『Mステ』が新たにチャレンジした“オープニングアクト”――竹内アンナ、話題を呼んだ確かなスキルと歌声

「ここ数年の『Mステ』の変化」と言われて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。
2019年10月から、放送時間が21時スタートへと変更になった『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)。振り返ると、この変更が発表された際に番組が明らかにしていたのは、従来のMC席と観客席が整然と分かれたシンメトリーなスタジオセットの構造を変更し、躍動感をコンセプトとし、観客に囲まれたステージがメインセットとなるといった方向性だった(※1)。
放送時間が変わってから半年を経たずして、世間はコロナ禍に突入。ライブエンタメが軒並みクローズを強いられる状況下において、“観客に囲まれた”といった考え方も、もちろんご破算となってしまった。以来、世間やテレビ業界全体のコロナへの向き合い方を横目に見ながら、『Mステ』は様々な試行錯誤を強いられることになる。しかし、2024年4月にはステージセットの変更に伴い消滅していた“階段降り”の演出が復活。今後も『Mステ』は原点回帰と新たなチャレンジのバランスをとりながら変化を続けていくのだろう。
さて、そんななかでここ数カ月、『Mステ』が取り組んでいるのが「SPオープニングアクト」である。21時ぴったりの放送開始と同時に始まるこのパフォーマンスは、直近のチャートを賑わす曲というよりも、特異なテクニックやユニークな音楽性を伝えることに主眼の置かれたものになっている。これまでに、ビートボックスの世界大会を制したJairo(YAMORI/John-T)やハイレベルかつトリッキーなダンスでお馴染みのs**t kingzなどが出演した。
現在の音楽番組の勢力図を俯瞰すると、最近は『CDTVライブ!ライブ!』(TBS系)からの話題提供が非常に多い。ライブハウスのような演出でKing Gnuのステージを全12曲ぶっ通しで放送する企画など、音楽番組の幅を広げていくようなチャレンジがたびたび行われている。そのような状況下において『Mステ』が始めた「SPオープニングアクト」は、『Mステ』なりの審美眼や音楽愛を表現することで自らのプレゼンスを高めようとする企画と言えるだろう。ここに出演するアーティストの選定には、おそらく「自分たちはこういう音楽をいいと思っている」という矜持と自負心が詰まっている。
竹内アンナが残したインパクト
その「SPオープニングアクト」枠で6月20日の『Mステ』に出演したのが、シンガーソングライターの竹内アンナである。
彼女が披露したのは、ループマシンを使ってリアルタイムで楽曲を構築していく様子そのものをエンターテインメントにするパフォーマンスだった。その場で複数のパートを奏でながら録音してトラックを音を重ねていく作業は、ギターの腕に定評のある竹内なればこそ。さらにそのトラックをもとに、自身の曲「ALRIGHT」に加えてジャクソン5の名曲「I Want You Back」、加えて『Mステ』のテーマ曲やその日出演するアーティストの楽曲タイトルを盛り込むなど、気の効いたアレンジで番組を盛り上げた。
この日の彼女のパフォーマンスはSNSでも大きな話題を呼んだ。Mステという大舞台を機に、竹内アンナというアーティストの存在を知った人も多いのではないだろうか。
『Mステ』を放送するテレビ朝日には、他の音楽番組として音楽をより深く楽しむための視点を提供し続ける『EIGHT-JAM』があるが、アーティストの実演も交えながら音楽の世界を掘り下げるこの番組においても、ループマシンは何度か登場している。質の高い音楽を届ける「SPオープニングアクト」の目指すもの、あるいは同じテレビ局で放送されている『EIGHT-JAM』の志向性、そして竹内アンナというアーティストの音楽性――。複数の文脈がうまく合流したパフォーマンスだった。
2018年のデビュー以来メジャーでのキャリアを積んできた竹内アンナだが、その魅力はひとことで言うと、“スキルフルであること”に尽きる。演者として、あるいは作り手として、ハイセンスなふるまいは常に一貫している。
『Mステ』でもその一端を披露した「ALRIGHT」のような大人っぽい歌唱から、「ICE CREAM.」のようなキュートな女子感満載の表現まで、ボーカルのスタイルはまさに変幻自在。この魅力はライブになるとさらに発揮され、楽曲によって表情を変えながらも、ステージ全体で竹内アンナとしての魅力を統一感をもって表現していく。
その“統一感”のポイントとなっているのが、ギタリストとしての姿である。歌いながら聴かせるグルーヴィーなストロークだけでなく、カラフルなソロまで、その幅はボーカル同様に多彩。スリーピース編成でのツアー実績からもわかる通り、ギターボーカルとしての水準が非常に高いと言える。
そして、それらの根幹には彼女が作詞作曲を手掛ける楽曲がある。ロックテイストからシティポップ風までレパートリーの引き出しはさまざまだが、日本語と英語を自在に行き来する彼女のフロウを引き立たせるメロディがどの曲にも標準装備されている。
積み重ねたスキルと新曲「真昼のランデヴー」
キャリアとしては中堅の域へと徐々に入りつつある竹内だが、デビューして早々に才能あふれる作品群が高い評価を得つつも、勢いを増すタイミングがコロナ禍による音楽業界の混乱と重なってしまう不運もあった。そんな苦難に直面しながらも自身のアーティスト性を磨いてきた彼女にとって、先日の『Mステ』初出演はいわばその“仕上がり”を示す場でもあり、ここからギアをもう一段上げていく準備が整ったことの証明だったとも言えよう。
『Mステ』での好演を経て7月23日にリリースされる竹内アンナの新曲「真昼のランデヴー」は、そんな彼女のスキルとセンスがふんだんに発揮された楽曲である。
The Style Council「Shout to the Top!」をも彷彿とさせる楽曲の作りは、90年代の渋谷系のシーンや2010年代半ばからの新たなシティポップの勃興など、日本の音楽業界における“おしゃれな音楽”が生み出される文脈とリンクしたもの。そういった一種の“大ネタ”が違和感なく消化されているのは、彼女がこれまでも海外の音楽をうまく吸収しながら自身の血肉としてきた経歴があるからこそだろう。
2ndアルバム『TICKETS』収録の「Love Your Love」あたりの疾走感あふれる楽曲を少し大人っぽくしたような甘いムードは、彼女のアーティストとしての成熟を感じさせるとともに、これからますます暑くなる夏のサウンドトラックとしてもぴったりハマるのではないだろうか。そんな楽曲の雰囲気に、〈街も季節も追いつけない ふたりだけの世界〉という歌詞、さらには曲のロマンチックさを高めるボーカルもぴったりハマる。
ここ数年の日本の音楽業界は、アイドルシーンの地殻変動を筆頭として、スキルの高さが正しく評価される機運が高まっている。この流れは、シンガーソングライターに対する音楽ファン/リスナーの視線にも影響を及ぼすだろう。
そんな状況において、竹内アンナは時代の追い風を浴びる存在としてさらに注目を集めていくだろう。先日の『Mステ』出演と「真昼のランデヴー」を起点に、竹内アンナが2020年代後半のシーンの台風の目になることを期待したい。
※1:https://post.tv-asahi.co.jp/post-98754/
■リリース情報
Digital Single『真昼のランデヴー』
2025年7月23日(水)配信
配信URL:https://takeuchi-anna.lnk.to/mahiru-no-rendezvous_paps
■ツアー情報
『弾き語りツアー2025 “never mind, dance”』
※終了した公演は割愛
2025年7月19日(土)静岡県・LiveHouse浜松窓枠
OPEN 15:30/START 16:00
2025年7月24日(木)東京都・LIQUIDROOM
OPEN 18:00/START 19:00
<チケット>
4,700円(税込/ドリンク代別途必要)
購入:イープラス/チケットぴあ/ローソンチケット
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