藤巻亮太がファンの前で示した“新たな一歩” Billboard Live TOKYO公演レポート

藤巻亮太がファンの前で示した“新たな一歩”

 5月19日に大阪、6月3日に東京で開催された『藤巻亮太 SPECIAL LIVE -藤巻 春のファン祭り- supported by EPSON』。各日ともに「1st Stage」、「2nd Stage」の2回公演ーー「2nd Stage」は、藤巻亮太ファンクラブ「FRF」会員限定申し込みとなったこのライブの最終公演、Billboard Live TOKYOで行われた同公演の模様を以下レポートする。

 昨秋リリースした3枚目のソロアルバム『北極星』のツアーも終え、その模様を収めたDVDも4月にリリースしたあとに開催されるアコースティックライブとあって、本来であれば、演者も観客も、通常以上にリラックスした雰囲気で行われるはずだった、この日のライブ。しかし、当日の会場の雰囲気は、それとは少々様子が異なっていた。

 というのも、その3日前にあたる5月31日、公式ホームページで「オフィシャルファンクラブ「FRF」終了のお知らせ」と題された一文がアップされ、そこで、藤巻自身が現事務所を離れ、個人として独立することが発表されたからだ。その後、初めて藤巻が公の場に立つ機会とあって、6月3日、Billboard Live TOKYOーーとりわけ、「2nd Stage」に来場した観客は、心中穏やかではなかっただろう。ファンクラブ限定を謳った、そのファンクラブ自体が終了するというのだから。そのことについて、さらには今後の展開について、この日、何か本人の口から直接語られるのだろうか。そんないくばくかの緊張感も湛えつつ、ライブはスタートした。

 おもむろにステージに登場し、アコギ一本で歌い始める藤巻。1曲目はレミオロメンの「海のバラッド」だ。〈君といれると僕は誰でもなく/本当の自分に近付ける気がするよ〉という歌詞が、何やら意味深に響く。しかし、その曲を終えたあと、開口一番、「こんばんは、藤巻亮太です。いや、新たな道を歩き出した藤巻亮太です!」と笑顔で語り始める藤巻は、観客との“距離の近さ”もあってか、いつも以上にフランクだ。

「40代が近くなってきて、もっと自分なりに、主体的に、もっともっと行動して、いろんなこと感じて、考えて、学んで、いろんな意味で成長して、よりよい音楽の活動をしていきたいなと思ってですね……ひとりで立とうと決意しました! なので今日は、そんな新たな藤巻亮太を聴いていただきたいな……と思いながら、まあちょっとね、古い曲をたくさんやるんでしょうけど(笑)」

 その言葉で、一気に和やかになる会場。続いて披露したのは、アルバム『北極星』のなかでも、とりわけ重要な意味を持っていた楽曲「マスターキー」だった。〈ドアの向こう何がある/マスターキー/それは心の中/鍵を開けて世界へ出よう〉。これまた何やら現在の彼の心境を代弁するような歌である。その曲を終えて彼は言う。「20代がレミオロメンで、割とずっと音楽ばかりやっていたんですけど、30代は音楽以外でいろんなトライをすることが増えて……(登山家の)野口健さんに出会ったのは大きかったですね」。彼に連れられ、ヒマラヤをはじめ、世界各地を旅することによって、いつのまにかひとつの価値観に縛られていた自分自身に気づいたという藤巻。その思いを率直に綴ったのが、この「マスターキー」という歌なのだ。

 その後、『北極星』のツアーにも参加した盟友・河野圭をステージに招き入れ、ソロとしての1stアルバム『オオカミ青年』から「四季追い歌」を歌い上げる藤巻。今回のライブは、事前にSNSで募ったファンからの「久々に聴いてみたい曲」を参考にしながら、セットリストを組んでいったという。かくして、「Wonderful & Beautiful」、「五月雨」、「フェスタ」、「南風」といったレミオロメン時代の名曲が、次々と披露されることになったこの日のライブ。その合間に藤巻自身の口から語られる当時の思い出が、観客の心にも、それぞれの“青春時代”を思い起こさせる。そして藤巻が再び観客に語りかける。

「新たなチャレンジには、不安だったり、いろんなものが付きまといます。たとえば、自分はいいふうに変わりたいと思っても、うまくいかなかったりとか、綺麗なままいきたいと思ってるんだけど、どこか汚れちゃったりとか、手にしたなと思うんだけど、何か無くしていたりとか。何か裏腹で、前に進むのは、一筋縄ではいかないと思っています。だけど、チャレンジして前にするんでいくこと、そのなかで見える景色はきっと、自分にとっては素晴らしいものになるんじゃないか。その景色のなかで見えたものを音楽にして、みんなに届けられたらなと思っています」。

 そんな彼が、本編最後の曲として選んだのは、レミオロメンの「アイランド」という曲だった。本人曰く、「生きていくことの愛おしさを、自分なりに表現できた曲」であるというこの曲。それは、思い起こせば2006年、アルバム『HORIZON』で初めてオリコンチャートの首位を獲得したあと、ライブ盤に同梱されるという特殊な形で発表された楽曲であり、〈君に好かれて君からは嫌われたんだ〉という歌い出しをはじめ、当時の藤巻の心境を赤裸々に綴った内省的な歌詞が物議を醸した曲だった。“過去”と“未来”の狭間で揺れ動く“現在”の心境を率直に綴ったこの曲を、今、彼はどんな気持ちで歌っているのだろうか。しかし、その歌声は、いつにも増して伸びやかで、一抹の迷いもないように、力強く響きわたるのだった。

 アンコールで再びステージに登場した藤巻は、そこで10月7日、藤巻の出身地でもある山梨県は山中湖交流プラザきららにて、自主企画イベント『Mt.FUJIMAKI』を開催することをサプライズ発表した。藤巻自身の名前をイベントに冠し、初めてオーガナイザーを務める野外イベントが、藤巻亮太としての新たなチャレンジの一歩となるようだ。現在、自ら旧知のアーティストやリスペクトするアーティストに直接連絡を取り、出演の打診をしている真っ最中であるという。そんな藤巻がこの日最後の曲として選んだのは、2ndアルバムの表題曲でもある「日日是好日」だった。〈夢の向こう側に何が待っていたって/昨日の失敗だって/日々 日日是好日〉。アコースティックギターをかき鳴らしながら、目の前の観客を巻き込みつつ、とても軽やかに歌い上げる藤巻。その表情はどこまでも晴れやかで、明るいものだった。

 その後、本公演のみの特別企画として、希望者ひとりひとりのポートレイトを藤巻自身が、自慢のカメラで撮影するという一風変わったファンサービスを実施。会場の出口付近に三脚を立て、ファンのひとりひとりと言葉を交わしながら、ポートレイトを撮影、本公演の協賛者であるEPSONのプリンターで出力し、その場でプレゼントするというこの企画。そのひとつひとつの会話に耳を傾けていたわけではないけれど、藤巻と談笑しながら写真を撮り、それを受け取りながら会場をあとにするファンの表情は、開幕時の緊張など忘れたように、いずれもこれまた実に晴れやかで、明るいものだった。そのリラックスした雰囲気と笑顔、そして何よりも唯一無二の歌声によって、人々を魅了し続ける藤巻亮太。沈思黙考の果てに、今再び新たな一歩を踏み出すことを決意した、彼の今後に期待したい。 

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twtter

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