The Ravensが示すロックバンドの存在意義 『Ghost Notes』に宿る生の鼓動、ライブハウスで紡がれた“歓び”

4月17日、HEAVEN'S ROCK さいたま新都心VJ-3、『The Ravens GHOST NOTES TOUR』5公演目――久しぶりに見た彼らのライブは、まるで生まれたてのバンドのようだった。“作品”を提示するというものでも、アーティストとして描きたいビジョンを伝えるというものでもない、徹底的に双方向で情熱的な1時間半。Kj(Vo/Gt)、PABLO(Gt)、武史(Ba)、渡辺シュンスケ(Key)、櫻井誠(Dr)の5人は最初から最後まで無我夢中で音と戯れ、オーディエンスと感情と声をクロスさせ、ライブハウスという場だからこそ生み出せる共感と無敵感を呼び起こしていく。もちろんフロアはどの曲でも歌い、飛び跳ね、ぶつかり合っていたが、誰よりもその時間と空間を味わっているのがステージの上の5人であることは明らかだった。彼らはロックバンドとして音楽を作り、ツアーに出て、毎夜のように演奏をすることの喜びをあらためて全身で受け止めているように見えた。

今さらの説明になるが、このThe RavensはもともとKjのソロプロジェクトをライブで表現するために集まったバンドだ。だが、始動してしばらく経つと、The Ravensはそれ自体がロックバンドとして自律運動を始めていった。2022年にバンドとして本格的に始動して以降、彼らは『ANTHEMICS』『SCARECROWS』と2作のアルバムをハイペースでリリース。ツアーも積極的に行い、昨年には初となる対バンツアー『The Ravens LIVE TOUR 共鳴夜光』も行った。そのプロセスは、まさに1つのロックバンドが生まれ、育ち、よりタフなものになっていく道程そのものだった。あまりにも瑞々しく、あまりにも熱を帯びたプリミティヴでピュアなバンドストーリー。それぞれに豊かなキャリアを重ねてきたバンドマンが集い、今あらためてそうしたストーリーを見せてくれるということの意味と喜びを噛み締めながら、僕は彼らの動きを追いかけてきた。
そんな中、3月26日にリリースされたのが3rdアルバム『Ghost Notes』である。音源を再生して、最初に流れてきた音を聴いた瞬間、このアルバムは“僕たちのもの”だと確信した。そのオープニングトラック「Ghost Notes」は、バンドの公式YouTubeチャンネルにアップされたメンバーによるコメンタリーによると、Kjが毎朝自身のスタジオ・Chambersに通う時の頭の中をそのまま表現したものだという。
コンビニに寄ってコーヒーを買い、スタジオに着いて音を紡ぎ始める――つまり、このアルバムが彼の日常ととても近い、地続きのところで生まれていったことの証だ。そしてそれはすなわち、その音を受け取るリスナーの人生とも地続きであるということでもある。このアルバムには明確に“僕たち”がいる。The Ravensは誰に向かって音を鳴らし、Kjは誰に向かって歌うのか。極端な言い方をすれば、この『Ghost Notes』にはそれ“だけ”が貫かれている。
そうした姿勢やメッセージはもちろんこれまでの彼らの作品にも滲んでいたし、もっと言えばKjはバンドであろうとソロであろうと、これまで一貫して“現場”でオーディエンスと直接向き合うことに命を捧げてきた生粋のバンドマンである。だが、そんな彼のキャリアを見渡してみても、今回のアルバムほど、聴くもの全員を引っ張り上げていくようなエネルギーと意思を感じさせる作品はなかったのではないかと思う。「Ghost Notes」に続く「共鳴夜光」、そして次の「ボマー」もまさにそんな今作に込められた意思をストレートに表明するものだ。今回のツアーでも1曲目に据えられている「共鳴夜光」は同タイトルの対バンツアーをやっている中で生まれた楽曲。ドラム、ベース、ギターが畳み掛けるように音を重ねていくオープニングから始まるサウンドデザインも、〈薄暗い街に 魔法をかけようぜ/ありったけの光 敷き詰めて/互いの引力で 引き寄せ合う様に/重苦しい夜を 振り切って〉という歌詞も、彼らにとってライブという場とそこに集まるバンドマンやオーディエンスといった人々がどういうものであるのか、ロックバンドがなぜ音楽を届けるのかという問いに対する明確な“答え”になっている。

ギターリフが唸りを上げる「ボマー」はさらに一歩踏み込んで、バンドとリスナーとの関係性を描き出す。“爆弾魔”という物騒な曲名や〈君の夕べに 爆弾をそっと仕掛けよう〉というフレーズには強烈なインパクトがあるが、それこそKjの強い決意の表れである。たとえ人に忌み嫌われ非難されようとも、俺は目の前にいる“君”の失望や苦しみをぶっ壊せるなら爆弾魔にだってなってやるよ――実はとてもシリアスで切実なメッセージを、このアッパーなビートとピアノの軽やかな響きに乗せてぶっ放せるのがロックバンドの美しさだということを感じさせてくれる楽曲だ。
その後、PABLO作曲のパーティチューン「D・U・H」で一気にボルテージを上げ、アルバムは今作中では最初にできたという「Sympathy」へと進んでいく。Kjがファンから受け取ったメッセージから発想したというこの曲でも、あるいはそれに繋がって美しいピアノの旋律が聞こえてくる「生活」(作曲は渡辺シュンスケ)でも、彼は日々積み上げていく小さなものに眼差しを向け、その蓄積に意味を見出す。それはそれぞれの光を引力で引き寄せて大きな光を作り上げていく「共鳴夜光」にも通じるものだし、『Ghost Notes』というアルバムタイトルに込められたものでもある。