にしなの音楽の核心とは何なのか？　尊い祈りを鳴らした国際フォーラムワンマン『MUSICK』

　にしなが4月12日、東京国際フォーラム ホールAでワンマンライブ『MUSICK』を開催した。一夜限りのスペシャルなライブは、彼女自身がライブ中に語った「シンプルに音楽を楽しめたら」という言葉のとおり、映像などの演出は最小限、音楽を純粋に届け、それをオーディエンスと分かち合うようなものとなった。にしなの音楽のいちばん大事な部分がまっすぐに伝わってきたライブの模様を、以下にレポートする。

　オープニングムービーがステージ前に張られた紗幕に映し出され、続いてバンドメンバーがひとりずつ音を鳴らすシルエットが浮かび上がる。その紗幕が落ち、ついにライブがスタート。にしなが最初に歌い出したのは、いつもならラストに披露される「アイニコイ」だった。仲間と音を鳴らす楽しさや喜びが詰まったようなバンドサウンドが会場のボルテージをグッと高める、最高のスタートダッシュだ。さらに「クランベリージャムをかけて」ではステージを歩き回りつつ、肩からさげたバッグからキャンディを取り出し、客席に次々と投げ入れる。バンドメンバーと、そしてオーディエンスと、一緒にこの空間と時間を作っていく――そんな意思が見えるような序盤。「ケダモノのフレンズ」で観客が手にしたグッズのしっぽがくるくると振られる頃には、場内はあたたかな一体感に包まれていた。

　その後もライブはくるくると表情を変えながら続いていく。くじらとのコラボ曲「あれが恋だったのかな」では痛快なギターサウンドと瑞々しいメロディが弾け、「bugs」では瞬くライトのなかパワフルなダンスビートが会場を揺らす。そしてエモーショナルな「夜になって」を経て、「1999」の壮大な景色が広がっていった。地球最後の日を描いたこの曲には、やはりにしなという人の表現したいものが詰まっていると思う。本当の最後、人は何を願い、何をしたいと思うのか。そこでにしなが歌う愛の風景は、今彼女が生み出し続けている楽曲で、より濃く、確かなものになってきている。思いが乗せられたその歌はこれまで以上に丁寧で、かつ力強い。一つひとつの言葉がしっかりと耳と心に届いてくる。そんな歌声を聴きながら、『MUSICK』というライブのタイトルに込められたものがしっかりと見えていくような気がした。

　音楽をよりまっすぐ届けるべく、ここで新たな試みとしてアコースティックコーナーが始まっていく。どこかジャジーなムードも感じさせるスタイルにアップデートされた「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」を経て、キーボードの松本ジュンとふたりで「ランデブー」をセッション。間奏ではにしなによるカズーの演奏も飛び出した。曲を終えると「緊張感、すごい！」と正直な気持ちを吐き出し、客席からあたたかな拍手を浴びるのだった。さらにバンドメンバー全員で「It’s a piece of cake」を披露。夜の井の頭公園で音楽仲間と語り合ったことから生まれたのがこの曲だが、そんな楽曲の原風景を思い起こさせてくれるような、丁寧で柔らかなセッションに、会場全体がゆったりとした空気に包まれていく。オーディエンスによる「ラララ」のコーラスも一緒になって生まれた一体感に、にしなは「みんな最高！　ありがとう！」と嬉しそうな笑顔を見せるのだった。

　アコースティックコーナーを終えると、ライブは後半戦へ入っていく。スリリングなギターサウンドから「真白」を繰り出すと、グルーヴィーな「スローモーション」へ。「真白」ではギターの真田徹、「スローモーション」ではベースのTomiと、バンドメンバーそれぞれが見せ場を作りながら、アコースティックコーナーで一度落ち着いた会場のテンションを上げていく。そして軽快なサウンドが跳ね回るような「シュガースポット」へ。にしなは「タオルあげちゃお！」と手にしたタオルを客席に投げ入れる。子どものようにはしゃぎまわり、最後にはステージの真ん中に倒れ込んで「疲れたー！」とひとこと。誰よりも彼女が音楽を、ライブを楽しんでいる感じが伝わってくる。そんなにしなを助けるように、続く「U+」ではオーディエンスのシンガロングが広がっていった。