『VOCALOCK MANIA ver.4』運営×出演者鼎談 和田たけあき・Sohbanaに聞く、ボカロ尽くしイベントの醍醐味

『VOCALOCK MANIA』の醍醐味とは

 ボカロPが主役のイベントとして、2023年から4回にわたって多くのボーカロイド音楽ファンを楽しませてきた「VOCALOCK MANIA」。第5回となる『VOCALOCK MANIA ver.4』が、7月12日渋谷ストリームホールで開催される。

 ボカロPが自ら行う楽曲解説に即売会、ボカロPによるDJやライブ、カラオケブースなど、隅から隅までボカロ尽くし。すべてのコンテンツがこれまでよりパワーアップしたイベントとなっている。

 その開催を前に、初回から出演してきたボカロPの和田たけあきとSohbana、「VOCALOCK MANIA」運営の梅川昂大による鼎談を行った。お互いをリスペクトする人気ボカロP同士の楽曲評から、Sohbanaが仕掛け人となった注目のコンピレーションアルバム『Puzzle MANIA 89s』、さらには昨今のトレンドまで、じっくり語り合ってもらった。(後藤寛子)

ボカロP同士の情報交換・交流の場としても機能する「VOCALOCK MANIA」

『VOCALOCK MANIA ver.4』Sohbana×梅川昂大×和田たけあき(撮影=林直幸)
和田たけあき、梅川昂大、Sohbana

――まず、「VOCALOCK MANIA」立ち上げの趣旨から伺えますか。

梅川:僕がソニーミュージックのA&RとしてボカロPやクリエイターの方々と一緒に仕事をさせていただく中で、みなさんの制作過程を深掘りするとかなり面白いことを知って。本当にPC1台で作っていて、いわゆる一般的なJ-POPにおける音楽の作り方とは全く違うし、楽曲のクオリティも個性もすごいんですよね。だから、彼らが主役になれるフェスを作りたいと思ったのがきっかけでした。ボカロ関連だと、『マジカルミライ』や『The VOCALOID Collection』(ボカコレ)などがありますけど、少し違う角度でボカロPにステージに立ってもらって、それをお客さんが体験できる場所を作りたいなと。社内も社外も巻き込みながら、少しでもこのカルチャーに貢献できたらと思って、これまで4回開催してきました。

――和田さんとSohbanaさんは初回の『ver.0』から参加されていましたが、第1回に参加した時はどんな感触でした?

和田:最初は楽曲解説で参加して、楽しかったんですけど、これ絶対ライブもしたかったやつじゃん! と思って(笑)。そのあと打ち上げのようなものがあった時に、梅川さんに「ライブしたかったです、次絶対やりましょうよ!」と言ったのを覚えています。2回目は本当にライブで出演できてうれしかったですね。

Sohbana:僕は、ボカロPとして一番憧れている存在が稲葉曇さんなんですけど、『ver.0』の楽曲解説で稲葉曇さんと対談したんですよ。直にお会いするのは初めてだったので、めちゃくちゃ貴重な時間でした。初回で曇さん、次の『ver.1』ではr-906さん、さらに『ver.2』ではヒトリエのシノダさんとお会いできて。僕としては、活動してきてよかったと思えるような、この世界に飛びこんで話したかった人と話せるイベントになっていますね。

――やっぱり楽曲解説というコンテンツは大きな特徴ですよね。

梅川:ツイキャスや動画で解説をする方はいらっしゃったと思いますけど、リアルな場所でやるのは珍しいと思います。最初30分に設定したら短くて、45分に増やしました。お客さんも積極的に質問してくれたり、メモを取ってる方も多いです。

和田:やる側としては、楽しさもありつつ、プロジェクトファイルが汚いのがバレるなあと思ったり(笑)。質問に答えることによって、自分のこだわりに気づかせてもらうこともありました。

Sohbana:聞き役としてボカロPが参加するというかたちも面白いと思いますね。僕が聞き役側で参加した時は、客観的に「僕視点ではこうするんですけど」と言ってみたり、その場で情報交換みたいなことができて。

梅川:同じボカロPがいてくれることによって、よりマニアックなところを掬えるのは絶対あると思います。

Sohbana:ボカロPって、人に習ったとか、DTMの師匠みたいな存在がいるほうが少ないんですよ。自分で勝手に勉強していって、わりと早い段階でそれぞれ違う方向に進んでいくから、音ひとつとっても全然作り方が違うんですよね。

『VOCALOCK MANIA ver.4』梅川昂大×Sohbana×和田たけあき(撮影=林直幸)

――だから、ボカロP同士の情報交換が新鮮なんですね。ちなみに、おふたりは知り合って長いんですか?

和田:実は、ちゃんと話すのは初めてです。

Sohbana:大先輩ですから。なんなら高校時代にめっちゃ聴いてました! みたいな話をしなきゃいけない。たけあきさんが僕のことを知っているという自信が持てず、イベントでも話しかけにいけなかったんです。

和田:そうだったんだ。ずっと一緒に出続けてたのに(笑)。

――では、せっかくの機会ですので、お互いの楽曲への印象をお聞きできれば。

和田:Sohbanaさんの楽曲は、隙間感が好きなんですよね。言葉にするのは難しいんですけど……ギターやシンセ、一つひとつの音をとってみてもすべてに空気が含まれているような感じがする。音数が少ないわけではないんだけど、音のないところが気持ちいいなっていう感覚があります。

Sohbana:……相当聴いていただいたんだなと思って、今、非常にびっくりしてます(笑)。たしかに、空気の作り方は意識しているところかもしれないですね。あと、無料音源の使い方がうまいと言われたことがあります。

和田:無料音源だとは知らなかったけど、そういうチープさの落とし込み方はめちゃめちゃうまいですよね。今後も、変に音が良くならないでほしい(笑)。

Sohbana:ならないと思います(笑)。仕様としてそういう音になってしまっているというか……なりたいものになりきれなかった結果の個性なので。

和田:いや、みんなそうだと思うよ。僕なんて、本当に自分が好きな音楽と、自分の得意な音楽がだいぶ違って。

Sohbana:え、どういう音楽が好きなんですか? 僕は「チェチェ・チェック・ワンツー!」が好きで、ああいう「たけあきさんと言えばこのサウンド」みたいなイメージがあるんですけど。わかりやすくドラムとギター2本があって、ズンズンしてるような。

和田:いやあ、実はシューゲイザーとか、もっと綺麗なほうが好きだったりします(笑)。

――そうなんですね!

和田:ただ、自分の中にある振れ幅の端っことして、今言ってもらったような曲を作ったらーー表現は悪いですけど、ウケちゃって(笑)。そこをちょっと突き詰めて、得意かもしれないと気づいた感じですね。僕みたいなパターンもあるし、好きなボカロPをまっすぐ追いかける人もいるし、いろいろだと思います。

和田たけあきとSohbana、それぞれに抱いていた印象は?

『VOCALOCK MANIA ver.4』和田たけあき(撮影=林直幸)

――梅川さんがおふたりをイベントに呼んだ理由というと?

梅川:和田さんは、個人的にご本人歌唱のほうをよく聴いていて。ライブもされていたので、ライブで聴きたいクリエイターさんという印象でお声がけしました。楽曲に関しては、和田さんはイントロ職人だと思っていますね。人の心を掴むコツというか、どうしたら心が躍るかわかって作ってらっしゃるのかなって。

和田:イントロに関しては正直馬鹿のひとつ覚えですよ。ギターをオクターブで重ねて、同じフレーズのシンセを重ねたらカッコよくなったから、ずっとこれでいこう! みたいな感じ。

梅川:Sohbanaさんはロジカルに話される人なので、オブザーバーにぴったりだなというところでお声かけしました。まず、京大卒のボカロPというパワーワードがありますし。

和田:たしかに。東大はわりといるけど、京大ってあんまりいないよね。

Sohbana:いや、いるんですけど、全員隠してる(笑)。

梅川:(笑)。Sohbanaさんの楽曲は、和田さんがおっしゃったとおり音作りもなんですけど、言葉選びやワードセンスがすごく光っていると思います。造語を作るのがうまい。

和田:歌詞で言うと、Sohbanaさんはお説教をエンタメにするのに成功した唯一のアーティストだと思う。みんなそこはいい感じに避けて作るけど、避けないところに清々しさすら感じます。

Sohbana:唯一と言っていただけるとうれしいですね。もう説教しか出てこない時があります(笑)。最初は、1回だけちょっと悪口を言ってやろうと思って、「次世代」という短い曲を作って『ボカコレ』に出たんですよ。そしたら、特に近しい人たちからの反響がよくて。僕がやってもいいんだ、と思っちゃった。

和田:はははは!

梅川:和田さんとSohbanaさん以外の方も、それぞれの個性や尊敬できるところがある方々に声をかけさせていただいています。当然僕の好みもありますけど、僕個人だけじゃなく、チームとしてやるならこの方、DJだったらこの方、みたいにバランスを見つつ考えていますね。

――新人発掘に関しては、常に『ボカコレ』などを見てチェックしているんですか?

梅川:もちろんチェックしているんですけど、数が増えすぎて、追い切れていないところもあります……。

Sohbana:でも、梅川さんを始めスタッフの方々はめちゃめちゃボカロを聴いてるよってリスナーにもボカロPにも伝えたいですね。頑張っていたら絶対見つけてくれるはず、ということは伝えたい。

和田:そうだね。僕も普段からいろいろチェックしていて、人に教えたいボカロPがいっぱいいます。

『VOCALOCK MANIA ver.4』Sohbana(撮影=林直幸)

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