若者のカリスマ・ヤングブラッド、“推し活”全盛の時代に『Idols』で届ける“自分自身”と向き合う重要性

6月20日にリリースされたヤングブラッドのニューアルバム『Idols』は2025年上半期を代表する“異形の名盤”であり、ヤングブラッドという若きアーティストを“ティーンの代弁者”から“2020年代のイギリスを象徴する表現者”へと一気に引き上げることだろう……そう断言できるほど、このアルバムが放つインパクトは非常に大きなものがある。
1997年8月5日生まれ、イングランド中北部のドンカスター出身のヤングブラッド(本名:ドミニク・リチャード・ハリソン)は2017年春にシングル『King Charles』をインディーズから発表。その才能がすぐさま大手レーベルに見出され、2018年1月にセルフタイトルのEPにてメジャーデビューを果たす。同年7月に発表した1stアルバム『21st Century Liability』(日本未発売)こそチャートインを逃すも、ホールジーやトラヴィス・バーカーとコラボした「11 Minutes (with Halsey feat. Travis Barker)」、MGK(マシン・ガン・ケリー)&トラヴィス・バーカーとの共演曲「I Think I'm Okay」のスマッシュヒットなどもあり、2019年のEP『the underrated youth』が全英6位まで上昇。続く2ndアルバム『Weird!』(2020年)、3rdアルバム『YUNGBLUD』(2022年)はともに全英1位を獲得するなど、チャート上でも大きな成功を残している。
The Beatlesやボブ・ディランといったレジェンドたちをルーツに持ちつつも、パンクロックやグラムロック、ヒップホップにダンスミュージック、さらにはヘヴィメタルまでジャンルを超越した自由度の高い楽曲群こそヤングブラッドの魅力であり、先に挙げたアーティスト以外にもアヴリル・ラヴィーンやマシュメロ、Bring Me The Horizonまで幅広いジャンルのアーティストたちと共演を果たす活躍ぶりを見せている。
そうした型にはまらないスタイルは音楽のみならず、自身のヴィジュアルにも反映されており、メイクやファッションにおいてもジェンダーの壁を破壊し続けることで、既存の固定概念に収まらない形で個性を発揮。自国の政治をはじめ、銃規制や女性に対する暴力、メンタルヘルスなどの社会問題においても積極的に発言するほか、こうしたテーマを楽曲の中に取り入れることでリスナーとの距離を縮め、連帯感を高め続けた結果、ここまで多くの支持を獲得することができた。
ここ日本においては、2020年3月に予定されていた初来日公演が新型コロナウイルスの影響で中止になったものの、2022年8月の『SUMMER SONIC 2022』で念願の初来日が実現。翌2023年11月にはBring Me The Horizon主催フェス『NEX_FEST』出演および初の単独公演と、立て続けの日本公演で少しずつ知名度を高め始めていた。そんな彼の名がここ日本で一気に広まったのは、2024年4月から放送されたTVアニメ『怪獣8号』(テレビ東京系)のオープニングテーマに新曲「Abyss」を提供したことが大きい。人気マンガのアニメ化という注目度の高い作品とコラボしたことは、ヤングブラッドにとって間違いなくプラスとなり、これを機に彼のさまざまな作品に触れたというリスナーも少なくないのではないだろうか。
そんな「Abyss」から約1年のスパンを経て届けられたのが、今回の4thアルバム『Idols』だ。リードトラックにしてアルバムの幕開けを飾る9分超のエピック「Hello Heaven, Hello」はグラムロック期のデヴィッド・ボウイにQueenのダイナミズム、60年代的サイケデリックミュージックなどの要素がミックスされたクラシカルな作風で、従来のファンはもちろんのこと、多くの音楽リスナーを驚愕させたことだろう。1曲2〜3分とコンパクトさが当たり前となり始めたサブスク主流の現代において、いろいろな面で時代に逆行したようなそのスタイルにヤングブラッドの決意のようなものが伝わる。
アルバムはこのオープニングトラックのみならず、収録された楽曲すべてが異なる個性を放っており、そこにはポップパンクやヒッポホップの色が強かった過去作とは相反し、デヴィッド・ボウイやQueenを筆頭にジョン・レノンやポール・マッカートニー、そしてエルトン・ジョンといった自国のレジェンドたち、80年代のニューウェイヴやネオアコやギターロック、90年代を席巻したブリットポップなど、かつてのドミニク・リチャード・ハリソン少年が憧れた“アイドルたち(=Idols)”と真正面から向き合いながら、リスペクトを込めつつ「単なる模倣ではない、自分自身でしかない何か」を見事に作り上げている。























