Nulbarichが活動休止前に贈る至高のアルバム『CLOSE A CHAPTER』 Jeremy Quartusとして“繋ぐ”想いを語る
mabanuaが描く“もし自分がNulbarichだったら”
ーー「Believe It」はすごくいい曲ですね。爽快なエイトビートで進んでいく曲で、バンドサウンドでこのスピード感を持った曲は意外とNulbarichには少ないように感じました。
JQ:立ち位置的には初期の「SMILE」とか、あの辺のビート感と一緒になっている気がします。
ーーなるほど。この曲はLAで作ったんですよね? 今作は実験的な音色の曲も印象的ですが、「Believe It」はロック然としたところがあるように思います。
JQ:思いっきりUSポップですね。このビート感で作る、僕がかっこいいと思うドポップ。コライト(詞曲共にJeremy Quartus、Tushar Apte、Nate Cyphertの3名がクレジット)でその日にセッションして作ったんですけど、ポップスの話をしていたら自然とこの感じに寄ってきたんですよね。ノリで打ったビートやグルーヴ感のままに構築していって、流されるままに進んでいったらこうなったという。
ーー歌詞はどういうイメージで書きましたか?
JQ:このビート感で、希望に溢れた曲にしたいと思っていました。自分が音楽に向かう時の姿勢を歌っている曲なんですけど、この軽快さの中ではやっぱりポジティブなことを言いたい。ただ、いつも言ってる気がするんですけど、暗い中にいて初めてライトの明るさに気づくというか。「ポジティブに行こう」というのは、ポジティブじゃないから言うわけですよね。
ーーわかります。
JQ:何においても結果だけにフォーカスすると、結果が出るまで苦しいじゃないですか。でも、結果を決めて経過を楽しめば、たぶん最初から最後まで楽しいんですよ。きっと通ってる道はみんな一緒で、結果がもらえるまではずっと暗い。だから、今は暗いというのを受け入れてあげればいい。そうやって結果までの過程をどう捉えていくかというのがポジティブの作り方だと思っていて、そういうざっくりとした自分の感覚を吐き出した曲です。そして「Believe」という言葉は、個人的には一種の諦めなんです。今の自分を受け入れることが、信じるということだと思う。
ーー「遊園」はmabanuaさんが作曲した曲ですね。ネオソウルのフィーリングもうっすらと感じるゆったりとしたラブソングになっていますが、どんな風に制作されたんですか。
JQ:「遊園」はマバ(mabanua)さんに丸投げの曲です。マバさんが以前自分のラジオでNulbarichをかけてくれた時があって、「痒いところに手が届くズルいバンドだ」という褒め言葉を言ってくれたんです。それでメンバーが繋がっていることもあり、フェスとかで会えたら挨拶を交わす感じだったんですけど、今回オファーして「マバさんが思う『俺がNulbarichだったら』を書いてください」と伝えたのがきっかけでできた曲ですね。マバさんの中でNulbarichを噛み砕いている部分がすごく曲の中に見えてくるというか、「NEW ERA 2.0」みたいなイメージがあります。
ーーなるほど。
JQ:曲が上がってきて、メロディやトラックに関してはこのままいきたいと思いましたね。なのでミュージシャンが俗に言う、デモソングを歌う時の宇宙語のライミングをなるべくそのままにしようと思って。韻を踏んでいくところはそのまま活かして残りの歌詞を書いていったら、ハマったのが僕の失恋だったという。これだけお洒落なメロディでハッピーそうな曲なのに、元カノに文句を言ってる曲なんですよ(笑)。「もし時間が戻せるなら、君がそんなことをする前に僕が止められたのに」という言い回しは割と僕らしいんですけど、キャッチーなメロディなのに曲の頭で「おい、やってくれたな」と言っている。それは今まであまりやってこなかったことですね。
Nulbarichらしさはポップソング「Words」に
ーー「Mirror Maze」も同じくmabanuaさんの作曲で、こちらはジャジーな雰囲気を感じました。
JQ:僕的にはジャンル感というよりは、mabanua感というか。mabanuaさんの世界観に乗せてもらった感じがしましたね。「Mirror Maze」は「遊園」を出してもらった後に、「こんなのも作ってみました」みたいにサプライズで作ってもらった曲で、導かれるようにリリックを書いていきました。ミステリアスで、どっちかと言ったら潜り込んでいくようなイメージですね。
ーー両方ともmabanuaさんが抱くNulbarich像、あるいはJQ像のようなものが反映されているんですかね?
JQ:だと思うんですよね。なので、こんな名曲に「Nulbarichの曲でいうとこれなんじゃないか」と言うのは失礼なんですけど、「Mirror Maze」を聴いて一番僕らの曲に近いのは「Hometown」なのかなと思いました。こういう変則ビート系でちょっとスピード感があるのは「Hometown」ぐらいしかないから。そこはいつか2人で飲みに行って答え合わせをしたいです。
ーー「Don’t Waste It On Me」は今作における最高の1曲だと思います。
JQ:おお!
ーーボーカルにエフェクトがかかっているじゃないですか。
JQ:そうですね。オートチューンもかかっているし、フォルマントでちょっと声を低くしているので、割とDTMっぽいことをした曲です。
ーードリーミーでモヤがかかったような音像も含めて、Nulbarichのディスコグラフィの中でも新鮮な楽曲だと思いました。
JQ:これはUS R&Bの王道というか、そういうオーダーで作った曲です。コライトでセッションした時にわかりやすいR&Bをイメージしていたんですけど、そういうのはあまりトライしてこなかったし、興味本位でできた曲でもありますね。これをアルバムに入れるかどうか迷ってたんですけど、このアルバムの中にあったら面白いかも、みたいな感覚で入れました。
ーーR&Bのイメージはどこから浮かんできたんですか?
JQ:パッと聴いてジャンル感がわかりやすいもの、今回のアルバムは全体的にそういう楽曲が多いですね。「こっち系のジャンルね」っていうところで、そのポップ版を作る感じ。今まではその間にもうひとつNulbarichらしさみたいな要素を付け加えて作っていたんですけど、Nulbarichらしさという部分は一旦僕が歌うことである程度担保できると仮定して、一回振り切ったものを作ってみようと思っていました。
ーーなるほど。
JQ:でも、これもセッションで一緒に作った曲なので、結局は“誰と遊ぶか”なんですよね。広い窓を開けっぱなしで作れるようなスタジオで、みんなで和気藹々と制作した曲です。
ーーそして「Words」は軽やかなポップソングです。
JQ:実はデビュー当時からあった曲なんです。活動休止するとなると今後出すタイミングがないと思い、これを今の僕たちが消化したらどうなるんだろうってことで仕上げたんですけど。全振りポップ&ハッピーソングみたいな曲になりましたね。最後の方の〈A stands for Alpha〉以降のリリックは、「お母さんがアルファベットを教えてくれたように、僕は夢という言葉を自分で見つけて、お父さんが戦うという意味を教えてくれて、君がLOVEという言葉を教えてくれて、いつもそれを君がくれていた」みたなことを歌っていて。そういうちょっと詩っぽい感じを、最後にみんなでアンセムのように歌う感じも一度やってみたかったことでした。僕の中ではこの曲でアルバムのバランスを取っているというか、Nulbarichらしさをここに置いたことによって他で振り切れた部分もありますね。