「EGO-WRAPPIN’が、音楽が、唯一の居場所」 30周年に向かう森雅樹と中納良恵に聞く、熱を失うことない活動の秘訣

1996年に結成され、2026年には30周年イヤーに突入するEGO-WRAPPIN’が、7月2日にアナログ2タイトルをリリースした。4年ぶりとなる新曲「AQUA ROBE」「Treasures High」の12インチと、「サニーサイドメロディー」をロックステディにセルフリメイクした「Sunny Side Steady」の7インチだ。リアルサウンドでは、森雅樹と中納良恵に新境地を開拓した待望の新作と、30周年に向かって国内外で充実した活動を続ける彼らの現在地をたっぷり語ってもらった。(佐野郷子)
たのしい“サウナ”と“カリンバ”が出発点 夏の恒例野外ライブに向けた新曲2曲

――待望の新曲「AQUA ROBE」「Treasures High」がリリースされましたが、12インチということもあってクラブミュージックの匂いが濃厚ですね。
森雅樹(以下、森): そうですね。ダンスミュージックと言っていいですね。野音(7月12日日比谷公園大音楽堂/8月2日大阪城音楽堂で行われる夏の恒例野外ライブ『Dance, Dance, Dance』)で盛り上がるような曲を作ろうと思って。
――「AQUA ROBE」は90年代のグラウンドビートを彷彿させるトラックが新鮮です。
中納良恵(以下、中納):それはよく言われますね。あまり意識していたわけではないけど。曲の感じはそうなんやけど、歌詞は湯上がりソングという(笑)。
――サウナが舞台の歌詞というのもユニークで面白い。
中納:曲の感じとは関係なく、日常的で生活感がある歌詞にしてみようと思ったんです。二人とも風呂とサウナが好きで、サウナがブームになる前からけっこう通っていたから。
森:そやな。「今日は行っとこか」ゆう感じで。
中納:きっかけはツアー先で地方のスーパー銭湯に行くようになったこと。ライブの後に打ち上げも出ずにサウナに直行して体をリセットするのにハマって。
森:僕は銭湯の朝風呂に行くのが好きですね。
――「AQUA ROBE」は、EGO-WRAPPIN’がメジャーデビューした頃、西麻布にあったYellowでのステージを観たとき、あまりの混雑ぶりでクラブがそれこそサウナ状態だったことを個人的には思い出しました。
森:ああ。あれは東京に出て来たばかりの右も左もわからない頃でしたね。Yellowのドアがやたらと重かった。
中納:あの時はDJがFPMの田中(知之)さんやったか、U.F.O.やったかな? 確かにフロアはギュウギュウやった。
――平日でも真夜中までクラブが活況を呈していた頃の熱気をお二人がよく知っているというのは大きいかもしれないなと思って。
中納:そういう蓄積されたものが出て来たんかな? クラブ、最近は行ってないけど。今はサウナで水風呂にポチャンやから(笑)。
――「Treasures High」も真夜中のダンスフロアで踊りたくなるようなムードがあります。〈靴底のチューインガム 仕舞い込んだ宝場所探す〉という風景もどこかかつてのクラブのようで。
中納:最近の若い人、ガムを噛む習慣がなくなってません(笑)?
森:そう言われたらそうやな。
中納:昔はよくガムが靴にくっついて困ったやん? まぁ、昔の思い出に浸っているというわけではないけど、知らぬ間にそういう言葉のチョイスをしているんかもしれない。
森:やっぱり、90年代育ちというのはあると思います。音楽を始めたのも、EGOを結成したのも90年代やから。この12インチはアルバムに向けて制作している過程での2曲なんです。


――アルバムの制作はいつからスタートしたんですか?
森:去年からライブの合間に少しずつ進めていて、この前のホールツアーでも新曲を披露したんですが、野音でもダンスチューンを披露したいと思って。12インチにしたのは自分が欲しいという理由もあります。
――今回は二人でどのように曲作りを進めていったのですか?
中納:今回は今までとちょっと違う進め方をしたんです。
森:「Treasures High」で使っているカリンバを自分の誕生日に買ってからが冒険の始まりでした。無人島に行って楽器がカリンバしかない状況になったらどんな音楽を作るかと想定して。
――カリンバが音楽的冒険のきっかけになったのも珍しい。
森:自分にとって新鮮な作り方を探っていったんです。そこから一人で自分のイメージできる範囲でドラムとベースを乗せて、デモを作っていった。いつもはスタジオに入ってギターをポロリンと弾いて、よっちゃんのピアノとセッションをしながら鼻歌みたいなメロディを紡いでいくんやけど、今回は自分先行でトラックを作ることから始めてみたんです。
――なるほど。トラック先行でしたか。
森:R&Bやヒップホップも好きやから、トラックに音を乗せていくやり方を試してみたかったし、ダンスミュージックとしてもありかなと。事務所の一室で信頼しているエンジニアと二人でトラックを作っていきました。
中納:で、トラックをもらった私が家でメロディと歌詞を乗せていくという。
森:そこで宅録っぽい音って意外にいい音やなと気がついたんです。ちゃんとしたスタジオで録る音が必ずしもいいわけではなくて、あんまり予算のないインディーズバンドの録音の方がよかったりすることってあるじゃないですか。
――時にはDIYの方がしっくりくることはありますね。
森:そう。最近はそんな雰囲気の音に惹かれるというか、「これ、インディーロックやな」と思いながら作っていましたね。自分で音を編集したりするのが面白いし、新鮮だったんです。ホルガー・シューカイの短波ラジオのコラージュとかが好きで、ああいう世界に憧れて。
――確かに「Treasures High」の無国籍感や浮遊感は通じるものがある。
森:そうやったら嬉しいです。入口はカリンバでしたけど、そこから広がっていった。
中納:私はGarageBandを使っているんですけど、あれもオモチャみたいだけど操作する技術はけっこう要るんです。対面で音を作るのとは頭の使い方が全然違うけど、そういうやり方も楽しかった。
森:もちろん、曲によっては今度の「Sunny Side Steady」みたいにバンドで一発で録音した方がいい場合もありますけど。

――12インチと同時に、7インチでライブでも定番の人気曲「サニーサイドメロディー」をロックステディにセルフリメイクした「Sunny Side Steady」をリリースするのは?
森:「サニーサイド」をロックステディにアレンジして初めてライブで演奏したのは、一昨年の『千束通り納涼大会』のライブだったんですが、これがなかなか評判がよくて。
――浅草に近い千束通りで開催されたブロックパーティですね。EGOやスチャダラパーのライブやDJもあって大盛況でした。
森:そうそう。納涼大会にロックステディってええ感じやんと思いついて、去年の『Midnight dejavu 2024』でも演奏したんですけど、こっちは今年の夏のお中元として聴いてもらえたらええなと。
――ロックステディに触れたのも大阪にいた頃ですか?
森:そうですね。僕が育った南大阪はダンスホールレゲエが人気で、クルマにウーハーを積んででっかい音を鳴らすようなヤンチャな人もいて、ジャマイカの音楽は割と身近でしたね。ロックステディはDETERMINATIONSと一緒にやるようになったのが大きくて、それで生まれたのが「a love song」。
――DETERMINATIONSと共演した初期の名曲ですね。「サニーサイド」もEGO屈指のロマンティックな曲ですが、旧曲を大事にしながら新しい空気を吹き込む姿勢がEGOらしい。
森:7インチのB面にプリンス・ファッティさんのダブミックス「Sunny Side Dub -Prince Fatty Dubwise-」を収録できたのもうれしかったです。コロナ禍の頃、彼がプロデュースしたホリー・クックを聴いてええなぁと思っていたら、スチャダラパーのSHINCOさんに紹介されたDJのHatchuckくんがプリンス・ファッティと繋がっていたんですよ。それで7インチを出すにあたって、ダブミックスをお願いすることができたんです。レゲエ界隈の人やから締め切りとか心配やったけど(笑)。すごく謙虚で仕事も早い人でした。
中納:ホリー・クックはThe Slitsの再結成に参加しているんですよね。The Slitsは私も大好き。
――パンク/ニューウェイブからレゲエ/ダブを貪欲に取り入れたThe Slitsは、型にはまらず自由に音楽をつくり続けるEGO-WRAPPIN’にも通じるものがある。
中納:だったら、うれしいな。
森:80年代の音楽やデザインって他の時代とは違う独特のオリジナリティがあるなと思って。当時は斬新すぎた音楽も今の耳で聴くと面白かったりするし。そうやっていろんなイメージを膨らませながら、曲を作っているんです。先人の智慧をいただいて、新しい音楽を作りたい。


















