GRAPEVINE、30年以上続くバンドとしての矜持と自負 『あのみちから遠くはなれて』略称“アミーチー”の意図とは

1年8カ月ぶりの新作『あのみちから遠くはなれて』は、『Almost there』(2023年)に続き高野勲プロデュースのもと制作された。GRAPEVINEを知り尽くした高野とメンバーの共同作業で、また新たなGRAPEVINEが見えてくる――田中和将(Vo/Gt)、西川弘剛(Gt)、亀井亨(Dr)の三人が本作について語ってくれた。(今井智子)
“詰まり”を突破するトライアル
ーー新作『あのみちから遠くはなれて』の起点は、昨年のシングル「NINJA POP CITY」になるんでしょうか? 歌詞に〈シティでポップ〉と出てくるので、シティポップブームに対する何かがあるのかと思ったんですが。
田中和将(以下、田中):いや、一瞬見間違えてくれたらラッキーぐらいの感覚です(笑)。やってることはシティポップとは違いますし。僕の中で曲のイメージがゲームとかVRっぽいというか。それで現在の皮肉を感じられたらなというイメージが浮かんできたんですよ。
ーー亀井さんはどういうイメージでこの曲を作られたんですか?
亀井亨(以下、亀井):前作から高野(勲)さんのプロデュースでやるようになってからは、僕が作ったものをみんなで共有した後に、高野さんが改めて違うアプローチで返してくれるというやり方になったんですけど、僕が作った時点でははこんなに軽快じゃありませんでした。もうちょっと歌モノっぽかったんですけど、高野さんから返ってきたアレンジがこういう感じで。そこから始まって、みんなであーだこーだしながら作っていった感じです。
田中:勲氏的にはリズムアプローチがキモだったみたい。ベースとドラムのあの感じ。いつも思うんですけど「こういうのやってなかったでしょ?」というのを、やらせようとしてる感じがあるんですよね。自分らだけでやってると「これ何回もやってる感じになるなあ」と詰まるというか、暗礁に乗り上げることも多かったけど、そういうトライアルになり得るアイデアがあると盛り上がりますね。
西川弘剛(以下、西川):よく高野さんに言われるのが「そんなの、やる前から想像できるじゃない?」って。想像できるものならすぐできる、だから“何か”を変える要素を提案してくれるんです。
田中:長い間、“中の人”やアイデアマンとしてやってくれていたのを、プロデューサーとして立つことになって、ご本人も少しモードが変わったというか。「やってもいいなら俺も言いたいこと言うよ」ぐらいノリノリなんです。いろいろ見てきた上で「コイツらのこういうところがあかんな」とか「こういうことやらせたいな」とか、思うところはあったんでしょう。
西川:だから「ギターでなんとかしてください」みたいなことがあったり、逆に「NINJA POP CITY」みたいに頭からギターじゃないこともあるし。



トーキングブルースの導入、「天使ちゃん」制作秘話
ーー配信シングル「天使ちゃん」は、高野さんから田中さんへ「ハープを吹いてハンドマイクで歌って」というアドバイスがあったそうですね。
田中:最近セッションで曲をやってなかったから、「セッション曲にしようか」って話になったんです。無駄にだらだらセッションしてもアレやから、何かテーマを決めて、みたいな。高野さんに、たまにはギターを持たんと“トーキングブルース”をやりなさいと言われて「ああなるほど」と思い、ある程度の方向性は決め込んでやりました。
ーー歌詞に〈ベルリン〉が出てくるので、映画『ベルリン・天使の詩』を連想しました。この歌の“天使”はどんな存在なんでしょう?
田中:その映画からもヒントを得ています。具体的な“天使”でもいいし、“推し”でもいいし、自分を動かしてくれるモチベーションになる存在を追いかける歌になればいいなと。
ーーこういうスタイルの曲だと、作詞の方法も変わるんじゃないですか?
田中:「トーキングブルースをやれ」と言われて、普段ならメロディに仮のホニャララ英語を乗せて歌っていくんですけど、今回はそもそもメロディがないんですよね。本来、トーキングブルースって詞先のスタイルが多いと思うんです。あるいは歌詞と曲が同時に生まれる、ボブ・ディランみたいなパターン。今回、歌詞がない状態で「どうやって仮歌を歌おう?」と悩んで、家から英語のペーパーバックを持ってきて、演奏に合わせて抑揚つけながら朗読するところから始めた。自信はあったんですよ。トーキングブルース的な音楽自体は好きで聴いてきたわけですし。でも実際にやってみたら、ただのミック・ジャガーやなと自分で思いました(笑)。
ーーいいじゃないですか(笑)。ミック・ジャガーではだめなんですか?
田中:イメージとしてはウディ・ガスリーとかルー・リードだったんですけど、結果的にただのミック・ジャガー(笑)。でも日本語詞だし、ミック・ジャガーを知らない人も多いし、いいんじゃないかと。
ーーミック・ジャガー知らないですかね? The Rolling Stonesは今も世界的なバンドですし。
田中:いやいや、でも今の人は“ストーンズ”と聞いたらSixTONESの方を連想するでしょう。「サティスファクション」ぐらいは知ってるかもしれないけど「ミス・ユー」は知らない、みたいな。だから、こういうタイプの曲も初めて聴く感覚なんじゃないかと思います。

ーーなるほど。でも、そういうやり方で歌詞を書くと、通常と違うマインドになるんじゃないかと思いますが、その辺のご苦労はなかったですか?
田中:楽しかったですよ。そもそも英語のペーパーバックを朗読してるんで、それを日本語に変換していく作業は、いつもと同じといえば同じ。イメージはちゃんとあったから。日本語の偉大なトーキングブルース、左とん平の「とん平のヘイ・ユウ ブルース」。
ーーそこですか(笑)。ブルース・ハープを吹きながらのトーキングブルースに、私はチバユウスケさんのスタイルに近いものを感じました。
田中:僕はそんなに熱心なTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのリスナーじゃなかったので詳しくないんですけど、そういえばラジオ番組に出た時に、「すごいかっこいいねえ、ミッシェルみたいだね」って言われたことはありました。
西川:でもこんな曲やってる人って、今いないでしょう。これを聴いて、自分たちのバンドの曲だとも思わない(笑)。歌詞がすごく面白いし。時代を遡っていく感じじゃないですか。「天使ちゃん」というタイトルもバブルの時代っぽくて、世界観が昭和だなと。それで、「これは左とん平か」と気づいたんです。今回限りでこのスタイルを終わらせるのはもったいないと思いますね。もう1、2曲、トーキングブルースをやってみたいと思いますね、違う形で。
亀井:田中くんの負担が大きい曲やなと思ったけど、心配はしてなかったですね。やったことのないパターンなんで完成系が見えにくかったんですが、やっていくうちにカッコよく仕上がっていくのが楽しかったですね。歌詞だけじゃなく、弦も入れたり、演奏も今までと違ってドラムも凝った録り方をして。だから、仕上がっていく過程でどんどん楽しくなっていきました。


















