GLIM SPANKY、初ベストアルバムが正真正銘の“ニューアルバム”である理由 溢れ出るエネルギーと原点回帰
曲作りにおける柔軟性の重要度「そこは本当に頑張ってきた」
――今回10年分の楽曲からセレクトしたわけですが、その作風に変化を感じますか?
亀本:めちゃくちゃ変わってきていると思います。自分としては、少しずつ器用になってきているな、と。初期の頃は不器用な部分が多かったけど、そのぶんエネルギーを一気に注ぎ込んだ曲が多い。でも、もう7枚もアルバムを出しているから、勢いだけじゃやっていけないんですよ(笑)。
松尾:そっか。私はこのあいだ(山中)さわおさんに、「ミュージシャンはふた通りいる」と言われたんだよね。ひとつは湯水のごとくメロディが浮かんできて、一日で一曲できちゃうタイプ。もうひとつは自分の人生を切り崩したり魂を消耗したりしながら曲を作るタイプ。私は明らかに後者だと思う。
亀本:それは大変だ(笑)。でも、GLIM SPANKYの曲作りって、最初に僕から考えることが多いんですよ。しかも締め切りは絶対です。タイアップがあったとして、(曲を提出するまでの)期限は1週間というようなオファーもあるし、そこで「何も浮かびませんでした」は通用しない。とにかく曲作りには柔軟さが大事で、「こういうのもありかも」「こんなことやってみよう」みたいな発想ができないと無理。そこは本当に頑張ってきたと思いますね。しかも、今回のベストに入らなかったタイアップ曲もまだいっぱいある。その気になれば、ベストアルバムをすべてタイアップ曲で組めることもできるくらい(笑)。
――自分たちのやりたいことを貫きつつ、クライアントの要望にもきっちり応えて結果を出す、それって本当にすごいことだと思いますよ。
亀本:ありがとうございます。自分でもよかったなと思うのは、タイアップが苦じゃなくて、むしろ楽しくできることですね。タイアップだろうが関係なく「自分の曲だ」と思って作っているし、逆に「お題をありがとう!」「ネタ提供ありがとう!」という感じ(笑)。
松尾:たしかに。テーマが最初から決まっているなら、それを自分たちのものにして楽しんでやってきたよね。結局タイアップといっても、ドラマも映画もCMもいつか終わるわけじゃないですか。20年後、30年後にその曲を背負うのは自分たちだから、そういう意味でもちゃんと“背負える曲”にしなきゃダメだと思ってやってきたんです。そんな過去の自分たちにも感謝したいですね。
亀本:それで言うと、「リアル鬼ごっこ」は大変だったよね。タイトルはこの曲名に決まっているところからのスタートでしたし。
松尾:「リアル鬼ごっこ」というタイトルにもしっかり意味を持たせられるよう、(作詞を担当した)いしわたり淳治さんとも悩みに悩んで、「これだ!」と思えるまで突き詰めて作ったので、結果的に今も大切な曲になった。
亀本:そうだね。タイトルにも意味を持たせたうえで、ちゃんと愛される曲になった。本当にあの時頑張ってよかったなって思います。
『ゴールデンカムイ』が投げかける問題提起に向き合った「赤い轍」
――新曲についても聞かせてください。リード曲になった『連続ドラマW ゴールデンカムイ ―北海道刺青囚人争奪編―』第4話エンディングテーマの「赤い轍」は、作品の世界観を踏まえてどのように作っていったのでしょうか。
亀本:まずは原作漫画を全巻買いに行って、ひたすら読み込みました。実写映画も観て、実際にドラマのなかで流れるとしたら、どういう曲が合うのかをイメージしながら作り始めましたね。最初のAメロはほぼあのメロディで決まっていたんですけど、Bメロはまだなくて。サビもちょっと思いついてはいたけど、まだ完成していない状態で松尾さんに投げました。
松尾:そこに私がアイデアを加えてまた亀に返す、みたいな感じでやり取りしつつ、一緒に作り上げました。私も漫画を読み込んだり、アイヌの歴史を学んだりしながら、原作の持つ壮大な世界観を表現しようと思って。
亀本:しかも今回は、いろいろなミュージシャンが一堂に会するプロジェクト。だからこそ、「絶対にGLIM SPANKYの曲が『ゴールデンカムイ』には欠かせないものになるんだ!」という思いで取り組みました。
松尾:「赤い轍」というタイトルを思いつくまでも苦労したんですよ。『ゴールデンカムイ』のなかでは、たくさんの血が流れ、命が繋がれていく。そこで自分が共感する部分をどう表現しようか考えた時、自分の身体を“道”に喩えてみようと。そこから血管を木の根や道に見立てて、「赤い轍」というタイトルが浮かんできたんです。「命とは?」という原作が問いかける問題提起に、自分なりの答えを込めた曲になったと思いますね。
――「Hallucination」は今までにないチャレンジングな曲です。ラテンの風味も感じられますが、どのように作っていったんですか?
松尾:世界観としては“うだる夏の熱帯夜”をイメージしたかったんです。実は「風にキスをして」も「ひみつを君に」も夏の曲。このベストアルバムを作っていた頃の私のなかでのテーマが“夏”だった。
亀本:ちなみにこの曲の途中に「パヤパヤ」みたいなスキャットが入っているんですけど、あれって本当はギターのフレーズだったんですよ。でもボーカルレコーディングのときにアレンジャーさんから「ここに声を入れたらどう?」と提案があって。結果、自分たちだけではなかなか到達できないクオリティに仕上がったなと思います。
松尾:浜口庫之助さんの『僕だって歌いたい』というアルバムが大好きで。「マシュ・ケ・ナダ」や「サティスファクション」に、女性の声で「パヤパヤ」というスキャットが入っていて。それがすごく好きだったので今回、取り入れてみました。
亀本:面白かったよね。自分たちのルーツも入ったし、ユニークなサウンドになってよかった。