King Gnu 井口理、透明感とスリルが共存した抜群のボーカル力 映画『国宝』『コナン』主題歌から分析
「Luminance」「TWILIGHT!!!」でも、井口はソプラノボイスでその存在感を発揮している。
「Luminance」を作曲した原摩利彦は、ピアノや弦といった音色にフィールドレコーディングなどを取り入れ、エレクトロニカやアンビエント色の濃い曲を作る。音数が少ないことも彼の持ち味だ。「Luminance」はミニマルで優雅なアンビエントにして、ビートレスなバラード。バックトラックにも歌声にも浮遊感があるが、まるで無重力の空間を表現しているかのようだ。無重力空間の中では、己はどうしようもできない。そういう意味で、繰り返し聴いていると、映画『国宝』のひとつのテーマでもある人間関係や感情の機微と重なってくる。そうした“機微”の部分を担っているのが井口のボーカルだ。
特に注目してほしいのが序盤。言葉単位でなく、一音単位のトーンが続く中、井口は完璧な音程を保ちながら、吐息のようなアプローチで揺らぎを醸し出している。しかし、ただ一音を吐いて終わりではなく、最後にスッと吸うようなニュアンスを出し、優美なアンビエントサウンドに起伏をつけている。曲の途中からはっきりしたメロディが出てくるが、そこでも序盤と基本のアプローチは変わらない。だが、声量コントロールでトーンに絶妙なクレッシェンドとデクレッシェンドをかけたりと、ボーカルスキルをしっかりと駆使しており、後半にかけてドラマティックに展開する楽曲に合わせ、発音を徐々に強くしていくグラデーションも見事である。
一方の「TWILIGHT!!!」は、進化を続けるKing Gnuがさらに違う次元に進んだ印象だ。楽曲構成、メロディ、譜割り、サウンドメイキングなど、全方位的に斬新で実験的だが、その中でも特筆すべきはラテン(あえていうならサルサ)、ジャズ、ファンク、ロックと目まぐるしく変わるリズムパターンだ。展開が速いダンサブルなこの曲で、井口は言葉を刻むようなアプローチをメインにしているが、微かなビブラートの中に地声とファルセットを織り込むなど、職人技を見せている。また、メロディに合わせ、言葉の置き方やアクセントを巧みに変えているのもすごい。メランコリックなメロディを少し甘めの声でストレートに歌っているのも楽曲にポップさを加えているが、抜群のリズム感で、軽やかにメロディを刻み、甘さを抑えスタイリッシュに仕上げている。
常田とユニゾンで歌う部分では、井口にとっては低いキーになるだが、序盤からのクリアな歌唱を維持したまま、実に不思議でスリリングな雰囲気を醸し出している。そんな井口のボーカルの中で、個人的に最もグッときたのは、最初のブロックと最後のブロックの〈TWILIGHT!!!〉の切り上げ方。前者では次のリズムに繋がるように少し早く切り上げ、後者では曲の余韻を残すようにちょっと放り投げるように終わらせており、非常に印象的な聴きどころだ。
「Luminance」も「TWILIGHT!!!」もボーカリスト・井口理の無双っぷりが、そのまま楽曲の魅力と表情に繋がっている。

























