島爺×堀江晶太、共同制作で再確認した音楽の面白さ “原点回帰”を掲げたアニソンカバー『AnisonGym』を語り尽くす
「“変な楽器”ならではの鳴らし方を追求していくのが自分の使命」（島爺）
――ほかの収録曲についても詳しくお聞かせください。映画『ONE PIECE FILM RED』のウタの挿入歌として知られる「ウタカタララバイ」（Ado）は、神田ジョンさんがアレンジを担当。原曲は打ち込み要素が強いですが、今回のカバーはかなりアグレッシブなロックになりました。
堀江：神田ジョンは一緒にバンド（PENGUIN RESEARCH）をやっている仲間ですし、一本軸を持ったギタリストで、クリエイターとしてもすごく熱量を持って仕事をしてくれるんですよね。彼のルーツにはオルタナやグランジ的なロックがあって、音で荒々しさを表現することに長けた人なので、今回は容赦なくアレンジして欲しくて基本お任せでお願いしたら、原曲の妖しさみたいな部分は残しつつ、ロック的な解釈に置き換えてくれて、期待通り激しい音にしてくれました。これは他の曲にも当てはまるのですが、原曲は女性が歌っている楽曲の場合、男性の島爺さんがカバーする意味のあるものにしたかったので、武骨さのようなものが欲しかったんですよね。
島爺：「ウタカタララバイ」と「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」に関しては、割と近年のアニソンの中から自分が歌ってみたいものとして選曲したんですけど、「ウタカタララバイ」はそもそも原曲がとんでもない完成度なので、ロックアレンジに振り切ってもらえて助かりました（笑）。Adoさんの歌がありとあらゆることをやり尽くしているので、それをただなぞるのも面白くないし、かといって無理に違うことをするのも違和感がある。なのでオケに引っ張ってもらいつつ、原曲のとんでもない表現量を踏襲できるように、自分にやれるだけのことを詰め込みました。だいぶ時間はかかりましたけどね。
堀江：何時間くらいかけたんですか？
島爺：いや、もう、数日にわたって歌い続けたレベルです。とりあえず最初に思い付きでバーッと録ってみたものを聴き返して、自分の中で「許せるか／許されへんか」をジャッジして、許されへん部分を歌い直していく。でも、部分部分を歌い直すと、全体で見た時のバランスがおかしくなるので、それも踏まえて調整していくっていう。この曲の場合は、そういうやり方でも全然許容範囲みたいなところがあったので、繰り返し作業しましたね。
堀江：その自分の中のOKラインは、何を持って判断しているんですか？ 場合によってはその後のミックス作業で形になるものもあったりすると思うんですけど。
島爺：いやあ、こればっかりは感覚みたいなもので、自分がこうなってほしいというところに、綺麗にハマっているかどうか、というのが大きいんですよ。歌っている時はどうしても自分のテンションも上がるので、その時はOKと思っても、後から聴き返すとなんかズレがあるなあと思うことがあって。だから時間を空けてから客観的に聴いてみるようにはしていますね。
堀江：島爺さんとしては、自分の歌声をどんな感覚で見ているんですか？ ボーカリストの方もいろいろで、自分の声が好きな人もいれば、嫌いな人もいると思うんですけど。
島爺：好きか嫌いで言ったら、好きではないですね。自分の中では、めっちゃ良い声というわけではないと思っているので。ただ、活動を続けていくなかで、自分は周りの人と比べて特徴的な声であることは納得していて、その「変な楽器」ならではの鳴らし方を追求していくのが自分の使命なんだろうな、と思っています。
――令和版アニメ『うる星やつら』のEDテーマとして話題を呼んだ「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」（MAISONdes feat. 花譜, ツミキ）は、星銀乃丈さんがアレンジを担当しています。
島爺：これは本当にすごくいい仕上がり。
堀江：ですよね。星銀乃丈とは10年近く前、私が専門学校のイベントに講師として呼ばれた時に出会ったのが最初で、当時、彼は高校生だったんですけど、授業が終わった後に、自分の音源のCDを手渡してくれたんですよね。その時からインターネット上でいろいろなモノづくりをしていて、僕の音楽を好きと言ってくれているのが作品からも伝わるし、そのうえで僕にはない色を持っている子だと感じたので、そこからいろいろ教えたりしていたんです。師匠・弟子というとおこがましいですけど、僕が育成的な形で関わってプロになった一期生みたいな子で。今は本当に素晴らしい作家になって、僕も一緒になって曲を作ることがよくあるんですけど。
――それこそ、最近もTVアニメ『紫雲寺家の子供たち』のEDテーマ「LIKE YOU o（>< = ><）o LOVE YOU?」を、堀江さん、星さん、Akkiさんの3人でコライトしていました。
堀江：そうそう。彼は僕にはないポップなセンスがあって、遊び心をふんだんに取り入れたり、あえてへんてこな音を入れたりするのが得意なんです。いま「あえて」と表現しましたけど、「えっ、これをやっちゃうの？」みたいなことも、彼がやるとなぜかおもしろくなる。そういう若い世代のおもしろさを持っている彼が、若い世代から生まれた名曲のアレンジをしたらどう遊んでくれるかな？ と思って、お任せしました。
――現在はフュージョンバンドのDEZOLVEのメンバーとしても活躍する、ベーシストの熊吉郎こと兼子拓真さんが演奏で参加していますが、こちらは？
堀江：熊吉郎くんは昔スタジオで会った時に、自分のベースプレイをすごく好きと言ってくれたことがあって。僕とは弾き方が全然違うので、「本当かな？」と思って未だにあまり信じてないんですけど（笑）。ただ、彼も若くて超一流の腕前の持ち主なので、参加してもらうことで僕が思いもよらない化学反応が起こるんじゃないかと思って、あえて異色の組み合わせでお願いしました。ベースのレコーディングに関してはほぼ指示はしなかったらしくて、何パターンか録った音源の好きなところを使って組み立てたみたいですね。
――生演奏のスラップベース、シンセベース、サブベースが合わさって、まさに遊び心全開のアレンジに仕上がっていますよね。それを受けて島爺さんはどうアプローチしましたか？
島爺：これはもう、楽曲の持っている力に乗って歌うだけでしたね。そもそもノリがいい曲なので、難しいことも考えることなく。原曲は花譜さんの幼さみたいなものが感じられるかわいらしい声で、ちょっと影のある曲を歌っているがゆえのおもしろさがあると思うんですけど、その表現は僕には絶対にできないところだったので、その歯がゆさはありつつ、だからこそ僕の良さを全振りで歌うようにしました。
――とはいえ、一本鎗に力強く歌うのではなく、ある種の女性的なしなやかさや艶やかさを感じさせる序盤から、楽曲が進むにつれてフリーキーになっていく表現が素晴らしいです。
島爺：そこのこだわりに気付いてもらえると嬉しいですね。1曲の中で流れのようなものを作れたらと思ったので。
――TVアニメ『メジャー～1stシーズン～』のOPテーマ「心絵」（ロードオブメジャー）は、原曲のイメージを踏襲したストレートカバー。アレンジは鶴丸雄太さんが担当しています。
堀江：「心絵」はアニソンの枠を飛び越えて、多くの男の子や女の子の心を動かしてきた名曲ですし、僕はバンドロックは不完全なものが一番美しくて、上手とか完璧とかではなく、その人たちが集まって鳴らしたものがすべてだと思うんですね。そんな楽曲をストレートカバーするのはすごく難しいことですが、アレンジしてくれた彼は僕のアマチュア時代からの友人で、昔、彼が運営していた同人サークルで僕がベースを弾いたりしていた仲なんです。彼は当時からパンクやメロディックパンクが大好きで、パンクやバンド音楽の流儀を言わずともわかっている人なので、そういう愛情のある人にお願いしたくて声をかけました。ちなみにベースは僕が弾いています。別に彼に任せても上手に弾いてくれるのはわかっていたんですけど、久しぶりに一緒にやりたかったのと、愛情がもう1人分増えたらいいなと思って、自分から「俺に弾かせてくれ」って話をして。
――めちゃめちゃいい話じゃないですか。
堀江：そういう繋がりもあったので、本当に真っ直ぐで、我々なりの強さを入れ込んだアレンジになりました。
島爺：その意味でも、この曲が今回のEPの中で一番シンプルだと思うんですけど、その分、歌うのは難しかったですね。堀江さんがおっしゃるように「心絵」はバンドサウンドとして完成している曲なので、そこから僕がテクニックでどうこうできるものではないんですよ。「心絵」を歌うには、僕は年を取り過ぎてしまっている気持ちがあって。だからいかに若く、青くなるか、ということをテーマに歌いました。
堀江：キャリアが長くなると、その分、スキルに頼ってしまう部分が生まれますもんね。
島爺：そう、どうしても技に逃げてしまう、みたいなところが出てしまって。かといって下手くそに歌えばいいわけでもないし、その「技を無くす」感覚っていうのを掴むのが難しいんですよ。原曲の歌やクセを理解して、ある程度組み込みつつ、それを完コピするのではなく自分らしく歌うことを考え始めると、全然ストレートじゃなくなるんですよ。なので「真っ直ぐって何だろう？」ということを改めて考え直したうえで、何回も録り直してバランスを調節しました。
