ヴァイオリニスト NAOTOが“危機感”とともに歩んだ20年 ポルノグラフィティへの想い、シーンへの視線まで語る

NAOTOが語る“危機感”とともに歩んだ20年

“ソロアーティスト NAOTO”を形成したポルノグラフィティとの出会い

NAOTO(撮影=リアルサウンド編集部)

――では、これまでの活動のなかで特に印象に残ってるシーンを教えてください。

NAOTO:やっぱりデビュー直後の一発目のライブですね。なんばHatchでの光景は、一生忘れないと思います。それまでやってたライブと比べて倍くらいのキャパだったのに即完したんですよ。「意味がわからん!」と思って(笑)。僕は大阪出身なので、おふくろが200枚くらい買って近所の人に配ったんじゃないかなって思ったんだけど、実際はもちろんそんなことはなく。しかも、それまでほかのアーティストの舞台に立たせてもらってたときは、自分が弾くパートで数人のお客さんと目が合うだけだったのが、そのなんばHatchでは客席全員と目が合うんですよ(笑)。

――あははは。だってNAOTOさんだけを見に来ている方々なわけですから(笑)。

NAOTO:最初は「なんで俺のこと見てんだ!?」みたいな(笑)。次の名古屋公演からは、「そういうものなんだぞ」と自分に言い聞かせて慣れていきました。

――NAOTOさんはデビュー前から本当にさまざまなアーティストのライブに参加されてきたので、注目度が大きかったと思うんですよ。ステージ上の存在感がハンパないですし。

NAOTO:“サポートミュージシャン”という関わり方なので、本来であればステージ袖で弾いていても一緒なんですよ。そもそもロックバンドにヴァイオリンは必要のない存在だとも思うし。だから、セットリストのなかでヴァイオリンが参加しない曲の場合は、ステージからはけたりすることも多かったんですよね。でも、ポルノグラフィティのライブで、「途中でステージからいなくなるのはダメだ」と言われたんです。だからヴァイオリンが入らない曲のときはコーラスをやってみたり、タンバリンを叩いたり、鍵盤を弾き始めたり、踊ったりするようになって。「邪魔だ」と言われるまで何かやり続けてやろうと思ったんですよね。

――それによってNAOTOさんへの注目度が高まっていったという。

NAOTO:ポルノチームは受け皿のキャパが広くて。あの現場を経験したから今の僕のスタイルが確立したのは間違いないです。ポルノに出会わなかったらNAOTOというソロアーティストは出てこなかったと思う。エンターテインメントの何たるかを教えてもらったのも、ポルノの現場でしたし。本当に勉強になった時間でしたね。

――今やNAOTOさんの大きな武器にもなっているヴァイオリンのブリッジ奏法も、ポルノのライブで生まれたんですよね。

NAOTO:「ジレンマ」という曲では毎回Emコードでバンドメンバーがソロを8小節ずつ担当するんですけど、何十本もライブをやっているとどうしてもネタがなくなってくるわけですよ。そこであるとき、舞台に寝っ転がって弾いてみた。そうしたら、ステージモニター用のカメラスタッフが僕のことを見失ってしまって。「あの金髪が急にいなくなったぞ!」みたいな(笑)。そこで僕はあたふたしているカメラスタッフに気づいたので、ラストの1小節で首ブリッジしたんです。

――カメラクルーに気づいてもらえるように、体をグイッとせり上がらせた、と。

NAOTO:そう(笑)。そうしたら「金髪、見つけた!」みたいな感じでカメラで抜かれて。その日のライブ後、(新藤)晴一くんに「NAOTOさん、次からもアレお願いします」と言われ、定番になっていったという。そこからもう20年以上(笑)。もしかすると、あの事故がなければ僕はソロデビューしていなかったかもしれないですね。

“幸運”に導かれた20周年の集大成 記念ライブへかける想い

NAOTO(撮影=リアルサウンド編集部)

――では、話を少し変えて。最近のJ-POPでのヴァイオリンをはじめとする弦の使われ方に関してどんな印象を受けていますか? ソフトシンセのストリングス音源のレベルも上がっているようですが。

NAOTO:弦だけは、やっぱりまだ生には近づいていないなあと感じますけどね。聴く人が聴いたらわかっちゃうレベルだと思う。今のクリエイターは、“ストリングスの正解”を知らない人が多い気がするかな。要は、“本当にいいもの”を聴いたことがないんですよ。本物のダイヤではなく、イミテーションだけしか見たことがないというか。それは僕らの責任かもしれないし、もっと言えば経済の責任でもありますよね。やっぱり弦を録るとなると、それに適したスタジオ、適したマイク、適したエンジニア――細かいことを言えばスタジオのガラスの反射角やマイクの高さまでわかっていないといけないわけで。今はそれらを網羅するほどの予算がまず用意されない状況ですからね。

――なるほど。

NAOTO:たとえば、B'zの「LOVE PHANTOM」なんかは大編成で、しかもとても上手い人たちが演奏しているからこそ、あの存在感のある音になっているわけで。でも今は「同じ人が弾いた音を家で4回重ねました」みたいな曲も多いわけじゃないですか。それではどれだけ機材やマイクが良かったとしても、(「LOVE PHANTOM」と)同じような響きになるわけがないんですよね。今はそういう本物の現場に立ち会ったことのない人たちがイニシアチブを取って音楽を作ってるから、“っぽい”仕上がりにはなるけど、本物にはならない気がするんです。

――経済的な理由に起因した問題はなかなか解決するのは難しそうですけど、生の弦の響きの素晴らしさや、本物の演奏技術に関しては、NAOTOさんの活動が広めていけるものではありますよね。オーケストラのコンサートに足を運ぶ入口にもなるでしょうし。

NAOTO:うん。それは思います。ただね、そこまでの興味を持ってくれる子が少ないんですよ。Pro Tools(音楽制作ソフトウェア)が優秀すぎるから、技術的に上手くならない子も多いし。僕が始めた当初のレコーディングではまだ(すぐに修正/やり直しができない)オープンリールを使ってましたからね。それくらいの緊張感のある状況でレコーディングに向き合わないと、やっぱり技術的な向上はなかなか難しいんですよね。

――NAOTOさんは昨年から名古屋芸術大学の特別客員教授も務めていますが、若い世代にそのあたりのことを啓蒙していく使命を感じているところもありますか?

NAOTO:ヴァイオリンのことだけを教えているわけではなく、ホップスや放送音楽のクリエイターを志す人たちに向けて、レコーディングのやり方やエンターテインメントの在り方を説明しています。それが啓蒙に繋がるかは、あまりよくわからないんですけどね。ただ、授業の一環で学生たちのバンドの演奏をレコーディングをしたことがあったんですけど、それはすごくおもしろかったですね。演奏はまだまだなところもあるけど、「こんなこともできるんだ!」っていう驚きが多々あって。すごく刺激になりました。学生のみんなも楽しんでくれているようなので、そこから音楽への興味がさらにどんどん広がっていってくれたら、僕としては嬉しいですね。

――この後、8月15日には東京国際フォーラム ホールA、9月12日には神戸国際会館こくさいホールで『NAOTO 20th Anniversary Live 「SERENDIPITY」』が開催されます。ともに大きな会場ですね。

NAOTO:そうなんですよ。でも、摩季姉(大黒摩季)やポルノをはじめとしたゲストが出演してくれることになったので。絶対大丈夫(笑)。

――“幸運な偶然を手に入れる力”を意味するツアータイトルが、この20年の歩みを象徴していますね。

NAOTO:本当にその通りです。僕は自分でも「幸運な人だな」ってすごく思うんですよ。摩季姉やポルノもそうだけど、避けては通れない幸運な出会いがたくさんあったから、ここまで来れた。なかなか人気のないインストポップの世界を背負ってともに頑張ってきた同期のDEPAPEPEさん、同じ関西人としていろんなことを惜しげもなく教えてくれる押尾コータローさん、素晴らしいピアノを弾いてくれる清塚(信也)くんなど、本当に豪華な面々に参加してもらえるのは感謝でしかないですね。2日間のライブが今からすごく楽しみです。

――2022年にリリースされた10枚目のアルバムには『Get over it』、“超えていく”というタイトルが掲げられていました。その気持ちは今も変わらないですか?

NAOTO:あの時期はちょうど事務所から独立したタイミングだったし、世の中的にはコロナ禍だったので、それを越えていくという思いを込めてあのタイトルにしたんですよね。そこから約3年が経って、コロナ禍も含めて乗り越えることができたので、ここからもさらにいろんなことを乗り越えていきたい気持ちにはなっています。

 前に大泉洋さんがファンに対して「僕をこんなに調子に乗らせたのは、キャーキャー言ってくれる君たちがいたからだ」「だから、ここでいきなりファンをやめるとか言うな。一生、推し続けるためにずっと健康でいてくれ」みたいなことを言っていて。それってすごく正しいことだなと僕は思ったんです。僕のファンの方にも同じことを言いたいですね。「健康で、ずっと僕のことを推していてください」と。ずっと仲良くいられるように、ここからも僕は頑張りますので。

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