Nulbarich、超満員の武道館で刻んだ活動休止前ラストライブ 観客と共に8年の軌跡を辿った一夜を振り返る

Nulbarich、活動休止前最後の武道館レポ

 「終わらないけど、一旦まじサンキュー」ーー湿っぽいお別れじゃなく、笑って手を振るようなライブだ。2024年12月5日。日本武道館のステージで歌っていたのは、情熱を内に秘め、悪戯っぽい笑顔で音楽を楽しむJQ。つまりいつもの彼だった。

 総勢13名。すべてのバンドメンバーがステージに立つ。活動休止前最後のライブに華を添える、まさしくクライマックスと呼べるような景色である。が、まるで明日からもずっとこのバンドが続くような、そんな気分も抱かせるライブだったと思う。JQの歌に感傷はなく、涙を誘うようなMCもない。しかし内心込み上げるものがあったに違いない。「本当は1曲目から声が震えていた。でも、カッコいいとこ見せなきゃ」というのは、終演後楽屋で顔を合わせた時のJQの言葉である。

 最後の曲(25曲目の「Sweet and Sour」)を迎えるまで、頭からMCナシで24曲ブッ通しで突き抜けていくライブ。これは結成当初、メンバーのビジュアルを公開せず、過度なメディア露出も避け、“音楽だけ”でリスナーの心を射止めていった彼らに相応しいステージだ。

Nulbarich(撮影=岸田哲平)

 ステージに立ったのはギター4人にベースが3人、ドラムとキーボードが2人ずつ、そしてマニピュレーターが1人にボーカルのJQである。無論、セットリストは全作品から満遍なくセレクトするオールタイムベストと言える内容。なんというか、オールスター戦のようなイメージである(思えば2018年に行った初の武道館ワンマンライブも、ギター3名、ベースとキーボードが2人ずつ、ドラムにJQという大所帯でやっており、Nulbarichはこの会場を毎回総力戦にしているように思う)。

 会場はもちろん超満員。お客さんは皆、きっと期待と寂しさ相半ばだっただろう。開幕を告げる1曲目は「TOKYO」。バンド結成以前に書かれたもので、JQの心情をダイレクトに反映したリリックが印象的な楽曲である。ひんやりとした音色が心地いい原曲に比べ、ドラム2台の重厚感のあるサウンドが新鮮に響き渡る。バックLEDに映るのは、太陽のように燃えるオレンジ色のゆらめきだ。

Nulbarich(撮影=岸田哲平)

Nulbarich(撮影=岸田哲平)

 「全力できてよ、全力でこいよ!」と言われ、途端に巻き起こるクラップの嵐。2曲目の「Stop Us Dreaming」ですでに会場のボルテージは上がりまくっている。そして続く「NEW ERA」で、まるで巨大な風船が割れるように空気がハジけた。Nulbarichの登場を告げた代表曲である(ベースが最高! ベースが最高!)。さらにはウッドベースとギターのカッティングの重なりが心地いい「Handcuffed」、チアフルな音色の鍵盤に胸がすく「Lucky」、そして軽快なリズムで踊るポップソング「SMILE」と、新旧折り混ぜたセットリストですっかり会場中を飲み込んでいた。

Nulbarich(撮影=岸田哲平)

 スモーキーな映像と共に演奏された「Cigarette Butt」から、レイドバック気味のリズムに酔える「Spread Butter On My Bread」と、どことなくアダルトな雰囲気の2曲を披露。「JUICE」はJQがドラムを叩きながら歌い、「In Your Pocket」を挟んで彼らのライブでは欠かせないキラー「Super Sonic」へ。ライブ中盤にして全曲が大団円のような様相を呈しており、見渡す限りのオーディエンスが皆踊る姿が壮観だ。

Nulbarich(撮影=岸田哲平)

 そのテンションのまま迎えたディスコファンク「STEP IT」は、この日随一の演奏だったと思う。ポップで華やかなメロディと、くるくると回るレインボーの照明。腰にくるベースを中心としたファットなアンサンブルに、カタルシスを生む痛快なギターソロ......リズミカルに聴かせるJQのボーカルも抜群で、なんともピースフルな空間が生まれていた。

 UKガラージからの影響を消化した「Liberation」を人力ドラムを交えて再構築。そして銀河の星々が衝突するようなスペーシーなサウンドで魅了する「Zero Gravity」へ。この日のセットリストの中では比較的緊迫感と重厚さを感じる演奏で、こうした振り幅もNulbarichの魅力だろう。

Nulbarich(撮影=岸田哲平)

 風が吹き抜けるような軽やかさが戻ってきたのが「Follow Me」である。4人のギターが奏でるメロディは華やかの一言で、〈いつも通りでいていつまでも〉というリリックにはことさら響くものがあった。「It’s All For Us」の甘やかなギターリフ、ブライトな音色もこのライブを象徴する眩さがあったように思う。

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