三兄弟バンド・Gliiicoが語るライフストーリー 序章となる1stEP『The Oath』、最高の音楽を届ける“誓い”

「目指しているのは“最高の音楽”を作ること。“俺たち vs 宇宙”って感じ」(Kio)
ーーその後は、2022年からGliiicoが本格始動しますね。わずか3年の間に、KhruangbinやPhoenixなどの大物バンドとの共演や、日本だけでなくアメリカや韓国でもライブを行って。「Ephemeral」や「The Oath」をはじめとした音源もリリース。ファッションのシーンでも活躍の場をさらに広げている、と。とんとん拍子でキャリアが進んでいっていますね。
Nico:そうだね。Gliiicoとして初めて作った曲「Around」から振り返ってみると、まだ始まりではあるんだけど、だいぶ遠いところまできたなって感じがするね。日本に行くことを決めたのは結果的にすごくいい決断だったなって思う。

ーーただ、DAWで音楽が作れる時代にロックバンドを始めるのって、なかなかハードルも高いと思うんですよ。最近またリバイバルしてきているとは言っても、チャートの中でもロックが隆盛を誇っているとは言い難い状況があって。それでも、バンドを始めようと思ったのはなぜですか?
Nico:バンドって録音音楽文化の中でも最も初期の形態の一つだよね。最近でこそ、ポップスターやソロアーティストが当たり前の時代だけれど、俺はバンド音楽にはまだまだ可能性があると思うんだ。次のThe Beatlesのような存在や、まったく新しいスタイルが生まれる余地がバンドにはあると思う。実際、「ロックは死んだ」なんて言われて久しいけれど、広義の意味で言えば、Daft PunkやJusticeだってバンドだと俺は思う。新しいものは生まれているんだよ。歴史があるからと言って、新しい何かを模索しなかったら、その音楽は“まだ人が知らないもの”として神の頭の中だけにとどまることになる。それは惜しいし、自分たちは誰も聴いたことのないようなものを作れるんじゃないかって思ったから、バンドを組んだんだ。
Kio:俺らがバンドを組んだのは必然……というか、ごくごく自然なことだったように思う。やっぱり兄弟っていうのもあって、好きなものが共通しているから。子どもの頃からNicoがビートを作ってるのを横で見てたし、Abletonの使い方もNicoが教えてくれた。俺たちはすごく恵まれてたと思う。本格的にではないけれど楽器を触る経験もさせてもらえたし、親父はブレイクダンサーだったし……(笑)。
Nico:俺たちは物事への向き合い方が似ていると思う。一貫性があって、細かいところにすごくこだわるタイプ。たとえば、音が本当に微妙にズレてるってだけで「うげ、もう無理、吐きそう、死ぬ……」みたいになっちゃう。音楽ってフローやヴァイブスがすごく大事だけど、だからといって、適当でいいわけじゃない。ストラクチャーと緻密さ、そして洗練が必要なんだ。
Kio:まさにそれだと思う。カニエ・ウェストとかファレル・ウィリアムスとか、俺たちが好きなアーティストやミュージシャンって、みんなクレイジーなぐらい音楽に命を注いでる。だから、俺らもやるなら最高のものを作らなきゃって常に思っているし、それに疑問を持つことはない。良し悪しの判断に関して、完全に白黒はっきりしていると思う。「これだ!」って時は、3人とも意見がブレずに合致するんだ。
Kio:とにかく、目指しているのは“最高の音楽”を作ること。「俺たち vs 宇宙」っていう感じ。それぐらい壮大なスケールでクリエイティブを考えながら、ただベストを尽くすだけってことかな。
Kai:俺は……親に家を買ってあげたいな(笑)。誇りに思ってほしいしね。あとは、もっと遊び心をもって音楽を作りたいなって最近は特に思ってる。映画『ホット・ロッド/めざせ!不死身のスタントマン』(2007年/Andy Samberg主演のコメディ映画。アマチュアスタントマンが心臓病の義父を救い、見返すために仲間たちとともに一世一代のスタントに挑戦する)みたいな、3人の兄弟がただ楽しんでるってバイブスでやりたいなって思ってるよ。
「アートにおける最高の作品っていうのは、人の共感を呼ぶもの」(Nico)
ーー今年2月28日には、昨年10月に発表した、1stEP『The Oath』に2曲の新曲が追加されたデラックス盤がリリースとなりましたが、そもそもこの作品を「Oath(誓い)」と名付けた理由はなんだったんでしょうか?
Nico:携帯のメモアプリに書き溜めてた、いくつものタイトルの中から一番しっくりきたのがこれだったんだ。アルバムに収録されているタイトルトラックの歌詞はKaiが書いたんだけど、TVドラマの『ゲーム・オブ・スローンズ』に影響を受けている。あのドラマは中世みたいな設定の架空の世界が舞台で、王様に忠誠を誓う騎士とかが出てくるんだ。これから音楽をやっていく上で、俺たちにとっての「Oath(誓い)」ってなんだろうって考えた時に、それってリスナーに責任を持って“最高の音楽を届ける”ってことなんじゃないかって思ったんだよね。でも、これはまだ始まりに過ぎなくて、Gliiicoとしての最初の「誓い」なんだ。
Kai:歌詞に直接表現はされていないけれど、『ゲーム・オブ・スローンズ』に出てくる女帝、サーセイ・ラニスターと、その息子のジョフリー・バラシオンの関係には結構インスパイアされているかも。このジョフリーってやつはかなりクソガキで無駄に権力を振り回すんだけど、母親であるサーセイは彼のことを案じつつ、それでも愛している。母親が子どもに対して抱く「たとえ、どんな子どもであろうと守る」っていう無条件の絶対的な「誓い」のような強い約束を、音楽に込めようとしたって感じかな。
ーー「The Oath」は、独特のサイケデリックで、ドリーミーで、かつガレージなサウンドが特徴的。モダンでありながらも、どこか懐かしさを感じるような音作りが耳を惹きます。このオリジナルなサウンドのインスピレーションはどこからきているんでしょうか?
Kai:だいぶ前に作った作品だから正直、あまり覚えていないな(笑)。
Nico:「The Oath」は2年前に作り終わってたからね。リリースのベストなタイミングと関わる人をちゃんと選びたくて、寝かせておいたんだ。
Kio:でも、作っている時は瞬間瞬間を大事にしていたと思う。深く考え過ぎないようにしていたというか。僕らがGliiicoとして手掛けた初めての大きなプロジェクトだったから、とにかくワクワクしていた。「この曲、最高じゃん?!」って自分たちで自分たちの曲を思える瞬間って、すごく特別なもので……その興奮にインスパイアされていたかな。
Kai:いろんな意味で、東京での“初体験”が詰まっている気がする。Kioが今言ったみたいな音楽方面の活動もそうだけど、「え、俺、このランウェイに出られるの?!」とか「イザベル・マランと会えるの?!」みたいなファッションの仕事での嬉しい“驚き”みたいなものも記録されている気がする。「Amiri Jeans」には、細身のスキニージーンズってどうやったらオシャレに履けるんだろう、みたいなアンビバレントな気持ちも入ってるし(笑)。
Kai:俺たちはカナダで育ったから、日本で生まれ育った日本人とは違う視点を持ててるんじゃないかと思ってる。先輩・後輩文化とか、そういうローカルなしがらみやルールを回避できるしね。でも、もちろん日本の文化やしきたりには大きなリスペクトもある。俺たちは俺たちから見た、日本を表現したかったんだ。
Nico:今、「モダンだけど懐かしい」って言ってくれたけど、そうやって形容されるのはすごいしっくりくる。俺たちが好きな音楽って、だいたいそういうものばかりだから。たとえば、マイケル・ジャクソンの「Thriller」って、今聴いても、未来的だよね。AIが完璧に作り上げた、完璧なポップソングみたいな感じなのに、ちゃんとアナログでリアルな感覚も宿っている「人間らしい」音楽で……そういうものをつくりたいなとは常に思ってるかな。
ーーGliiicoの楽曲の歌詞は、実際に起きたリアルな体験からインスピレーションを受けたものが多いらしいですね?
Nico:うん、そうだよ。歌詞の多くは、実際にあったことから生まれている。
ーーだとしたら、一体、どんなロックンロールライフを送ってるんですか?! 「Mutron」の歌詞とかすごい内容じゃないですか。
全員:(笑)。
Nico:いや、真面目な話をすると、歌詞に描かれているモチーフが突飛なものだったとしても、その核にある感情は、みんなが人生の様々な場面で経験していることだと思うんだ。誰だって、アイスクリームを地面に落とすことだってあるし、恋人に振られることだってあるし、ある日、税務署から1000ドルの追加徴税が届くことだってある。つまり、5歳の子どもも50歳の大人も同じ痛みや悲しみを知っているはずなんだ。アートにおける最高の作品っていうのは、人の共感を呼ぶものだと思う。俺たちは、個人的な体験を描きながらも人間みんなが共通して体験している感情をリリックで綴ろうとしているんだと思う。
Kio:そうだね。でも、どれだけ落ち込んでいても、ファッションだけはばっちりキメたい。それが、俺らの哲学(笑)。
Kai:わはは、完璧な人生哲学だね(笑)。


















