King & Prince、ヨルシカ、文藝天国、映秀。……楽曲+αで新たな価値を創造する作品表現の新潮流

 近年の音楽シーンの大きな潮流として、楽曲と様々なメディア、コンテンツを交差させることで楽曲/作品の魅力を広げるアーティストの台頭が挙げられるだろう。たとえばYOASOBIがデビュー以来一貫して”小説を音楽にする”ことをコンセプトにしているように、あるいは米津玄師「IRIS OUT」「JANE DOE」やCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」などタイアップ先作品の世界観を踏まえたアニメ主題歌のヒットが続いているように、楽曲単体ではなく楽曲と各コンテンツが親和する相乗効果で爆発的なヒットを起こすケースが続いている。

 それを踏まえ、最近ではアーティスト自身が楽曲だけではない新しい+αなコンテンツを生み出し、楽曲の世界観や魅力、価値をより多角的に表現するようなケースも増えてきた。本稿ではそんなアーティストによる楽曲+αのコンテンツに着目し、その施策を掘り下げていく。

映画や手紙、様々なコンセプトから生まれる作品たち

 King & Princeが昨年12月24日にリリースした7枚目のアルバム『STARRING』は、映画というテーマで制作された。収録曲を架空の映画の主題歌に見立て、その架空の映画のポスター・特報を実際に作成。50TA(狩野英孝)、水野良樹(いきものがかり)、小原綾斗(Tempalay)、BBY NABE、Matt Cab、MATZ、eill、Ayumu Imazuといった豪華な楽曲提供陣ももちろんのこと、映画『サマーフィルムにのって』の松本壮史監督や数々のCM制作に携わる高木久美子監督とタッグを組んで映画かのような特報映像やビジュアルを制作。11本に及ぶ映画すべての企画を考えたのはメンバーである永瀬廉と髙橋海人ということで、音楽におけるアルバムという形態の新しい型を提唱するような作品となった。

King & Prince「Theater」MV

 ヨルシカが今年3月にデジタルリリース予定のアルバム『二人称』は、ヨルシカのメンバーでありコンポーザーのn-bunaが2月26日に刊行する“書簡型小説”『二人称』を音楽で表現した作品。この“書簡型小説”は32通の封筒、原稿用紙、便箋をあわせて約170枚で構成されている。詩を書く少年と文学に詳しい「先生」による奇妙な文通のやり取りが、やがて思わぬ真実に繋がっていく小説となっている。アーティスト自身が執筆した実際の封筒と手紙を一枚ずつ開く風変わりな小説と連動したコンセプトアルバムということで、こちらも音楽+αの新しい価値を生み出すアルバムとなりそうだ。

二人称

 オルタナティヴロックユニット・文藝天国は昨年7月に五感で体感するアート作品『μεταμορπηοςε』(読み:メタモルフォーゼ)をリリース。文藝天国は自身のホームページで〈文藝天国は、「世界の捉え方そのものを再構築する」ことを目的としたアートコレクティブである。〉と宣言し、通常の作品制作の範疇を超え、「表現手法」「経済」「価値観」という異なる領域にまたがる新たな思想を提示することを彼らの考えるオルタナティヴだと定義している。そんな文藝天国が目指す新たな表現技法として『μεταμορπηοςε』では、音楽、映像、香り、味覚といった人間の五感を活かしたコンテンツが展開。Dolby Atmos立体音響ミックスに挑戦して制作された楽曲に、メンバーのすみあいかが監督したミュージック・フィルムを制作。さらに嗅覚を担う香りとして「metamorphose femme」と「metamorphose homme」と題されたオールドパルファンを発表。味覚としては文藝天国の運営する紅茶専門店 喫茶文藝が、「μεταμορπηοςε」をテーマにしたクラフトアイスティーフロートを2日間のポップアップショップ にて販売するなど、新しいアート作品の型を生み出した。

文藝天国「μεταμορπηοςε」 (Music Film)

 そんな音楽+αのさらなる新機軸を生み出そうとしているのが映秀。だ。映秀。が1月7日にリリースしたデジタルシングル「Fly You to the Moon」は楽曲を起点に全4話に渡る漫画、MV、そして近日開催予定のワンマンライブへと連なる構造が展開される。音楽、漫画、映像、そしてライブという異なる4つの媒体が一体となってひとつの物語を紡ぐのだ。

 「Fly You to the Moon」は軽やかなロックチューン。映秀。らしく、歌を歌い音を鳴らす喜びに満ちた爽やかな歌声とバンドアンサンブルが調和する1曲に仕上がっている。セカイ系を彷彿とさせる歌詞では揺らぐ“君”を救い出し、共に夢を見ようと新しい世界へと踏み出すストーリーが描かれる。そんな「Fly You to the Moon」の世界観を描き出す全4話の短編漫画は映秀。の各SNSアカウントにて公開されている。大学生の黒澤月音は中学生の頃から音楽活動をしていたものの、友人の立花飛鳥に強い劣等感を覚え音楽から離れてしまう。一方の飛鳥は月音に強い憧れや尊敬の念から音楽をはじめたものの、結果として疎遠になってしまったことを気にしている。そんなふたりがひょんなことから再会。互いにぶつかり合うことで本音を理解し合うストーリーが展開する。

映秀。「Fly You to the Moon」Music Video

 そしてMVでは短編漫画のラスト1話のストーリーがリンク。楽曲の世界観を基に制作された漫画の映像化を元の楽曲のMVで実現するという新しいメディア横断型の音楽体験が実現したと言える。さらにこの漫画、MVで描かれるストーリーが1月15日に映秀。が開催する『映秀。ワンマンライブ2026 「新年FEVERしまSHOWTIME!!」』とも繋がる。短編漫画の最終話で月音と飛鳥が出かけるのが映秀。のライブであることからも、このライブそのものがこの短編漫画の再現となっており、観客自身が月音や飛鳥になったような気持ちになることができる。つまり漫画とMVといったメディアでのストーリーが現実で開催されるライブとリンクし、登場人物たちと同じ体験をすることができる。それが本企画の醍醐味であり、新しい点と言えるだろう。

 今や音楽におけるメディアミックスは単なる楽曲プロモーションではなく、音楽に新しい価値を与える重要なファクターとなっている。特にアーティスト自身がコンセプトを持って制作に臨むことで楽曲の世界観をより多様な形で表現する新しい音楽体験の創造が、今年の音楽シーンの大きな流れになるかもしれない。

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