「石井恵梨子のライブハウス直送」Vol.4:Gateballers「すべて実験じゃなくて確信」 新体制で鳴らす“奇妙な調和”
小田急線が地下に潜り、再開発で一気にオシャレ化した元線路街に生まれた、下北沢の新しいハコがADRIFTである。外壁と内壁は白く天井はどこまでも高い。Suchmosやクラムボンを手がけるエンジニアの西川一三と、toeのギタリスト兼エンジニアである美濃隆章が音響設計と空間監修を担っている、「いい音を知り尽くした大人の空間」だ。
11月8日、ここでワンマンライブを行ったのはGateballers。ガツガツしたところのない活動内容はもちろん、目立つのは古着を上手に着こなす若いファン層なので、汗臭いライブハウスはあまり似合わないかもしれない。
とはいえ、登場したのは普通の4人組である。以前はシンセやリズムパッドなども持ち込んでいたが、今はそれらもなし。ゆったりしたミドルテンポから始まり、じんわり染みるメロディで会場を温めていくライブ内容だが、ニット帽でよく顔が見えないボーカリストは、2曲目になるとパッと頭を上げて帽子を振り落とした。髪の毛にはキラッと光るものが。もしかして、汗かいてる? ダイナミックなリフ、ロックバンドのスタンダードから始まるこの新曲が、「Wake up」というタイトルなのも非常に興味深い。
「センスがいいって、“何をやらない”ってことだと思っていて。当たり前のことや簡単なこと。あと、みんなが(日本)武道館でやるのが目標とか言うのも全然わからなかった。ガツガツしてないって言われると……うん、その通りですよね」
中心人物、濱野夏椰(はまの かや/Gt/Vo)の言葉だ。もうひとりのメンバーは久富奈良(くどみ なら/Dr)。あまり見かけない両者のファーストネームは親のセンスと無関係ではなく、濱野の父はレコーディングエンジニア、久富の父はBO GUMBOSのどんと(Vo/Gt)である。隠してはいないが別に喧伝もしなかった、というのがこれまでのところだった。
物心つく前から良質な音楽に触れてきた2人であることは想像に難くなく、すくすく育ってバンド活動を始めたのだから、ねじれた反抗心もなかったのだろう。ゆうらん船やカネコアヤノのサポートを務めた本村拓磨(Ba)も在籍した初期の頃から、Gateballersは知る人ぞ知るインディシーンの精鋭集団だった。繊細さと不気味さが隣り合う音の揺らぎ。じわりと溶けていく極上のサイケデリア。曲によってはシンセや同期が入ってくる曲もあり、そのすべてに、実験的センスの塊、という形容詞が付随しているようだった。
「実験的サイケって言われても、僕そのものがサイケデリックだと思うし、すべて実験じゃなくて確信でやってることだから。人の評価ってよくわからなかったですね。ただ、『俺たち別に砂漠に手ぶらで行っても音楽家だよね』みたいな精神状態でいたから(笑)、理解されることもあまりなかったかもしれない」
転機は2020年、濱野が交通事故で両手首を骨折したことだ。骨折が治った後も腕がうまく動かなくなり、一時期はギタリスト生命を絶たれてしまう。さらに2021年にはベースの本村が脱退。八方塞がりの状態が続いた。あらゆる治療を試みた濱野は、最終的に東洋医学の先生に出会う。骨にくっついてしまった筋肉を「親指で直接ちぎっていく」という、聞くだけでもなんだか壮絶な治療を1年ほど続け、ようやくメンタルを回復させていった。
「半年以上ぶりにギターに触ったんですけど、Cのコードを弾いただけで涙が出ました。すごい奇跡だなと思った。ギターの弦やツマミを作ってくれる工場の人にも感謝しなきゃいけない。すべては“ありがとう”でできてるんだなって」
開店休業状態のバンドが復活する。まずサポートベースには元Layneの原元由紀が自薦で参加。続いて、同じく元Layneのボーカル&ギター 萩本あつしが加わることで現在の4人編成となる。Layneはモッズの匂いが強いロックンロールバンドだったが、彼らが鳴らした熱い衝動は、新生Gateballersが手にしたいものでもあった。