ポルノグラフィティ、充実感と喜びにあふれた『暁』ツアー最終日レポ 随所で感じられた観客への信頼

ポルノグラフィティ『暁』ツアー最終日

 ポルノグラフィティが12thアルバム『暁』を携えて全29公演を行ったツアー『18thライヴサーキット "暁"』の最終日、1月24日の日本武道館公演。熱狂とともにライブ本編が終了すると、次第に観客がアンコールを求めて「チャチャチャッ」と手拍子し始めた。その独特なリズムにまるでサッカーのサポーターのようだと思うとともに、確かにスポーツを観たあとのように熱い気持ちにさせられるライブだったなと自分の中で納得する。ステージから放たれるバンドの熱量が高いから、観客は興奮し、体を動かしたり食い入るようにステージを見つめたりする。それをメンバーが受け取ると、演奏にもう一段階熱が入る。そうして始まるのは、自分の持てるものを今どれだけ出していけるかという勝負だ。戦うべき相手は自分自身であり、観客にとってのバンド、バンドにとっての観客は敵ではなく共に戦う仲間。互いに高め合うポルノグラフィティとファンの爽やかな関係性がそこにはあった。

 改めて開演から振り返る。おどろおどろしいSEが鳴り、スモークが焚かれるなか、ステージ上にある扉が開き、岡野昭仁(Vo)、新藤晴一(Gt)が登場。ミステリアスな雰囲気を生み出したあと、「悪霊少女」でライブをスタートさせると、「バトロワ・ゲームズ」、「カメレオン・レンズ」とアルバムから早速3曲披露した。バンドの演奏を気持ちよく迎え入れる観客に「ファイナルに見合った空気になっとるね」と岡野。新藤の「作った時と違うアルバムになると思ってるし、それはみなさんに懸かっているので、今日は最後までよろしくお願いします」という言葉から読み取れたのは、観客に対する信頼だ。

ポルノグラフィティライブ写真

 デビューから24年。活動を続けるほど年数は増えるが、新藤は「数字よりも、新しいアルバムを持って新しいツアーをまわる、新しいライブをやることが自分たちにとっては大事」と語る。そんなMCもあったからか、数字を盗む動物たちの物語を描いた「ナンバー」は、表面上の数値ではなく、もっと違う指標に重きを置いて活動してきた彼ら自身のことを歌った曲でもあるように感じた。「ナンバー」をはじめ、様々な色をしたアルバム収録曲に対して多様なアプローチを仕掛けつつ、根にあるロックをガツンと表出させる新藤のギター。そして、どんな曲もポルノグラフィティの曲に変えてしまう岡野の歌声が幅広い楽曲群に一本の芯を通す。枝葉の末端にまでしっかりと息を吹き込むような、気持ちのこもった歌唱。声が裏返るのも厭わないかのように自分の限界に迫りながら声を張る様を見れば、“口から音源”なんて二度と言えなくなるだろう。そして決して裏返らないところにボーカリストとしての盤石の強さを感じるのだが。

ポルノグラフィティライブ写真

 骨太のハードロックにEDM的なビートを取り入れたハイブリッドソング「Zombies are standing out」のインパクト。コントラバスソロから始まるインタールードのあと演奏されたバラード「証言」で見せた命を燃やすような名演。アルバム曲でバンドの最新モードを提示する一方、今回のツアーでライブ初披露の「プリズム」、ライブでは14年ぶり、今回はアコースティックアレンジが施された「うたかた」など、レア曲をセットリストに組み込むことでコアなファンを喜ばせることも忘れない。

 また、「ポルノグラフィティには24年の歴史があるので、ここからはその辺の曲をお届けして、みなさんを爆上げしたいと思います」(岡野)と長年愛される名曲を披露し、宣言通りに盛り上げてみせる姿は頼もしく、積み重ねてきた年月の厚みが感じられた場面だった。バンドメンバーがソロ中に過去曲のフレーズを引用する粋な演出も、これまでの歴史があるからこそ成り立つものだが、24年選手とは思えないフレッシュさと24年選手だからこその懐の深さを併せ持つのが今のポルノグラフィティだろう。象徴的だったのはファンクアレンジの「ミュージック・アワー」。長尺のバンドのセッションを経て曲に入ってからも岡野が歌い始めるまで何の曲か分からないくらいの生まれ変わり様だったが、やがて原曲にあったフレーズも登場、リスナーにとって馴染みのある形にだんだん近づいていく。今の自分たちのモードに合わせてアップデートしつつ、ファンの聴きたいところはしっかり押さえられているという絶妙なバランスだ。

ポルノグラフィティライブ写真

 クリアな歌声によって耳に飛び込んできた「VS」の〈あの少年よ こっちも戦ってんだよ〉というフレーズに想いを馳せる。そうだ、1年前のポルノグラフィティも、10年前のポルノグラフィティも、24年前のポルノグラフィティも戦っていて、今のポルノグラフィティだって戦っている。あの頃の自分の懸命さが今の自分を作っていると分かっているからこそ、過去の栄光に寄りかかろうなんて思わない。自分との戦いはどこまでも孤独だが、しかし彼らには同じ時代を生きるリスナーがいた。岡野は〈こんなにも晴れわたってる〉と歌いながら客席をぐるっと指し、〈同じ空の下で向かいあおう〉と歌いながら手のひらで観客を指し示す。サポートミュージシャンと向き合いながらガシガシとギターを鳴らす新藤。広い会場を貫く岡野渾身のロングトーン。そして力強いタムが導く「テーマソング」のまっすぐなエールに繋がっていく。〈燃えるような熱い赤〉という歌詞に合わせてステージが赤く染まった。実際に火が上がっているわけでもないのに熱を肌で感じる。

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