時代を切り取って、文句を言っている曲で踊れるみたいなところがあるんですよね。The Prodigyとかも、ものすごいカオスな時代と街を生きた人たちだと思うけど、めちゃくちゃ踊れるじゃないですか。もう踊り狂うしかない、そうやって生き抜くしかないーーそのニュアンスで繋がってるところがあって、それを歌詞や曲調にもマッチさせました。

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