「石井恵梨子のライブハウス直送」Vol.4:Gateballers「すべて実験じゃなくて確信」 新体制で鳴らす“奇妙な調和”

Gateballers、新体制で鳴らす奇妙な調和

 ライブに話を戻す。新曲「Wake up」はごくシンプルな、スタンダードと言えるギターロック。ひねりがない分、エレキギターという楽器がどれほど気持ちよく天に駆け上がっていくのか、バスドラのキックがいかに鋭く空間を突き刺すものなのか、バンドサウンドの醍醐味がはっきりと伝わってくる。この空間だからわかることでもあった。なるほど、真新しい下北沢ADRIFTは単にオシャレな空間ではなく、音楽の快感をどこまでもリアルに体感できるハコなのだと、私はこの日のGateballersで初めて理解した気がする。

「リハビリ後もできることとできないことがあって、曲に関してもハードルを下げざるを得ないところはあったんです。でも、楽しかったらいいかなって思えるようになった。あとは、普通のギターロックをやろうとしても僕らはちょっと違うものになる。それがわかったのはいいこと。やっぱり才能に溢れてるんだなと思った(笑)」

 そう笑う濱野を、嫌味なヤツだと思わないのが不思議である。キラキラ透き通った目といたいけな少年みたいな歌声を持ち、なんだかロマンチックなことを歌い続けている彼は、一見ピュアな夢想家のように思える。ただ、初期の楽曲「レモンソング」に〈僕が消える3秒前に君の名前呼ぶかな〉というフレーズがあるように、その歌詞にはまず喪失の予感めいたものが滲んでいる。さらにライブ中盤、ことさらメランコリックに響いた「wedding dress」には、〈君が誰なのか もう誰も知らない/悪い話じゃない 体は入れ物〉との言葉も。無防備なくらいのロマンを散りばめた彼の歌は、100年後、200年後の未来にそっと希望を託すイメージに支えられているのだと思う。世界遺産を見て感動するように、今ここに残した音楽が数百年後のいいものになると夢想するサイケデリック。シンプルなギターロックに戻った今だからこそ、「この瞬間のリアル」や「明日の希望」を歌うバンドとの違いが明確になっている。

 ライブ後半に披露された新曲「プラネテス」も興味深いものだった。同期のビートが絡まるダンスチューンで、しかしメロディに派手な展開は見られない。どちらかと言えば素朴、おおらかに進むもので、その上に大胆に被さるギターのディストーションも、組み合わせとしてはなかなか奇妙。合わないはずのものが自然に調和するこの曲は、濱野曰く「パラパラとカントリーを混ぜた」そうで、その発想自体が面白すぎる。そして、いかにも奇想天外でしょ? と思わせない曲に仕上げるのが今のGateballersである。

 なお、現体制のステージにシンセなどの機材はないが、体も整ってきた今後は復活するかもしれない、とのこと。さらに、音大でファゴットも学んだベース奏者・原元がいることで新たな展開が加味されている。それがアンコールで聴けた新曲「光でできた世界」。最新ミニアルバム『Virtual Homecoming』を聴く限りメロウな歌ものだが、実際のステージでは濱野のギター弾き語りにファゴットの低音が寄り添う、やけに優雅なアレンジになっていた。この4人でやれることが今後はもっと増えていく。明るい未来しかない今のGateballers。「知る人ぞ知る」の枠に押し込めておくのは、そろそろもったいなさすぎる。

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