平井 堅「みんな、偉い!」――再会の歓びと人生讃歌 歌手としての30年、人としての53年を刻んだ『Ken's Bar』

このまま第2部はエンターテインメントに振り切るのかと思いきや、続いてはピアノのインタールードから始まったバラードナンバー「太陽」。クラシカルな美しさを称えた旋律、切実に光を求める姿を映し出す歌詞がゆったりと広がり、観客は再びじっくりと平井の歌声に浸る。
そのあとは、楽器と歌の奥深いインタープレイが実感できる場面が続いた。石成のギターが爪弾く「言えずの I LOVE YOU」(KAN)のメロディに導かれたのは「君の好きなとこ」。朗らかで切ない旋律と大切な人に向けられた優しい目線に溢れた歌詞がひとつになったこの曲によって、身体の緊張がほぐれるようなあたたかいムードが生まれた。
その雰囲気を一変させたのは、ダークな雰囲気の映像とSEを挟んで演奏された「哀歌(エレジー)」。この曲のアレンジは、ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)のベースと平井の歌。やや歪んだ低音を響かせるベースプレイ、そして恋愛の痛み、苦しさ、逃れられない官能を映し出す歌が溶け合うシーンもまた、この日のライブの大きなハイライト。〈その手で その手で 私を 汚して〉をアカペラで歌い上げる姿には、シンガーとしての凄みが生々しく宿っていた。
ハマのベース、神谷洵平のドラム、平井の歌がファンキーなグルーヴを生み出した「メリー・ゴー・ラウンド・ハイウェイ」から第2部も後半へ。ソウルフルな歌声から始まったのは「Love Love Love」。ソウル、ジャズ、ゴスペルなどを取り入れたバンドサウンドのなかで、しなやかなグルーヴを感じさせるボーカルが広がり、オーディエンスも手拍子をしながら気持ちよさそうに身体を揺らしていた。
「ありがとうございます。不愛想なコンサートでごめんなさい」というお礼とお詫び(?)から、この日初めてのMCへ。

「今日で歌手30歳ということで。感謝しても、し尽せません。本当にありがとうございます」
「歌手として30歳、人間として53歳ですが、全然大人になれなくてですね。若者を叱咤激励し、背中を押すような大人になっていると思っていましたが、ところがどっこい、まったく小さい頃と心が変わってなくて。情けない話ですが、いまだに誰かに褒められたくて、褒められないと不安で。『よくがんばったね』って頭を撫でてもらいたいところがあって」
「そんな情けない53歳なんですけど、今日は自分のことだけじゃなくて、大切な時間を僕のために使ってくれて、こうやって集まってくれた満杯の皆さんに、僕が言ってほしい言葉を言いたいなと思って。僕も一生懸命生きてるつもりですけど、よくみんな、がんばってここまで生きてきた。みんな、偉い!」
「そのままが素晴らしい。心からそう思っています。無理に繕わず、無理に媚びず、大きく見せたりせず、あなたはそのままがベスト。そのままでいてください」
そんな言葉に導かれた本編の最後は、「LIFE is...」。まわりの目を気にして、自分をよく見せようとしたり、価値のある存在だと示そうとする。そんなことをやめられないすべての人に向けられたこの歌は、会場に足を運んだ観客一人ひとりの記憶に強く刻まれたはずだ。
アンコールの舞台に登場したのは、弦一徹(Vn)、徳澤青弦(Vc)らによる弦楽五重奏。シックで奥深いアンサンブルを響かせるなか、花束を持った平井が登場し、「ノンフィクション」をアカペラで歌い始める。ワンコーラスをすべてひとりで歌い、間奏パートをクインテットが担う。2番もアカペラで歌い切り、〈人生を恨みますか?〉から始まる最後のサビで、歌と弦楽器が初めて同時に鳴らされる。先鋭的かつ独創的なアレンジだが、「これしかなかったんだろうな」という説得力に溢れた素晴らしいエンディングだった。
ステージの端から端まで移動し、丁寧に挨拶した平井。最後には生声で「今日は本当に、どうもありがとうございました!」と伝え、ライブは終幕した。
MCのなかで「今日はきてくれて、いてくれて、今まで生きてくれて、本当にありがとうございました」と語りかけた平井 堅。その言葉をそのまま返したいと思ったのは、筆者だけではないはず。もちろん「せっかくの30周年、どんどん活動してほしい」「歌声を聞かせてほしい」という気持ちもあったのだが、5年ぶりのライブを観て、そんな思いは少し変わった。どんなタイミングでもいいし、自分のペースと都合でいいから、好きな時に、好きなように歌ってくれればそれでいい。もし彼に望むことがあるとすれば、それだけだ。
■セットリスト
<ACT1>
1. even if
2. 楽園
3. 告白
4. いつも何度でも
5. One Love Wonderful World
6. 瞳をとじて
7. 思いがかさなるその前に・・・
<ACT2>
1. POP STAR
2. 太陽
3. 君の好きなとこ
4. 哀歌(エレジー)
5. メリー・ゴー・ラウンド・ハイウェイ
6. Love Love Love
7. LIFE is...
ENCORE
ノンフィクション























