島爺×ナナホシ管弦楽団、音楽表現を高め合う強固な“共犯関係” 「あの娘のシークレットサービス」から続く切磋琢磨の歴史

島爺×ナナホシ管弦楽団

 島爺が3月17日にデジタルEP『G7』、その翌週24日にナナホシ管弦楽団が7thアルバム『USUAL LEGACY』をそれぞれ配信リリース。両者はこれまで楽曲提供やカバー、ライブ出演を通してお互いの音楽活動に影響を与え合ってきた。そして2022年には音楽制作ユニット カロンズベカラズを結成し、同年12月に1st EP『曲者』をリリース。二人の新展開が話題を呼ぶ中で、そこから間も無く双方の原点を提示するような2作品を発表した。

「デリヘル呼んだら君が来た」 うたった【SymaG】

 そんな盟友とも呼べる間柄の二人だが、なぜこのタイミングでナナホシ管弦楽団の楽曲カバーのみを収録した『G7』と、ナナホシにとっての原点回帰的なロックアルバム『USUAL LEGACY』の制作に至ったのか。両者の歩みを振り返りながら、それぞれの作品に込めた想いを語ってもらった。(編集部)

「『G7』のラインナップはクセがすごい」(ナナホシ管弦楽団)

左からナナホシ管弦楽団、島爺

――ファンにとって絶妙に欲しかった作品が届きました。「カロンズベカラズ」というプロジェクトも進行しているなかで、島爺さんはデジタルEP『G7』をリリース。今作には、島爺さんによるナナホシ管弦楽団楽曲の“歌ってみた”(カバー)がコンパイルされていますが、制作に至った経緯から聞かせてください。

島爺:カロンズベカラズを始めて、今までのふたりの歴史を振り返ってみようかと思ったときに、音源になっていない曲があまりにも多いなと。どれもクオリティ的に嫌やったということではまったくなく、他の収録曲との兼ね合いとか、あまりにも“ナナホシ贔屓”になってしまう、みたいな見え方の問題もあって(笑)。ちょうど会社を立ち上げて、ナナホシ先生とも“同僚”としてやっていくというところで、「ナナホシ管弦楽団カバーEP」なら全部収録できるじゃないか、というのがきっかけですね。

ーーそして、ナナホシさんからは7枚目のアルバム『USUAL LEGACY』をリリース。大ヒット曲「シル・ヴ・プレジデント」からナナホシさんを知った人は腰を抜かすような、ロックなパワーを感じる一枚になりました。

ナナホシ:そうですね。まず、島爺さんが僕の曲オンリーのEPを出すと最初に聞いたとき、「……何を言っているんだ?」と思って(笑)。ただ振り返ってみると、僕らの関係性がハードめな楽曲から始まっているので、『USUAL LEGACY』も『G7』に負けないくらいのパワーと、ロックの空気を感じる作品にしたいなと思って、島爺さんに書き下ろした「OVERRIDE」(『冥土ノ土産』収録)とか、ゴリゴリのやつを軸にやらせていただきました。

――『G7』も、もうひとつの「LEGACY」シリーズという捉え方もできますね。

ナナホシ:そうそう、これに乗っかってじゃないですけど、同時期にリリースして、お祭りみたいな感じにしたかったというのはありますね。

――あらためて、おふたりの関係性を振り返ってもらいたいのですが、お互い、最初にどういうアーティストと認識して、どれがどう変化していったか、教えてもらえますか。

島爺:ナナホシ先生の最初のイメージは、やっぱり“ハードロックな人”ですね。それで、調べてみたら意外と年齢が若そうやなと。曲調的には「もっと年いっててもええねんけどな~」と思いつつ、関係が始まったという感じですね。さっきふたりで話していたんですけど、今回の『G7』を出すにあたってミキシングをやり直すなかで、ナナホシ先生の歴史を振り返るようなところがあって、どんどん洗練されていっているなと(笑)。一番新しい曲が「シル・ヴ・プレジデント」でしょう? 年齢の割にすごく硬派な曲を作る方やなと思っていたら、どこまで多才やねん! と。

シル・ヴ・プレジデント うたった【島爺/SymaG】

――ファンにとっても、どの曲から入ったかによってナナホシさんのイメージは変わりそうですね。ナナホシさんは最初、島爺さんにどんな印象を持ちましたか?

ナナホシ:「また変なやつが出てきたな」って(笑)。

島爺:(笑)。

ナナホシ:82歳って、そんなわけないやろ! と。でも、それだけじゃない異質な雰囲気がありましたよね。表現が多彩で、多くの歌い手さんたちが「自分はこうだ!」という一貫した見せ方をしていたなかで、いろいろな表現にチャレンジしているというか。歌を追求しているな、という印象がありました。選曲も攻めていて、なかなか人が歌わない作品をチョイスするなぁと。『G7』のラインナップがまさにそうですけど、クセがすごい(笑)。

――逆にいうと、「この曲を歌っておけばいい」という選び方をしない。

ナナホシ:そうそう。そういう適当な選び方は絶対しない人ですね。この曲を歌うんだ、という強い意志を感じるし、クリエイターの目立つ部分じゃなくて、影の部分に目を向けてくれるような印象があって。その印象はいまもずっと変わらないです。

島爺:なるほど、言われて確かにそうかもと思いました。たくさん歌われている曲については、もう作家さんは満足されてはるやろなと思うんです。だから、僕が歌ったところで100にプラス1されるだけ。でも、あまり歌われていない素晴らしい作品を僕が歌わせて貰えば、ただの1じゃない気がするというか。あまり意識していなかったけれど、作り手側に立った意識はあったかもしれないですね。

――逆に、すでに多くの人が歌っている楽曲を歌うときは、そこに自分なりの何かをオンしよう、という意識があったり?

ナナホシ:それ聞きたかった!

島爺:それはありますね。だから、他の「歌ってみた」作品をあまり聴かないようにするんですよ。聴いちゃったら絶対に影響を受けてしまうし、違うところで勝負したいなと。

――『G7』の収録曲も、どれをとっても歌唱へのこだわりが感じられるラインナップです。音源化されていなかった曲、というお話がありましたが、そのなかでもどういうふうにセレクトしていったのでしょうか?

島爺:まず、いままで音源化していなかった楽曲を全部挙げていって。そのなかで、例えば一曲目の「IMAGINARY LIKE THE JUSTICE」なんかは、音源化の希望の声がかなり届いていたんですよね。外国の方から「Spotifyにないの?」という熱いメッセージをいただいたりして、そういうところからセレクトしていきました。

――1曲目にふさわしい、オープニング感のある一曲ですよね。多彩な楽曲が年代順に並ぶわけでもなく、きちんと一枚のアルバムになっているのは、曲順の妙、という感じがしました。

島爺:そうですね。曲順は完全に僕の一存で決めてしまったんですが、できるだけ一枚のアルバムとして聴けるように、というのは意識しました。最近は「アルバムの曲順に聴く」という人も少ないかもしれないけれど、やっぱり出す側としては、最低限のおもてなしだと思って。実はもう1パターンあって、「シル・ヴ・プレジデント」を最後に置く案もあったんですよ。けっこう“エンディングのスタッフロール”感があるというか。最終的に「ファッキン・フライデー」で終わるのは、1曲目の「IMAGINARY LIKE THE JUSTICE」につながりやすいからです。

IMAGINARY LIKE THE JUSTICE うたった【SymaG】

――なるほど! 確かにループしやすいですね。曲順について、ナナホシさんはどうですか。

ナナホシ:聴きやすいし、配置が絶妙ですよね。特に「あのこどこのこ」がトラック3というのは、同意しかない(笑)。

島爺:これがポイントで、ハードロックな感じで攻めてきたところで、いっきに空気を変えられる力のある子なんですよ。

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