単身渡韓、3畳一間で追った夢 aespa、ILLIT……振付師RENANがK-POPシーンで成功を掴むまで

「数年後に日本を超える」韓国ダンスシーンから受けた刺激
――K-POPアーティストを目指していたところから、ダンサーに転向したきっかけを教えてください。
RENAN:何か大きなきっかけがあったわけではなく、自然と移行していきました。小さな事務所で練習生として過ごした時期も含め、アーティストとしては3年ほど下積み期間を過ごしたのですが、4年前にダンスに力を入れ始めてから、物事が不思議とうまくいくようになったんです。成長速度が2倍になったというか。結果的にダンサーのほうが向いていたのかもしれません。しばらくはアーティストとダンサー、両方の道でキャリアを模索していましたが、次第に韓国のダンスシーンやダンサーへの想いが強くなり、ダンスに絞って活動するようになりました。
――韓国のダンスシーンのどのようなところに可能性を見出したのでしょう?
RENAN:ダンサーの卵として活動する方々の成長スピードでしょうか。皆さん本当に努力家で、ダンスを始めて1〜2年しか経っていないにもかかわらず、日本で7〜8年ダンスを学んだ人と同じくらいのパフォーマンス力を身につけている姿を見て、「韓国のダンスシーンは数年後に日本を超えるな」と確信しました。それで、私も業界の成長の波に乗ってまずは3年頑張ってみようと、韓国でダンサーとしての道を歩き始めたんです。

――振り付けを考える際に最も意識することは?
RENAN:楽曲のコンセプトと、グループやメンバーの持つ個性です。自分の好みや想いは後回しにして、まずは事務所と楽曲の企画意図や完成させたいダンスのイメージなどをすり合わせます。さらに、リファレンス資料と過去のパフォーマンス映像、MVなど、すべてにしっかりと目を通した上で振り付けに臨んでいます。
――アーティストや楽曲の研究を徹底的に行うのが、RENANさん流の仕事の取り組み方なのですね。
RENAN:そうですね。新人グループの場合はなかなか難しいケースも多いのですが、すでにデビューしているグループであれば、めちゃくちゃ研究します。そうすると、振り付けの方向性も自ずと定まってくるもの。たとえば、人を惹きつける歌声が持ち味のメンバーであれば、ダンスを少し減らして歌や表情で魅せるようにしたり、グループのなかでもビジュアル担当のメンバーであれば、激しい動きはせずにしっかりと顔や表情演技を見せられるような構成にしたりと工夫ができます。
とはいえ、アーティスト研究は私の流儀としてやっているというよりも、好きでやっている部分が大きいです。先ほどもお話ししたとおり、私はK-POPそのものが大好きなので、日頃から様々なアーティストのMVやライブ映像、音楽番組の出演映像などを観ています。最近、韓国では推し活の文脈で“도파민”(ドーパミン/楽しくて幸せな瞬間のことを指す)という言葉が流行っているのですが、私のアーティスト研究は“도파민”な部分も大きいから続けられているのだと思います。
――韓国では1曲の振り付けを複数名で担当することが多いと聞きますが、RENANさんのお仕事としては、1曲すべての振り付けと部分的な振り付け、どちらのほうが多いのでしょう?
RENAN:私の場合は、サビだけを依頼していただくことも多いですね。1曲の振り付けを最初から最後まで考えるのも好きですが、サビの部分だけを考えるのも得意で。良いアイデアが結構スラスラと出てくるタイプなんですよ。
――サビの振り付けは楽曲のイメージを左右しますが、どんな風に頭を働かせてアイデアを生み出すのでしょうか。
RENAN:直感でビビッときた振り付けを採用することが多いです。私の場合は、直感を信じるとうまくいくことが多くて。K-POPだけでなく、ダンスのディープな部分も勉強してきていますし、TikTokなどのSNSも楽しんでチェックしているので、トレンドを押さえたダンスの引き出しを日頃から自然と増やしていることが、振り付けのクオリティと直感の精度を高めているのだと思います。
夢を追うために大切な“実力以外”の要素

――K-POPシーンの生み出すクリエイティブは世界から注目/評価されています。その理由について、シーンの最前線に身を置くRENANさんはどのように考えますか?
RENAN:大きく3つの理由があるように思います。1つ目が、良いと思ったものを何でも取り入れる、韓国の方の柔軟さ。TikTokやYouTubeなどのSNSでの発信をいち早く強化したのはK-POPアーティストでしたし、楽曲やパフォーマンスに関しても、様々なジャンルの魅力的な要素を取り入れて新しいパフォーマンスを生み出すことがうまいと感じます。
2つ目が、SNSの使い方。韓国のアーティストやダンサーは、自分たちの実力やパフォーマンス、努力の成果を対外的に知らせることが本当に上手だなと感じます。韓国の芸能事務所は、現場のスタッフやマネージャーが細かな部分まで気を遣って、SNSに投稿する文章や写真、動画を整えているんです。私たちのような表現者にとって、SNSは名刺と一緒。それをよく理解して、何を発信するかを慎重に検討しているからこそ、世界のファンにアーティストの存在や楽曲、パフォーマンスが届くのだと思います。
3つ目が、競争社会であることでしょうか。韓国では、誰かが頭一つ抜きんでると、その背中を追って次の人材が頭角を現して、競争のなかで1つの分野の人材層が磨かれていく感覚があります。こういった部分があるからこそ、K-POPシーンが急速に発展したのかなと思いますね。
――2025年にK-POPシーンで流行りそうなダンスは、どのようなものだと予測していますか?
RENAN:少し難易度の高いダンスですかね。韓国のダンスシーンが発展途上だったのもあって、長いあいだ簡単で真似しやすい振り付けが好まれていましたが、レベルが上がってきた今、挑戦しがいのある振り付けのほうが好まれる気がします。先日振り付けを担当させていただいたKARINAさんのソロ曲「UP」のような、ダンスを学んだ人ならある程度練習すれば踊れるようになる難易度が高めの振り付けが、今後流行っていくのではないでしょうか。
――今後の目標を教えてください。
RENAN:近い将来、韓国で自分のダンススタジオを開き、運営したいなと思っています。今はスタジオの内装デザインなどの準備を進めているところです。あとは、韓国だけでなく、日本での仕事も広げていけたらと考えています。振り付けはもちろん、メディアでのお仕事やポップアップストアの展開など、ダンサーにとどまらない活動をしていけたら。たくさんのことを学びながら、人とのつながりと自分の幅を広げていきたいです。
――最後に、かつてのRENANさんのように夢を追う方に向けてメッセージをいただけないでしょうか。
RENAN:K-POPアーティストを目指す方は、視野を広げつつ、自己分析をして、自分に似合う表現やスタイルは何なのかをしっかりと見つけてください。これは、私がアーティストを目指していた頃を振り返って思う反省点でもあって。私は、自分に似合わない曲をずっと練習していたがために遠回りをしてしまったなと感じるので、アーティストを目指す方には自己分析をたくさんしてほしいです。いくら毎日練習しても、オーディションで自分の魅力を100%アピールできなければ意味がありません。過程に執着せず、結果だけを見て最大限の準備をする。それが何よりも大切だと思います。
ダンサーを目指す方は、すべてを自己責任のもとでこなし、道を切り拓いていく覚悟を持ってほしいなと思います。ダンサーには会社の後ろ盾がありません。何か問題が起きても頼れる人はいませんし、自分の活動の方向性をプロデュースしていくのも、すべて自分自身。競争社会のなかで自分の意見をしっかり発言して、強く生きていけるかどうかは、挑戦する前にあらためて見極めてほしいです。ただダンスの実力があるだけでは生き残っていくのは難しい。自分ならではの個性や特徴、誰かに与えられるメリットを磨くといいと思います。私もスクールでダンス講師をしながら振付師としての技術や感性を鍛えたことが、今の仕事につながりました。自分がどんな仕事なら楽しんで価値を発揮できるのか、一度しっかり考えてみることをおすすめします。
――頼る人のいない厳しい環境のなかで、RENANさんは頑張り続けるために、何を心の支えにしてきたのでしょうか。
RENAN:渡韓した最初の4年間、3畳一間のコシウォン(고시원/本来は受験生などのための勉強メインのひとり部屋)に住んで、お金の工面から体調管理まですべて自分で頑張ってきた経験が大きい気がします。それこそ、韓国生活1年目の頃に救急車で運ばれたときも、医師とのコミュニケーションや支払いの対応など全部自分でやりました。そういう大変な時期を乗り越えてきたからこそ、自分を信じられる。「あれだけ頑張ってきたからきっとできる!」という想いが、ずっと私の心の支えになっているんです。





















