カネヨリマサル、『昨日を生きない私達へ』に込めた“今届けたい思い” バンドの原点、スリーピースの矜持を語る

段々とクリアになってきた“自分たち”の立ち位置
──そんな皆さんですが、メジャーデビューからおよそ丸2年が経ちました。バンドの現在地についてはどんなふうに捉えていますか?
いしはら:ちょっとずつ殻を破り始めているところなのかなって。メジャーデビュー1年目はいろんな世界に飛び込んでいって、2年目も含めてですけど「自分たちってどういうバンドなんだろう?」と考え続けていた期間だったんです。たくさんのバンドさんがいる中で、カネヨリマサルは何ができて、何をしたくて、どういう人が聴いてくれているのか……その自分たちの立ち位置がようやくわかってきて、今自分たちのやるべきことがクリアになってきた。
ちとせ:メジャーデビューした時は「メジャーバンドに似つかわしいバンドにならなきゃ」みたいな、ある種のイメージと戦っていた部分もあったんですよ。でも今はそういうことじゃなくて、純粋に音楽をもっと聴いてほしいし、届いてほしいとシンプルに考えながら活動しています。
いしはら:たとえばライブのあり方とか、「激しいライブをするのがカッコいいんだ」と思い込んでいた時期もあったんです。もちろんそれこそが正義というバンドもたくさんいらっしゃるんですけど、私たちはそこでは戦えないし、いろんな方の反応を見る限り、そこで戦う必要もないんだなって。「自分たちができるライブってなんだろう? 激しくやるだけじゃないよね? ちゃんと曲を届けよう!」「じゃあ曲を届けるためには? 練習しよう!」みたいな(笑)。そんなふうに思考が変わりました。
ちとせ:そう思うと、まだまだできることはあるし、現状には全然満足していないというか。もちろん成長はしてきていると思っていますけど、「自分たちの好きな音楽をもっと届けたい」という野心はどんどん大きくなっています。規模的な意味でも、お茶の間にも届くぐらいのいい音楽を作りたいと思ってずっとやり続けているので、その夢も叶えたいなと。
もりもと:私も同じく、現在地はまだまだだなって。昨年9月に野音(大阪城音楽堂)でのライブもやらせてもらって、確実に成長はしてきてるんですけど、なんだか「もっともっと!」って思っちゃう。もっと音楽に対して真摯に向き合えるところがあると思うし、音楽が生活の中に溶け込むくらいに突き詰めていかないといけないなと思ってます。
ちとせ:それと、「次に私の作る曲、どんなんに出会えるかな」っていう意味での“まだまだ”でもあります。まだまだ新しい発想や新しい3人の音に出会えることに対して、純粋にワクワクしてるんです。バンドを続けていったら出会えるはずの新しい曲に、もっともっと出会いたい。
“今届けたい思い”をタイトルに
──そんなバンドの現在地を詰め込んだ新作ミニアルバム『昨日を生きない私達へ』が完成しました。制作はどんなふうに始まったんですか?
ちとせ:アルバムタイトルから決めたわけではなくて、ひとつひとつの曲を本気で作って録り溜めていき、この形になりました。この7曲が出揃った上で、自分たちの今届けたい思いをタイトルにした感じです。曲に関しては、「こういう曲を作ろうぜ」みたいなテーマを設定してから作り出すことが今回は多かったですね。「ライブで一緒に歌ってもらえる曲を作ろう」とか「ストリングスを入れた壮大なバラードを作ろう」とか。
──そういう作り方をした理由は何かあるのでしょうか。
いしはら:自分たちがどういう方向へ行きたいのかを話し合ううちに、これまでたくさん曲を作ってきたからこそ、ちゃんとステップアップしたものを出したい気持ちが強くなってきたんです。なので、3人が1つの目標に向かって曲を作る、ということをやってみようと。
──逆に言うと、今ならそのやり方ができるだろうと思えたわけですね。
いしはら:そうですね。たとえば「シャッターチャンス」が私の中ではその手応えが一番大きいんですけど、この曲は、初めて楽器のアレンジから作った曲なんですよ。いつもはちとせが弾き語りで作ってくるデモから曲作りが始まるので、ちゃんと3人全員のチャレンジが詰まったすごくいい曲にまとまったなっていう達成感があります。

──セッションから作るという、すごくバンドっぽい作り方だったんですね。
ちとせ:そうですね。
──それを聞いて腑に落ちました。僕の個人的な推し曲も「シャッターチャンス」なんですけど、すごくバンドの喜びに満ちた曲で。入りのベースとかヤバいですよね。
いしはら:あははは、嬉しいです(笑)。
──ギターソロとかも、いつになくエモーショナルな“泣き”のギターで。
ちとせ:そうですね(笑)。全員の意識が同じ方向を向いていたので、乗っかるだけっていう感じはありました。だからこそ、いつもと少し違うアプローチになったのかもしれないです。
──ドラムはいつも通り直情的な感じに聴こえるんですけど、よく聴くと結構細かくフレーズが考え抜かれていますよね。そのギャップが楽しい1曲だなと感じました。
もりもと:ありがとうございます。これもちとせが言ったのと同じで、自分の考えるドラムにプラスしてギターやベース、歌に引っ張られたりとか、演奏の影響をめちゃくちゃ受けていると思います。

カネヨリマサルの“裏”の代表曲
──その「シャッターチャンス」と「リトルデイ」が終盤に並んでいる構成がすごく素敵で。序盤はストレートに歌モノとして楽しめるカネヨリマサル然とした曲が続いてるんですけど、あとからこういう“バンド音楽好き”をニヤリとさせるようなひねりのある楽曲が出てくるという。
もりもと:おおー。
いしはら:嬉しい!
ちとせ:そうなんですよ、それはちょっと狙ってました。曲順はめっちゃ考えて、一度考えたやつを並べて聴いて「いや、違うな」と試しながら決めていったんです。

──しかもそれで終わらず、ちゃんと「ハッピーニューデイ」で締めるあたり隙がないですよね。
いしはら:めっちゃ嬉しいです。「ハッピーニューデイ」は「お客さんとライブで歌えたらいいね」という思いで作った曲で、今後カネヨリマサルの裏の代表曲としてずっと聴いてもらえる曲なんじゃないかと……。
もりもと:「裏の」なんや(笑)。
いしはら:一番売れた曲とかではなく、っていう意味で(笑)。ありのままの自分たちのパワーがめちゃくちゃ詰まってて、信念という意味でバンドを代表する1曲になってるんじゃないかなと思います。
もりもと:後ろ向きな3人が集まってるバンドなんですけど(笑)、そんな3人なりにお客さんの背中を押せるような、私たちらしい曲です。このアルバムのラストを飾るのにぴったりな曲になりました。
ちとせ:作った当初はリリース曲を決める選曲会議で漏れちゃったんですけど、私はめちゃくちゃ推してたんです。絶対に届く曲やと思ってたし、ライブハウスで演奏する姿がありありと想像できたんで。2人も「この曲はヤバいね」って言ってくれてて。
いしはら:そう。どうしてもリリースしたかったんで、今回改めて引っ張り出して「これどうですか?」って再提案しました。
ちとせ:無事に音源化できてよかったです。


















