EGO-WRAPPIN’、大きな喜びに少しの感傷を添えて 改修前最後の日比谷野音『Dance, Dance, Dance』東京公演

EGO-WRAPPIN’のファンにとって毎年恒例の風物詩「夏の野音」のシーズンがやってきた。今年の東京・日比谷公園大音楽堂には特別な意味がある。10月から改修工事に入るため、この場所でライブを観るのはひとまずフィナーレ。大きな喜びに少しの感傷を添えて、曇り空に涼風吹く気候に恵まれた7月12日、満員の観客を集めて「最後の野音」の幕が開く。
「よくぞチケットを取って来てくれました。お酒いっぱい飲んでいってくださいね」(森雅樹)
「とりあえず今日で、この景色は最後ということになります。みなさんと一緒に、何かをここに残していきましょうか」(中納良恵)
ねばっこいロックステディにお囃子めいたリズムを盛り合わせ、祭りの始まりを告げる1曲目はインスト曲「Egyptian Reggae」。森雅樹はバンジョーを弾き、中納良恵は歌の代わりに鍵盤ハーモニカで歌いまくる。グッとテンポを上げて「PARANOIA」へ、中納は軽快なステップを踏み、つられて会場いっぱいに手振りと踊りの花が咲く。徐々に高まるムードの中で、「久しぶりにやります」と言って歌い始めたのは「クイック・マダム」だ。スローなラテンのムードとギロが刻むリズムが心地よく、続く「レモン」もゆったりスローなレゲエのリズムと、哀感を帯びたメロディが胸に沁み入る。曲が終わってひとこと、「ミディアムテンポで踊れたら大人です」(森)。なんて大人びたかっこいい音楽だろう。

イントロで大歓声が湧いた「love scene」は、歌いながらステージを右へ左へ、中納の軽快なステップと客席いっぱいの手振りでハッピーに。「裸足の果実」はサックスとトランペットを前面に押し出して迫力たっぷりに。EGO-WRAPPIN’のライブの強みの一つは、サックス、トランペット、フルート、トロンボーンなどの優れた使い手が複数いること。多様なリズムにジャジーな洗練を添えた、なんて贅沢な音楽だ。
「物にも心がありますから、日比谷野音ありがとう」(中納)
そんな中納のセリフから、みんな大好き「a love song」へ。それはラスト野音に贈る心を込めた愛の歌だ。そろそろ陽が落ちて、ステージ上に掲げた電飾がギラギラと輝きだす。「サニーサイドメロディー」を軽快なロックステディにリアレンジした新バージョンの「Sunny Side Steady」は、♪ラララ~のコーラスが会場いっぱいの大合唱になる。中納が笑顔で「SINGIN'!」と煽りまくる。夜の始まりの涼やかな風とセミの声。これが夏の日比谷野音だと五感で覚えておく。
「トイレタイム、大丈夫ですか。二人で1曲やりますよ」(森)
セットリストにない曲だから、本当にその場の思いつきだろう。森がエレクトリックギターでボサノヴァのリズムを刻み、中納が鍵盤ハーモニカを吹く「満ち汐のロマンス」。一緒に歌う人、トイレタイムと言われて席を立つ素直な人、もっと飲もうとお酒を買いに行く人が通路を行き交う、自由な雰囲気がいかにもEGO-WRAPPIN’のライブらしい。

開演から1時間、先日リリースされたばかりの新曲「Treasures High」が始まると、会場内の空気がふっと変わった。ファンキーなリズムとサイケデリックなトランス感に包まれて、歪みまくった森のリードギターが最高にかっこいい。「Summer Madness」はさらにテンポを緩めてグルーヴィーに幻想的に、浅い海の底にいるような揺れるブルーライトとスモークの演出がぴたりとハマる。そして間髪入れずに始まったもう1曲の新曲「AQUA ROBE」は、ワンループのリズムに暗くうねるベース、ダブめいたサウンドメイクで聴き手を引き込む魅惑のダンスナンバー。とてもいい曲だ。



妖しいムードはさらに続く。まばゆいバックライトが目をくらます中、レゲエとダブとサイケロックとダンスが激突する「マンホールシンドローム」の摩訶不思議な魅力にやられ、踊るのも忘れて立ち尽くす観客。そのままノンストップで「Calling me」へ、暗闇の底から一気に明るい世界へ浮上するような無重力感が心地よい。ステージいっぱいに水玉模様のライトが揺れる。感覚が揺れる。
「もうちょい行きたい? 行きますよ、ラスト野音」(中納)
ライブはいよいよ終盤、中納が叩く銅鑼の音から始まった「Mother Ship」は、アップテンポで突っ走る強力なスカロック。挑発的なムーグのソロがいかしてる。そのまま「サイコアナルシス」へ繋げると、会場内は誰もが踊らにゃ損損の無礼講ダンスタイムだ。そしてみんな待ってた「くちばしにチェリー」へ、ウッドベースのいかしたリズムと、トランペットとテナーサックスの豪快なプレーでぐいぐい飛ばす。みんな歌う。中納も歌う。森のギターも歌う。最高潮の盛り上がりのまま「GO ACTION」へ突入、大歓声の合いの手を得て演奏はヒートアップ、野音全体もテンションアップ。「みんな楽しかった? 私も楽しかった!」と中納が叫ぶ。最後の曲で今日のエキサイティングポイントの最高点を叩き出す、これがEGO-WRAPPIN’のライブ。これがラスト野音。
高まりすぎた興奮を収めるように、アンコール1曲目「色彩のブルース」のジャジーなサウンドが心にしみ入る。この曲が世に出て四半世紀ほど経つが、中納の歌もバンドの演奏もみずみずしさは変わらない、どころか、今が一番心に沁みる。
「心の余裕のある、発想の自由のある、遊び心を持てるような、平和な未来を我々が作っていかなあかんなと思います。明日から新しい景色が始まりますが、また違う風景の中で一緒に響きあえたら嬉しいなと思います」(中納)
味園ユニバース、神奈川県民ホール、日比谷野音。何度もEGO-WRAPPIN’がライブを行ってきた会場が、くしくも2025年に揃って建て替えになる。思い出深い場所を惜しみつつ、未来への希望を語る中納に贈られる盛大な拍手。ラストソング「WHOLE WORLD HAPPY」の明るいサンバのリズムに、少しの感傷が混じる。そしてラストは野音いっぱいの大合唱、なんて幸せな大団円。

伊藤大地(Dr)、真船勝博(Ba)、TUCKER(Key)、icchie(Tp/Tb)、武嶋聡(T&S.Sax/Fl)。素晴らしいバンドメンバーを最後に紹介してステージを去る間際、ふと野音の建物を見上げた中納が何か言った。「ありがとう」と言ったように見えた。『Dance, Dance, Dance』の東京公演、現存の日比谷野音の歴史はひとまず終わる。しかしEGO-WRAPPIN’のダンスパーティーはきっと続くはずだ。平和な未来を作ろう。また違う風景の中で一緒に響きあおう。EGO-WRAPPIN’を愛し続けよう。
■セットリスト
1.Egyptian Reggae
2.PARANOIA
3.クイック・マダム
4.レモン
5.love scene
6.裸足の果実
7.a love song
8.Sunny Side Steady
9. 満ち汐のロマンス
10.Treasures High
11.Summer Madness
12.AQUA ROBE
13.マンホールシンドローム
14.Calling me
15.Mother Ship
16.サイコアナルシス
17.くちばしにチェリー
18.GO ACTION
En1.色彩のブルース
En2.WHOLE WORLD HAPPY

























