稲垣吾郎、50代に突入して見つかった新たな顔 歌手、愛猫、ラジオ……余白とゆとりが魅力に繋がった一年

人間味が増すほどに新たな顔を更新していく余白も

 また、2024年は歌手としても5年8カ月ぶりとなる新曲「SEASONS」を配信リリースするという大きな動きがあった年だった。楽曲を提供したのは、ラジオ『THE TRAD』を通じて知り合ったTENDREだ。新曲リリースに際してインタビュー(※1)に応じてくれた稲垣は、「SEASONS」に関して、TENDREに細かな要望は出していないと語った。それは「全部こっちが『ああしてほしい、こうしてほしい』と言うよりも、どういうふうに僕をよくしてくれるのかなって見ていきたい」からだそう。そして「僕のこだわりとかポリシーにはもう確固たるものがあって、それが揺るがないからかもしれないですね」と、これまで積み上げてきたものに対する自信の表れでもあった。

 自分のことをよく理解しているからこそ、他者と混じり合うことを楽しむ余白が生まれる。それは演技の場面でも通じているように感じた。ドラマや映画、舞台で、どんなに視聴者から憎まれたり、共感しにくい役を演じたとしても、稲垣のイメージには大きな影響はない。むしろ、稲垣の新たな一面が観られたという喜びに変わるのだ。それは終演と同時にリセットされる「稲垣吾郎」という素材の持つ強さと安心感があればこそ成り立つもの。50代に突入し、ますますその落ち着きが、いい形で作品に活かされているように思うのだ。

 そして、今年最後であり、51歳の最初の舞台として『No.9 -不滅の旋律-』が4年ぶりに幕を開けることになった。2015年の初演以来、再演を望む声が絶えない人気舞台。自らも共感するところが多いというベートーヴェンの役は、稲垣にとってハマり役とも言える。繰り返し演じたことで洗練された部分に加えて、稲垣自身の変化がどのように舞台に反映されていくのか、実に楽しみだ。

 
 
 
 
 
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 一方で、YouTubeチャンネル「厳選クラシックちゃんねる」のインタビューでは「基本的には人に観られるのが年々苦手になってきちゃって」と語っていた(※2)。そして、「そんな自分でも舞台に立つと何か違う力が舞い降りてきて、もっと自分を観てほしいって思ってるのかもしれない。言っちゃったら、今恥ずかしいですけど」と続けていたのも微笑ましかった。その道何十年というベテランとなれば、ある程度は自分の中に型が決まってくる。それを繰り返しやっていれば間違いないという安堵感に、気づかぬうちにあぐらをかいてしまうことも決して珍しい話ではない。だが、稲垣はどんなにキャリアを重ねても、苦手なことをやり続けているという緊張感を失っていない。クールな表情の奥に、いつも恥ずかしさやプレッシャーを乗り越えようともがいているのだというホンネをどんどん隠さなくなった。

 そのかっこつけてないからこそのかっこよさが、稲垣吾郎という年の重ね方。51歳の稲垣も、きっとまたみんなの「吾郎ちゃん」「ゴローさん」でありながら、人を受け入れ、自分を解き放ち、新たな顔で楽しませてくれるのではないかと期待している。

※1:https://realsound.jp/2024/09/post-1770888.html
※2:https://www.youtube.com/watch?v=2FyU0ozE3fU

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