material clubでトライし続ける小出祐介を観る楽しさ 5人の素晴らしい演奏に触れた初ツアー東京公演

material club、初ツアー東京公演振り返る

 6年ぶりの作品である2ndアルバム『material club Ⅱ』を2024年にリリースしたmaterial club。6年前は、Base Ball Bearの小出祐介主宰の、ソロでもなくバンドでもなくユニットでもなくグループでもない新音楽プロジェクト =“マテリアルクラブ”として、accobinこと福岡晃子を制作パートナーに迎えて(ほぼ)はじめてのDTMで制作され、そこにゲストのミュージシャンやシンガーやラッパーが参加する形で、1stアルバム『マテリアルクラブ』が生み出された。

 今作におけるmaterial clubは、小出祐介、福岡晃子、前作にも参加した成田ハネダ(パスピエ)、キダ モティフォ(tricot)、YUNAの5人によるバンド編成となり、そのメンバーで音源を制作した。ゆえに、前作の時はライブをやること自体が考慮されていなかったが、今作では11月3日大阪・Music Club JANUSと11月29日東京・渋谷 CLUB QUATTROの、2本のスケジュールが切られた。

 なので、前作の曲はバンド用に翻訳する必要がある。最初は打ち込みを使おうかと思ったが、開き直って全部人力に翻訳することにした。それで再現できない必要な音は、サンプラーに入れて手で叩くとかにしようと――と、僕が行ったインタビュー(※1)で、小出は話していた。

 というわけで。その2本のうちの東京編を観た。超満員の渋谷 CLUB QUATTROで5人になったmaterial clubは、本編16曲、アンコール1曲の計17曲を演奏した。

 『material club Ⅱ』収録の8曲すべて。『マテリアルクラブ』の10曲のうち、ライブでの演奏が可能な7曲。それから、映画『ゴーストマスター』の主題歌として書き下ろし、2019年11月にリリースした「Fear」。そしてアンコールでは、1曲目の「水のロック」をもう一度、という内訳である。

material club

 「水のロック」「00文法」「Amber Lies」「まだ全然好き」の4曲をたて続けにプレイした最初のブロックは、ステージの上の5人(特に小出)に、ちょっと緊張が漂っている感じがしたが、その4曲を終え、小出の「2本かあー。2本で終わりかあ……」で始まった長めのMCで、ステージ上の空気がぐっとやわらかくなる。ただ、オーディエンスの方は、最初から様子見な雰囲気はなかった。初めてmaterial clubのライブを観られることにワクワクしている気持ちが見てとれるほどの熱さが渋谷 CLUB QUATTROを包んでいた。

 キダ モティフォのギターと成田の鍵盤の絡みが美しい「Twilight Dance」「New Blues」と、音源のBRAHMAN/OAUのTOSHI-LOWの代わりに小出がボーカルをとった「告白の夜」を経ての「Curtain pt.2」と「閉めた男」の2曲が並んだゾーンで、そのフロアの熱は一回目のピークを迎えた。

 前者は、始まってから小出が歌い始めるまでに2分半かかる。つまり延々とインスト状態が続く曲で、後者は、トリプルファイヤー吉田靖直のボイスが入ったサンプラーを小出が叩く曲。こういうタイプの曲で一番盛り上がるのって、いいお客さんたちだな、バンド側は嬉しいだろうな、とフロアが波のようにうねり、歓声が飛ぶ光景を見ながら思う。なお「閉めた男」は、曲の後半にクイズが出されて、それに小出がサンプラーで答える、という新バージョンになっていた。その2曲を終えた小出、「これがさ、初めてのツアーなんだよ、この完成度でさ。……楽しいなあーっ!」。

material club

 断られるかもしれない、という緊張感を持ちながら、自分で1人ずつメンバーを誘ったのは今回が初めてだった、という話が、メンバー全員のSNSのプロフィールに「material club」を入れてほしい、という本音に辿り着いて、メンバー4人とオーディエンスの爆笑をとる小出。その上で、「これで安心して、(メンバーと)改めて次の話ができる。皆さん、今後ともよろしくお願いいたします」という言葉で締めてから、後半に突入した。つまり、今後も活動があることを、さらっと宣言したわけだ。

 小出の歌に、各メンバーが付けるハーモニーやコーラスが美しく溶け合っていく「Beautiful Lemonade」。material clubをやる理由と、“今の時代は自分にはこう見える”という視点をミックスしたリリックが、耳に突き刺さってくる「WATER」。電子音のリフをギターに置き換えて演奏され、そこに小出のラップと福岡の歌が交互に乗りながら進む「Fear」。(material clubの中では)王道ギターバンドのテイストかつアッパーなサウンドでフロアを踊らせた「Naigorithm」と「恋の綾」。曲中のフロアのうねりと、曲終わりの拍手と歓声が、1曲ごとに大きくなっていく。

 そして「Altitude」だ。『material club Ⅱ』のラスト曲であり、このアルバムのテーマで、ツアーのタイトルにもなっている“物質的”ということを究極に突き詰めて表現した1曲。その結果、“物質的”で“視覚的”なことしか歌われていないのに、えも言われぬ情感が宿っている。この曲を5人は「黙々と演奏することで逆にエモーショナルになる」という、まさにmaterial clubならではの方法で、オーディエンスに届けた。

 それがあまりに見事だったので、これで終わりか、と思ったら、ドラムの4カウントから曲が始まり、イントロに乗せて小出が挨拶し、福岡が歌い始め、それが小出のラップに繋がる。1stアルバムの1曲目「Nicogoly」だ。音源ではいわゆる歌ものヒップホップなテイストだが、ラップとロックバンドのミクスチャーな音にリアレンジされている。「Altitude」で一旦落ち着いた(歌詞を追いながらじいっと集中して聴くのがふさわしい曲なのだ)フロアの空気にもう一度火をつけて、本編が終了した。

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