藤巻亮太が『儚く脆いもの』で描く、変わりゆくからこその美しさ さらに自由に「自分を開放していきたい」

藤巻亮太が描く“変化”の美しさ

國井修先生、『死の貝』……様々なきっかけで出来上がった「儚く脆いもの」

——アルバムのタイトル曲「儚く脆いもの」についても聞かせてください。曲名の印象とサウンドが全然違うのも、藤巻さんらしいなと。

藤巻:この曲と「朝焼けの向こう」がアルバムの中で一番ロックな曲ですからね(笑)。この曲を作ったのは、いくつかきっかけがあって。國井修先生というお医者さんがいらっしゃるんですが、2011年にその方とアフリカで出会ったんですよ。内戦中だった東アフリカ・ソマリアで活動されていた方で、世界中にワクチンを届ける仕事もされていて。國井先生に「水の中にいる寄生虫の感染症で大変な思いをしている人たちが、今もたくさんいるんです」、「日本では以前、寄生虫による感染症を根絶した例があって、それが山梨なんですよ」ということも教えていただきました。そのことについて書かれた『死の貝』(小林照幸/‎文藝春秋)というドキュメンタリーを読んで、すごく衝撃を受けたんです。國井先生の話が地元の山梨に繋がって、自分の中で沸き上がってくるものがあった。その時に書いたのが、「儚くて脆いもの」なんですよ。

——だからこんなにもエモーショナルな曲になったんですね。

藤巻:そう、実はすごくエモーショナルなんです。歌詞はすごく悩みましたけど、100年かけて感染症を根絶させた人々や、今なお世界中で戦っていらっしゃる國井先生の姿が重なって。その気持ちがのって、この曲のBPMや歪(ひずみ)感のあるサウンドになったのかなと。ギターのアレンジはかなり緻密に組んだんですけど、ドラムとベースのリズム隊がすさまじい演奏をしてくれて、この形になりました。

——レコーディングのメンバーは?

藤巻:今回のアルバムはミュージシャンを固定しています。ドラムの片山タカズミくん、ベースの御供信弘くんがプリプロからレコーディングまで並走してくれたんですよ。曲によっては曽我淳一くんが参加してくれました。たとえば「桜の花が咲く頃」は曽我くんがアレンジしてくれた部分もかなりあって。レコーディングエンジニアの桑野貴充くんも同級生だし、みんな年齢も近いんですよ。みんなでいろいろトライ&エラーを重ねながら、ある種の実験性みたいなものもある制作でしたね。

藤巻亮太(撮影=林直幸)

——「メテオ」のオルタナ感もめちゃくちゃインパクトがありました。

藤巻:これはまさにオルタナですね。「メテオ」はパレスチナのガザ侵攻の状況を見ていた時に作った曲。モヤモヤした気持ち、社会の潮流や闇みたいなものを行き来しながら歌詞を書いて、それをアレンジしたらどんどんオルタナの感触が強くなっていきました。最初は僕とタカズミくんでプリプロしたんですよ。エレキギターとドラムだけだったんですけど、それがすごくよくて。その音源を御供くんに渡したら、素晴らしいベースを弾いてくれて「この3人の世界観で成立するな」と。そこからさらにギターをダビングして、こういうサウンドになりました。

——バンド感が強く出ている曲ですよね。アルバムの起点になった「新しい季節」もアッパーな曲ですが、〈僕はちっぽけな存在だ〉〈未だに成し遂げられぬことばかり〉というフレーズがありますね。

藤巻:何をもって成し遂げたかって、難しいですよね。バンドとしてできたこと、ソロとしてやれたこともいろいろあるけど、自分が決めたリアリティの中に留まることってすごく簡単だと思うんですよ。そんな中で、一度しかない人生で「その先に行きたい」という気持ちは大事だし、自分なりにちゃんと歩き出せるような曲にしたいなと。「まだ何も成し遂げてないだろう、頑張れ」って。ちょっと抽象的な言い方になっちゃうんですけど、自分をもっと開放していきたいんですよね。さらに自由に作品を作れたらいいなというのが、今思っている唯一のことかな。

——アルバムを携えたツアーも楽しみです。

藤巻:リズム隊はレコーディングを一緒にやってくれた2人なんですよ。ロックなサウンドもしっかり再現できると思うし、楽しみですね。まだリハにも入っていないので、何とも言えないですけど(笑)。

「南風」リリースから20年 「今もこの曲に興味を持ってもらえているのがありがたい」

——3月9日には恒例の『THANK YOU LIVE 2025』も開催されました。この公演もライフワークですよね。

藤巻:これからも3月9日という日は大事にしたいし、『THANK YOU LIVE』は続けていきたいと思っています。去年は野音(日比谷公園大音楽堂)でやったんですけど、今年は地元の山梨で初めてその日を迎えられるので、去年とはまた違ったセットリストでやろうと思っています。(本取材は2月下旬に実施)

藤巻亮太『「THANK YOU LIVE 2024」at 日比谷公園大音楽堂 2024.03.09』DVDダイジェスト映像

ーー去年の『THANK YOU LIVE 2024』は、映像作品(『「THANK YOU LIVE 2024」at 日比谷公園大音楽堂 2024.03.09』)としてリリースされています。レミオロメンの曲も数多く披露されていますね。

藤巻:去年は「3月9日」のリリースからちょうど20周年だったので、レミオの曲を多めに入れたんですよね。

——なるほど。そういえば「南風」がKIRIN『氷結』のCMで使われていて。

藤巻:そうなんですよ。「南風」もリリースから20年なんですけど、もうそんなに経つんだなあって。今もこの曲に興味を持ってもらえているのがありがたいし、また多くの方の耳に届く機会を作ってくださったことも嬉しいですね。ソロでもライブで歌ってきたし、この曲が持っているキュートなポップ感みたいなものはずっと残っているなって思ってますね。

——リリース当時も際立ってポップでしたからね、「南風」は。

藤巻:啓介(前田啓介)が元になる曲を作ってきて、みんなでアレンジを考えて。その時から「なんだ、このポップな風は!?」って……その時の光景は今でも思い出せますね。

藤巻亮太(撮影=林直幸)

——そして9月27日には、藤巻さんのオーガナイズによる野外音楽フェス『Mt.FUJIMAKI 2025』が開催されます。

藤巻:はい。リスペクトするアーティストの皆さんに思いを伝えて、コラボレーションして、一緒にステージを作り上げる。それはあの場所でしか体験できないことだと思うし、やっぱり「この素晴らしい環境の中で、いい景色と音楽を楽しんでいただきたい」という気持ちが一番ですね。自分の中で「もっと頑張らねば」という思いもどんどん強くなっています。

——藤巻さん自身の音楽的なモチベーションにも繋がっているのでは?

藤巻:それもありますね。出演してくださるアーティストは素晴らしい方ばかりだし、それぞれミュージシャンシップや佇まいを含めて、本当にかっこよくて。僕自身も1人のミュージシャン、1人の人間として受け取るものがたくさんあるんですよ。目的はもちろんお客さんに音楽を楽しんでいただくことなんですが、結果的に自分のインプットにもなっているのかなと。それは本当に宝物だし、より頑張りたいというという気持ちに繋がっていますね。

■リリース情報
藤巻亮太
『儚く脆いもの』
2025年3月26日(水)リリース

<通常盤(CDのみ)>
価格:3,200円(税抜)
品番:VICL-66061

詳細:https://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A024917/VICL-66061.html

<初回限定盤(CD+DVD)>
価格:4,500円(税抜)
品番:VIZL-24リンクオール
※3方背ブックケース仕様

詳細:https://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A024917/VIZL-2434.html

<収録曲>
01. 桜の花が咲く頃
02. 朝焼けの向こう(album mix)
03. Glory Days
04. 愛の風
05. 真っ白な街
06. 以心伝心
07. 儚く脆いもの
08. 新しい季節
09. メテオ
10. ハマユウ

<DVD収録曲>※初回限定盤のみ
01. ハロー流星群
02. ビールとプリン
03. オオカミ青年
04. Blue Jet
05. ありがとう
06. ゆらせ
07. 3月9日

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