平井 堅「みんな、偉い!」――再会の歓びと人生讃歌 歌手としての30年、人としての53年を刻んだ『Ken's Bar』

平井 堅がデビュー記念日の5月13日、横浜アリーナで一夜限りのスペシャルライブ『Ken Hirai 30th Anniversary Ken's Bar - One Night Special !! -』を開催した。
今年、デビュー30周年イヤーを迎えた平井 堅。『Ken's Bar』は、平井が自身のライフワークと位置づけるコンセプトライブだ。通常のコンサートとは一線を画し、アコースティック編成でオリジナル曲や洋楽/邦楽のカバーなども披露。会場をバーに見立て、アルコール飲料やソフトドリンクを片手に音楽を堪能できる空間を演出してきた。ゆったりとした大人の雰囲気のなかで、平井の歌を味わえる『Ken's Bar』はもちろん、ファンのあいだでも強く支持されてきた。
『Ken's Bar』の第1回は、1998年5月29日にONAIR Okubo PLUSで開催。以降、日本各地のさまざまな会場やシチュエーションで開催されており、2005年には東京ドーム公演が実現。20周年を迎えた2018年には、海外公演も行った。また2020年には自身初の無観客オンラインでの開催、2021年も無観客の配信ライブ形式で行うなど、コロナ禍でも継続してきた。
有観客での開催は実に5年ぶりとなった『Ken Hirai 30th Anniversary Ken's Bar - One Night Special !! -』。久しぶりのステージで平井は、歌という表現の深さ、すごさ、豊かさ、そして、彼自身の“歌バカ”ぶりをあらためて示してみせた。なお、この公演は全国24都市32館の映画館でライブビューイングも行われ、こちらも軒並みチケットは完売した。
開演30分前に会場に入ると、すでに客席は多くの観客で埋まっていた。BGMはピアノのインスト曲(坂本龍一の「aqua」など)。それぞれが好きなドリンクを手にして、リラックスした様子で会話を楽しんでいる。
約5年ぶりの開催となった『Ken's Bar』。久しぶりに生歌を聴けるのは本当に楽しみだったが、正直に言うと「今の平井 堅さん、どんな感じなんだろう?」という思いもあった。2021年にアルバム『あなたになりたかった』をリリースして以降、新曲の発表も、ライブ開催もなし。いかに平井といえども、5年のブランクは大きいのではないか――と勝手に心配していたのだが、ライブが始まった瞬間、そんな杞憂は一瞬で吹き飛んでしまった。

19時ちょうどに客席の照明が落とされ、これまでの楽曲や写真をコラージュした映像が映されたあと、ステージの真ん中にピンスポットが当たる。歓声と拍手が起きるなか、平井はアカペラで歌い始める。〈鍵をかけて 時間を止めて 君がここから離れないように〉――「even if」。2000年末にリリースされた、『Ken's Bar』のテーマソングとも言うべき楽曲だ。最後のサビの始まりもアカペラ。歌声だけで楽曲の世界を生々しく描き出す、その表現力の深度にいきなり圧倒される。
ライブは2部制で、第1部はピアノ(鈴木大)、アコースティックギター(石成正人)と歌による編成。「even if」はピアノ、「『Ken's Bar』へようこそ!」という言葉とともに披露された「楽園」はアコギ、モノクロなライティングとともに〈私の中のあなたをいつも殺して生きてきた〉から始まる「告白」はピアノ……というふうにライブは進んでいく。歌だけでも十分に成り立つボーカリストゆえ、ピアノやギターが加わるだけでとてつもなく豊かな音楽世界が生まれる。
続いては「いつも何度でも」(映画『千と千尋の神隠し』主題歌/木村弓)。指弾きのギターと抒情的な歌声が響き合い、どこか懐かしい雰囲気へと導かれる。『Ken's Bar』では歌謡曲から洋楽までさまざまな楽曲がカバーされるのが通例なのだが、この日のカバーは「いつも何度でも」だった。
スパニッシュギターのテイストを反映したアレンジによって心地好い憂いを演出した「One Love Wonderful World」、平井の写真にノイジーなエフェクトをかけた映像とシンセによる壮大なSEを挟んで届けられたのは、ピアノと歌による「瞳をとじて」。イントロが鳴ると同時に拍手が巻き起こり、オーディエンスがこの曲を待ち望んでいたことが伝わってくる。凛としたファルセット、豊かな倍音を感じさせる低音、厚みのある中音域を行き来しながら、今はもういない〈君〉への想いを描き出す。右手を顔の横で上下させる歌い方も以前のまま。音源やライブで何度も聴いてきた名曲だが、「こんなにいい曲なんだな」と新たに出会い直すことができた。

ここで鈴木が「エキストラ」(KAN)をピアノで独奏。2023年11月に逝去したKANと平井は、公私ともに交流があった。久しぶりの『Ken's Bar』で平井がKANへの想いを表現したのは、とても自然なことだったと思う。「そうか、KANさんはもういないんだな」としんみりしていると、〈ねぇ そんな事を隣でキミも思ったりするのかな〉というフレーズが響き渡る。第1部のラストは、ギターと歌による「思いがかさなるその前に・・・」。〈涙も傷も宝物になる/キミだけに歌を/ラララ歌って行こう〉という言葉を手渡すように歌い、会場は豊かな感動で包み込まれた。
約25分のインターバルを経て(スクリーンには平井の楽曲のMVが映されていた)、第2部のオープニングは「POP STAR」。マイクを持った平井がいきなり客席に登場し、華やかなライティングのなかで大きな歓声が沸き起こる。心地好いバンドサウンドに軽やかな歌声を乗せ、平井はそのまま場内を一周。にこやかに手を振り、「ありがとう!」と声をかける姿は、まさにポップスターだ。























