King Gnu 井口理、透明感とスリルが共存した抜群のボーカル力 映画『国宝』『コナン』主題歌から分析

 映画『国宝』(6月6日公開)が話題になっている。歌舞伎を題材にした本作は、芸に一生を捧げた主人公・立花喜久雄(吉沢亮)の生き方と、彼を取り巻く濃密な人間模様を描いた一代記だ。映画『キングダム』シリーズで、顔は同じだが身分が違う王と奴隷の二役を目と口元の表情などで見事に演じ分け、多くの映画ファンから絶賛された吉沢が女形を演じるということもあり、公開前から話題になっていた。公開4週目に入り、すでに興行収入21億円、観客動員数152万人を突破している。日本の伝統を丁寧に描いた映像美や熱量のある人間ドラマを描き、映像作品としてのクオリティの高さが口コミ的に広がったことで大ヒットに繋がっている。

『国宝』本予告【6月6日(金)公開】|主題歌「Luminance」原摩利彦 feat. 井口 理

 そして、邦画の興行収入を語る際に外せないのが、劇場版『名探偵コナン』シリーズである。2024年に公開された劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』は、同年の邦画興行収入のトップとなり、1997年からほぼ毎年続いてきた劇場版『名探偵コナン』シリーズの最高興収を記録している。2025年4月にはシリーズ28作目となる、劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(せきがんのフラッシュバック)』が公開され、わずか19日間で興行収入100億円を突破している。

劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(せきがんのフラッシュバック)』予告2【4月18日(金)公開】

 2025年、邦画の代表作になるであろう2つの作品。その両方の主題歌を歌唱しているボーカリストが、King Gnuの井口理(Vo/Key)だ。

 『国宝』の主題歌「Luminance」(原摩利彦 feat. 井口理)は、本作の劇伴も担当した原摩利彦が作曲。作詞は坂本美雨が手掛けている。『名探偵コナン 隻眼の残像』の主題歌「TWILIGHT!!!」(King Gnu)は常田大希(Gt/Vo)による作詞作曲だ。

 この2曲をピックアップしながら、井口のボーカリストとしての表現力の深度を改めて考えてみたい。

 まずは井口の声質、基本のボーカルアプローチの特色を挙げてみたい。東京藝術大学音楽学部声楽科を卒業した井口は、その経験を存分に活かしたソプラノボイスが代名詞だ。彼の出現は、日本の音楽シーンにとっては革命的な出来事だったと思う。それまでソウルやR&Bの系譜でファルセットを操る男性ボーカリストはいたが、そことはまた異なる系譜で、しかもロックバンドのボーカリストとしてクリアなソプラノボイスを放つ存在はほぼいなかった。

 例えばオペラでは男性の高音域はカウンターテナーと称されることが多いが、井口の歌声は、そことはまた違った趣がある。そもそもオペラとポップス/ロックは、前提として発声の仕方、喉の使い方も違うゆえ、趣が異なっていて当然なのだが、井口の声質は非常に透明度が高く、発している言葉もしっかり聴こえる。加えて特徴的なのは、母音の処理の仕方だ。日本語の母音は柔らかく聴こえるが、歌唱する際には前に出るよりも、口の中や喉の奥に音が集まりやすい傾向がある。ハイトーンのボーカリストが、母音のトーンを歌唱した際、喉の奥から次第に前に出すようなニュアンスになることがあるのは、言語の特徴も関係していると思う。しかしながら井口は、母音を子音と同じくらい自然に前に出して歌う。だからそっと歌っても言葉がはっきり聴こえるのだ。これは、声帯を理解し、自在に操る術が身についているからこそ可能な井口特有のスキルだ。King Gnuでは中高音や中低音も聴かせるが、それをローボイスと感じさせないのも特徴。どの音域でも、声質の印象がほぼ変わらないのも井口ならではの才能である。

King Gnu - 逆夢
King Gnu - ねっこ

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる