松浦亜弥、後藤真希、藤本美貴……あなたの思い出に残るのは? 令和に響くハロプロ名曲、極私的推し曲厳選紹介

 かつてハロー!プロジェクト(以下、ハロプロ)には3人の歌姫が林立している季節があった。2000年よりハロプロのソロ歌手として活動していた“あやや”こと松浦亜弥。1999年にモーニング娘。に加入、2002年のグループ卒業後は2007年までハロプロのソロ歌手として活動していた“ごっちん”あるいは“ゴマキ”こと後藤真希。2003年にモーニング娘。へ加入し、2007年まで在籍していた“ミキティ”こと藤本美貴。一貫してソロだった者、グループからソロへ転身した者、ソロからグループへ転身した者と、三者三様なのが面白い。

 2002年11月、この3人によるユニット・ごまっとうが結成され、シングル『SHALL WE LOVE?』をリリースした。後藤がモーニング娘。を卒業したあとに2002年10月から藤本がモーニング娘。へ加入する2003年1月までの、3人がソロとして同時に活動していたわずかな期間に発表されたレアな楽曲と言える。

 そして時は流れ今年2月、松浦、後藤、藤本、ごまっとう、さらに松浦と藤本のデュオユニットであるGAMの楽曲がサブスクリプションサービスにて配信解禁となった。各々のシングル表題曲などはかねてからYouTube上にてMVが公開されていたが、今回のサブスク解禁によってシングルのカップリング曲やアルバムのみに収録されていた楽曲などへのアクセスが容易になった。本稿では有名シングル曲をあえて省いた上で、松浦、後藤、藤本それぞれの筆者による極私的推し曲を3曲ずつ挙げていく。

松浦亜弥

「I know」(2002年)
作詞・作曲:つんく 編曲:河野伸

 7thシングル『The 美学』のカップリング曲。編曲は森高千里、中島美嘉、坂本真綾のライブサポートや、『世界の中心で、愛をさけぶ』(TBS系)やTVドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)など劇伴仕事も数多くこなすキーボーディストの河野伸が務めている。ハロプロでも編曲担当曲が多数あり、「河野伸がアレンジしている曲は良曲」とファンの間で囁かれたりもしていた。

 この「I know」はブルーアイドソウル風の爽やかな曲調で、しなやかかつ芯の通った力強さもあり耳が心地好い。同傾向のサウンドではモーニング娘。のシングル表題曲「真夏の光線」(1999年)があり(この曲も河野による編曲)、モーニング娘。にとっての「真夏の光線」があややにとっての「I know」、というようなイメージも当時あったと思う。

 また、サビの〈でっかく OH YEAH!/恐がらずに〉や〈ちっちゃく!OH YEAH!/見栄張らずに〉といった歌詞に合わせて、両腕を大小さまざまに広げたりする振り付けを演者と観客が一緒に行うのが恒例となっていたのも楽しかった。松浦のコンサートでの定番曲でもあったし、2015年の正月に行われた『Hello! Project 2015 WINTER 〜HAPPY EMOTION!〜』では冒頭1曲目の全員歌唱曲としてセットリストに選ばれるなど、松浦ファン以外への浸透度も高い楽曲だ。

「dearest.」(2006年)
作詞・作曲:成海カズト 編曲:garamonn

 セルフカバー、洋楽カバー等で構成された企画盤『Naked Songs』に収録されていたアルバム新曲。このアルバムのリリースあたりから、松浦への楽曲提供をつんく♂以外の作家が手掛けることが多くなっていった。

 つんく♂が制作する個性的な楽曲の傾向は、それがそのまま“ハロプロカラー”となっていた。つんく♂がハロプロ各グループのプロデューサーから卒業した2014年以降は、他作家による楽曲提供がハロプロサウンドの幅を広げる形となって今に至る。この2006年頃も似たような状況はあったのだが、まだこの頃はつんく♂楽曲の数がハロプロ全体の過半数を占めていたので、それ以外の楽曲には“ハロプロらしくない”という印象がどうしてもついて回るところがあった。

 この「dearest.」はオーソドックスなR&Bバラードで、脂が乗り始めていた松浦の歌唱力と相まって、相当の良曲に仕上がっている。〈白い花束〉〈心のキャンドル〉〈祝福の鐘〉といったキーワードが飛び交う歌詞は、ウエディングソングを意識したであろう普遍的なもの。松浦ファンの結婚式でこの曲が使用されるなんて話も時折聞いたりする。つまり、良曲なのは間違いないのだが、ハロプロ的な必然性が薄いというある種のねじれが生じた楽曲でもある。つんく が作詞作曲していればハロプロ楽曲なのか、誰の作詞作曲でもハロプロメンバーが歌っていればハロプロ楽曲なのか、曲調はどうなのか――ハロプロらしさとは何なのか、その命題を考える上での題材ともなり得る1曲とも言えるだろう。

「花いちもんめ」(2008年)
作詞:谷村有美 作曲:斎藤悠弥 編曲:たいせい

 毎年末恒例だったオムニバスアルバムシリーズ『プッチベスト』の2008年版『プッチベスト9』に収録されたのが初出。サブスクでは2011年リリースのベスト盤『松浦亜弥 10TH ANNIVERSARY BEST』に収録されたものが聴けるようになっている。

 ポップスにクラシック曲のメロディなどを融合させたタイプの楽曲は“クラシカルクロスオーバー”というジャンル名で呼ばれることも。それにならえば、この「花いちもんめ」は“童謡クロスオーバー”とでも言うべき曲調になっている。

 誰でも知っている遊び「はないちもんめ」の一節を引用しつつ、そこから新たな展開へと広がっていくのが本曲。和のテイストを盛り込んだサウンドには浮遊感や透明感を湛えており、それは松浦のボーカルも同様だ。こういったレア曲とも言える楽曲を手軽に聴くことができるようになったのもサブスクの恩恵だろう。

後藤真希

「LIKE A GAME」(2001年)
作詞・作曲:つんく 編曲:鈴木Daichi秀行

 後藤のコンサート、通称“ごまコン”はその盛り上がりと熱量が高評を得ていた。そんな熱さを象徴する楽曲としては、シングル表題曲「抱いてよ! PLEASE GO ON」(2003年)や、アルバム曲「盛り上がるしかないでしょ!」(『マッキングGOLD①』収録/2003年)などが挙げられるが、この「LIKE A GAME」もその一つだ。

 2ndシングル『溢れちゃう... BE IN LOVE』のカップリングとして発表されたこの曲は、デジタルロック風のアッパーソング。今聴き直すと1990年代末〜2000年代初頭のJ-POPシーンの雰囲気が想起されたりもする。

 歌詞面では、2番サビの〈(BABY)電話は(BABY)変えたよ/ただの気まぐれじゃん/だって新機種の方が/使いやすいじゃん/OH BABY BABY そんな所さ Ah〉というフレーズは、妙に心に残る。つんく♂リリックの真骨頂だろう。

「気まぐれ」(2002年)
作詞・作曲:つんく 編曲:河野伸

 4thシングル『やる気!IT'S EASY』のカップリング曲。表題曲「やる気!IT'S EASY」はカイリー・ミノーグあるいはTommy february6などを連想させる、シンセフレーズが煌めく80sダンスポップ的曲調だったが、カップリングの「気まぐれ」も音楽ジャンル的には同傾向にある。つまり同じようなジャンルテーマを別曲、そして別アレンジャーに委ねることでどのような差異が生じるか、それ自体も楽しむことができる作品と言えるだろう。ハロプロのシングルにはこのような構成のものがほかにも多数ある。

 「やる気!IT'S EASY」の編曲は前嶋康明で、「気まぐれ」の編曲は先述した河野伸。「やる気!IT'S EASY」のキャッチーさも、「気まぐれ」のカップリング曲ならではの佇まいも、どちらも輝いている。こんなシングルが連発されていたのが当時のハロプロの豊潤さである。

 なお、こういったシンセポップ的なサウンド傾向の輝きは、近年では元Juice=Juiceの宮本佳林のシングル曲「規格外のロマンス」(2021年)などにも見出すことができる。

「GIVE ME LOVE」(2007年)
作詞・作曲:つんく 編曲:江上浩太郎

 後藤のディスコグラフィを再度眺めると、様々な曲調のシングル群はバラエティ豊かと言えるが、同時に方向性が定まっていなかったとも言えるかもしれない。後藤のポテンシャルにはどういった曲調が最適解なのか――その1つの解答だったのが、2006年のシングル表題曲「ガラスのパンプス」や「SOME BOYS! TOUCH」といったアダルティなダンスサウンドだったのではないだろうか。そしてその方向性に的を絞って制作されたと思しいのが、オリジナル4thアルバム『How to use SEXY』。そして、その収録曲から「GIVE ME LOVE」に着目したい。

 ドラムンベース〜2ステップ系の躍動するビートに乗せて歌われるアッパーチューンで、この完成度はアルバムの中でも随一だ。結果的には後藤のハロプロ時代ラストの作品となり、所属事務所をエイベックス・マネジメントに移籍した後は、このサウンドの方向性がさらに追求されることになる。

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