“かわいい”ブームに一石投じるハロプロ 「女の愛想は武器じゃない」で再定義する女性の価値観
ハロー!プロジェクト(以下、ハロプロ)が世に放つ楽曲は、いつだって女性が自分の力で自分らしく輝けることを教えてくれた。そうした流れのなかに今、OCHA NORMAの新曲「女の愛想は武器じゃない」が新たな風を吹き込んでおり、注目を集めている。
感情が爆発したような疾走感のあるロックサウンドのなかで、8人の強く伸びやかな歌声が響くのが印象的。これまではどちらかというとフレッシュで明るい雰囲気の曲が多かったOCHA NORMAにとって、かなり攻めたクールな印象を受けるパフォーマンスとなっている。
この新曲がなぜ今、注目を集めているのか。その理由は、歌詞で表現されたものにある。冒頭、筒井澪心のエネルギッシュな歌声で歌われるのは〈かわいいだけなんて 言わせない〉〈きっと誰だって 本音じゃ/痛い 痛い 痛い 痛い 痛い〉というフレーズ。〈かわいいだけ〉という言葉が目を引くのだ。
この言葉、SNSや音楽番組、さらには街中などで何度も耳にしてきた人も多いのではないだろうか。そうなのだ。〈かわいいだけなんて 言わせない〉というフレーズが、2024年にアソビシステムによるKAWAII LAB.よりデビューしたCUTIE STREETの「かわいいだけじゃだめですか?」という楽曲を連想させるようにも聴こえ、「ハロプロからのアンサーなのでは?」とファンのあいだで話題になっているのである。
「女の愛想は武器じゃない」ではこのあとも、〈女の愛想は武器じゃない/戦うなら食いしばった今日で〉〈かわいげじゃ 自分守れない〉〈魔法は解けてく いつか/その時 何が残ってんの/自分に憧れたい〉といった言葉が続く。また、MVでは黒の衣装でクールさが際立つダンスパートを軸としながら、ピンクと白を基調としたキュートで甘い衣装に身を包み、アンニュイな表情で歌うシーンも挟まれている。この対比によって、女性のかわいらしさに一石を投じるような楽曲になっているのだ。
OCHA NORMAがこうした楽曲を発表した背景には、現在の日本のアイドルシーンのトレンドがあると考えられる。
現在のアイドルシーンに関して言えば、キーワードとなるのはやはり“かわいい”だろう。先述のCUTIE STREETはもちろん、FRUITS ZIPPER、超ときめき♡宣伝部などを筆頭に、“かわいい”という言葉をタイトルや歌詞に多数散りばめた楽曲がいくつもリリースされている。そして何より、CUTIE STREETやFRUITS ZIPPERが所属するKAWAII LAB.は、今をときめくアイドルプロジェクトだ。このプロジェクトから誕生するアイドルグループは、ビジュアルも楽曲も世界観も、ほとんどが“かわいい”をコンセプトの主軸に据えて作られている。ただ、歌詞を見ながら深く聴きこんでいくと、他者が求める“かわいい”ではなく、自分の信じる“かわいい”を追求する姿勢、夢を追って前向きに生きる大切さ、人間関係など日々の暮らしの過程で生まれるいろいろな悩みもありつつ、今日を楽しく生きる女性の姿、自分に自信を持って生きることのすばらしさなど、ポジティブなエネルギーを持った楽曲が多いことが分かる。「かわいいだけじゃだめですか?」を含め、誰かに決められた“かわいい”を演じるのではなく、自分らしい“かわいい”を武器とする姿をキュートに描く点が、KAWAII LAB.所属アーティストの魅力のひとつなのだ。
一方ハロプロでは、社会から求められるステレオタイプな女性像に対して、KAWAII LAB.とはまた別の角度から反旗を翻していると言えるだろう。OCHA NORMAの新曲「女の愛想は武器じゃない」は、歯を食いしばり、泥をかぶりながらも自分の理想を追い求める、ある意味では“かわいくない”姿までをも描くことで、凛とした強さと魅力を持った女性像を提案しているのである。
ハロプロには、そのように時代が理想とする、ある意味偶像化された女性像に“No”を突きつけ、自分の力で、自分らしく輝くことを歌った楽曲が多い。たとえば、モーニング娘。の「女が目立って なぜイケナイ」。〈メイクって とても楽しい/少しぐらい 派手がいいみたい〉〈強い目の 風がスカートを/めくっても そんなの気にしない〉〈刺激なら 強い方がいい〉といった言葉の数々で、強く自信に満ち溢れた女性像を表現した。
Juice=Juiceの「「ひとりで生きられそう」って それってねえ、褒めているの?」も、日々を自分の力で生きていく自立した女性像を、〈私自身を 幸せにできるのは/結局は私だけ 勇敢にならなくちゃ〉〈「ひとりで生きられちゃうの」/それは素敵なはずでしょう?〉といった言葉で表現。アンジュルムの「うわさのナルシー」でも、〈「ワタシ」という存在(モノ)自体/個別具体に愛したい〉〈悪いけど 変える気ないの〉といった言葉で、見た目などに対する人の評価を気にせずに自分らしく生きる女性の姿が描かれている。
時代と戦い、社会が求める理想の姿ではなく、ひとりの人間の多面的な女性像を描いてきたハロプロ。喜びも悲しみも嫉妬も、酸いも甘いも表現し、日常と地続きのリアルな女性の生き様が描かれるからこそ、そこに共感が生まれ、多くのファンを惹きつけるのではないだろうか。

























