島爺×堀江晶太、共同制作で再確認した音楽の面白さ “原点回帰”を掲げたアニソンカバー『AnisonGym』を語り尽くす

島爺×堀江晶太 特別対談

 島爺がアニソンカバー作品『AnisonGym』をリリースした。同作のサウンドプロデュースは、2021年リリースの島爺の楽曲「花咲か」で作曲を手がけた堀江晶太が担当。Ado「ウタカタララバイ」、きただにひろし「ウィーアー!」、ロードオブメジャー「心絵」などの名曲たちを、堀江はもちろん、彼が信頼を寄せているクリエイターがアレンジを手がけている。

 リアルサウンドでは、島爺と堀江晶太による対談を企画。「花咲か」以来にタッグを組んだ両者が、『AnisonGym』でどんなシナジーを起こしたのか。各曲の制作エピソードと共に、それぞれの音楽に対する眼差しを語り合ってもらった。(編集部)

“原点回帰”ーーなぜ島爺はアニソンカバー作品を制作したのか

島爺×堀江晶太
島爺×堀江晶太

――島爺さんは、今年1月にボカロPの日向電工さんの楽曲カバー集『GEW』をリリースしましたが、それに続く今作はアニソンのカバー集。しかも数多のアニソンを手がけている堀江晶太さんがサウンドプロデューサーを務めています。

島爺:そもそもの始まりは“原点に立ち返る”ということで、今までの自分の活動を振り返りつつ、初心に返って思い出したいことを考えた時に、自分の歌の原風景はやっぱりアニソンにあるな、と思ったんですよね。最初に心を動かされた音楽は『ドラゴンボール』とかのアニメの曲だった。いつかアニソンカバー集を作りたいと思っていたし、今ならそれができると思ったのが、制作のきっかけでした。ただ、アニソンカバー集となると、いろんなタイプのオケが必要になってくる。それで誰に作ってもらうと一番自分のテンションが上がるかを考えた時に、真っ先に浮かんだのが堀江さんだったので、ダメ元で聞いてみたらOKをもらえました。

堀江:島爺さんには以前、「花咲か」を提供させてもらったことはありましたが、普段から頻繁にやり取りしているわけではなかったので、声をかけてもらえたのは意外だったし、すごく嬉しかったですね。僕はピンポイントな依頼も嬉しいですけど、「堀江に任せておけば何とかしてくれる」みたいな感じで投げてもらえるのもすごく好きなんですよ。

――制作を進めるにあたり、まずどんなことを考えましたか?

島爺:選曲に関しては、自分のほうで決めたのですが、なるべく幅広い年代の楽曲を歌いたいなと思っていたので、アニメのタイトルを年代別に調べていって、自分が歌いたい曲・好きな曲をリストアップしていきました。それが20曲くらいあったんですけど、そこから厳選したのが今回の7曲です。なので歌いたい曲はまだまだあるんですけど、アニソンカバー集はこの1枚きりになる可能性もあるので、悔いが残らないように、その界隈におけるスタンダードと言える楽曲を自分らしく選んだ感じです。

堀江:制作の流れとしては、島爺さんが選んだ楽曲を、僕と僕が信頼しているクリエイターが分担でアレンジして、ボーカルのレコーディングは島爺さんがご自身のスタジオで録るプランだったので、完全にバトンリレーでした。僕はそういう各々の腕前を信じて任せる作り方も好きなんですよね。お互いどうくるかわからないおもしろさもありますし。で、アレンジの方向性に関しては、大幅にリアレンジするパターンと、原曲を比較的真っ直ぐ再構築するストレートカバーの2パターンがあるのですが、ストレートカバーは難しいんですよね。もちろん原曲には一生勝てないし、ただ普通にアレンジしても島爺さんの歌声に負けてしまう。島爺さんはバンドマン気質の方で、音楽とガチンコで向き合うというか、裸一貫で立ち向かっていくところの理解が深い印象なので、全体として島爺さんの歌に相応しい音、負けないポイントなりアイデアを用意することを大切に制作を進めました。

――それでは、堀江さんが直接アレンジに関わった楽曲の制作エピソードからお伺いしていきます。まずアニメ『ONE PIECE』の初代OPテーマ「ウィーアー!」(きただにひろし)は、堀江さんとAkkiさんが共同で編曲を担当。先ほどの話になぞらえると、いわゆるストレートカバーに近いアプローチです。

堀江:Akkiさんにはウワモノやシンフォニックな部分を担当してもらって、僕はバンドサウンド周りやノリ感、色合いを調整しやすいパートを手がけました。もう言わずと知れた名曲で、それこそカバーを含めいろんな方が歌っているなかで、オリジナルにあるワクワク感や冒険感、キラキラした少年性のようなものは島爺さんにも似合うと思ったので、そういう部分は活かしつつ、例えばバンドサウンドのところをモダンで武骨な音にすることで、より島爺さんらしい按配になるように意識しました。

島爺:この曲のオケが届いた時は、こんなに素晴らしいトラックで歌えるのかと思って、ガクガク震えましたからね(笑)。まず躍動感、そして瞬発力。音を聴いているだけで、どう歌えばいいのかが見えましたから。特に何か小細工をしなければいけないわけでもなくストレートにドカーンと歌ったら、それがちょうどいい感じになる。そこまで考えたうえで作ってくださったことを、音からも感じました。

堀江:もともと私の作る楽曲のエネルギー感が好きと言ってくださっていたのと、歌もアタックがはっきりしたものが来るだろうイメージがあったので、そこにちゃんとハマる形にしたいという思いがあって。ウワモノのキラキラした音や美しい旋律は残しつつ、情感的な圧でワクワク感を再構築する。その音の中にあっても埋もれない、主役に相応しい歌を歌ってくれて嬉しかったです。

――レコーディングではどんなことを意識して歌いましたか?

島爺:原曲のきただにさんの歌がとんでもないので、それをマネたり競おうとするのは絶対に無理で、僕は僕じゃないといけない。なのでこのアレンジのオケのうえで、いかに僕らしく泳げるか、ということを重視して歌いました。自分で歌ってみて改めて感じましたけど、やっぱりきただにさんはすごい方だと思いましたね。

堀江:少し前にGeroさんの作品でJAM Projectさんとのコラボ曲を提供した時に(Gero×JAM Project×堀江晶太「誰が為のヒーロー」)、きただにさんのレコーディングをしたことがあるんですけど、本当にすごかったです。声のボリュームとはまた違う、生のエネルギーを感じて。もちろんとても上手いのですが、それとはまた別の軸の、何十年も活動されている方ならではのパワーを示してくれた経験でした。

島爺×堀江晶太

島爺×堀江晶太

――堀江さんはもう1曲、アニメ『とある科学の超電磁砲』のOPテーマ「only my railgun」(fripSide)の編曲もおひとりで手掛けています。ロック色の強い斬新なアレンジで驚かされました。

堀江:この曲の場合、キーの都合もあってゼロから組み換える必要があったので、それならばと好きにやってみました。原曲のキメの気持ち良さやシンセサイザーがドカンと鳴り響くストレートな“かっこいいアニソン”の部分は残しつつ、島爺さんがこれまでやってきたスタイルに繋がるアコギの音は入れたいなと最初から考えていて。その武骨で一番アナログに近い音と、デジタルなアニソンのかっこよさを混ぜたサウンドにしたかったんですよね。歌はどう来るのか読めない部分があったんですけど、すごく良かったです。島爺さんは(声を)強く鳴らすところに魅力がある方だと思うんですけど、弱く歌う部分もしっかりコントロールしていることを改めて認識できました。

島爺:いやあ、この曲は難しかったですね。弱い音を表現する時に間違いがちなのが、(声を)鳴らさない方向にもっていくことで、そうするとボリューム自体が小さくなるし、体も鳴らさない方向にいってしまう。僕も歌い始めの頃はそうやっていたのですが、そうではなく、弱い声の時はどれだけ情報量を密に入れられるかが重要なんです。声のちょっとしたかすれ具合や息の量、そういった何かしらの情報が詰まっていないと、いいものにならないんですよね。特にこの曲の場合、Aメロからサビまでの音域が実は結構狭くて、ずっと上のほうにある。その中で楽曲のストーリーも鑑みつつ、整合性を取りつつ、どう表現するか。その意味ではなかなかいいところまで追い込めたと思います。

堀江:この曲はそういう“強さ”と“弱さ”のバランスが印象的ですけど、相反する要素が両立している良さというのがあると思うんですよね。大きい声を出せば熱い表現になると思われがちだけど、実はそうでもなくて、乱暴にすることで逆に楽曲が薄くなることもあるし、鳴らしたい部分だけを残して、それ以外の要素を省くことで強調できることもある。それが音楽をやっていておもしろい部分でもあるし、そういう歌の魅力がこの曲では存分に発揮されていると思います。

島爺:原曲は(南條愛乃の)透き通った歌声とシンセのクリスタルなキラキラ感が合わさってひとつの良さになっていたと思うんですけど、それをそのままカバーしてしまうと、僕の声には合わないので、熱量のある方向に上手く落とし込んでくれて有難かったです。僕が歌うことで、主人公が男の子のロボットものアニメの主題歌みたいになった気がしますけど(笑)。

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