柴田 淳「音楽を選んで正解だった」 救急救命士取得を経て“思うままの私”を表現するまで

「“こうじゃなきゃいけない”に縛られず、もっと自分本意でいい」

――いくつか曲に関してもお聞きしたいんですが。「星の朝露」では〈どんな完璧な人にならなくても/私の世界は 私がいるだけでいい〉という歌詞が印象的で、どんな年齢層の人にも響く言葉だと思います。この曲にはどんな想いが込められていますか。

柴田:この歌詞は、今回の制作において最初に書き始めたものなんですけど、最初は上手くいかなかったから少し寝かせておいて、最終的には一番最後に歌入れした曲です。〈少しまどろんだ 瞳擦って/ペダル踏み込んで 今日がまた始まる〉という冒頭の歌詞は、専門学校の病院実習に行くとき、早朝の雨上がりに自転車に乗っているのがすごく心地よかったことを書いていて。歌詞に込めたかったのは、「こうじゃなきゃいけない」ということに縛られず、もっと自分本意でいいし、もっと適当に生きていこうよという想いです。特に日本人は、自分の人生なのに他人の目を気にして生きちゃうところがもったいないなと。これまでの私も恋愛だ結婚だとか、周りはみんな結婚してるのにどうのこうのとか、そういうことに縛られていたんですけど、今では何か達観しちゃったというか。解脱しちゃったんですね(笑)。人は誰もがお金があれば幸せというわけでもないし、結婚したら幸せになれるというわけでもない。それを知っちゃったら、むしろこんなに幸せなのかと思って、もう誰のことも羨ましくなくなったんですよ。

――そう考えると楽になれたんですね。

柴田:そうなんです。あとこれはちょっと「何バカなこと言ってるんだ」と思われちゃうかもしれないですけど、「この世界って本当に私しかいないんじゃないかな」と思ったりするんです。私以外の人たちはエキストラで、みんな違う宇宙を持っていて、他の人からすると私もエキストラなんじゃないかって。そんな風に考え方次第だし、物事って1つのことを幸せにも悲しみにも苦しみにも捉えることができる。だからこそ、私の思うままに生きていこうって。

――「星の朝露」は曲の後半にかけて、本当に解脱していってる感じがしますね。

柴田:日常の情景描写を書いていたはずなのに、だんだんそうなっちゃったんです。

――一方、「◯◯ちゃん」はシリアスな曲調で結構ホラーな世界観なんですけど、これは何の歌なんでしょうか。

柴田:これはコンセプトが明確な曲なんです。理由もなく「この人なんか嫌だな、鼻につくな」という人がいたとして、それって自分の中にある“自分が認めたくない目を背けている部分”で、同じものを持っている人を見ると、まるで鏡のように見たくないものを見せられてる気がして嫌になることってあるんだなと。

――それって心理学的には「投影」というらしいです。

柴田:そうなんですね。だから「イラッとするんだ」「嫌な気持ちになるんだ」という話を聞いたとき、それを曲にしようと思って書いたんです。武部さんが弾いてくださった最初のイントロがおどろおどろしくて、それに引っ張られて乗っかっちゃって、歌詞もこんな書き方をしたんです(笑)。愛されたいような顔をしている人形があるとして、それが愛されていなかったら惨めだし、不憫じゃないですか。愛されたいのに愛されていない人形に自分を投影しちゃって、「目を背けたい」「消したい」と思ったときに、いっそこの人形をめちゃくちゃにしてくれる人にあげて、めちゃくちゃにしてもらおうという想いを歌詞に書いているんです。それで、この人形をめちゃくちゃにしてくれるのは、うちの犬なんです(笑)。

――なるほど(笑)。

柴田:見たくない人形を視界からなくすために犬にあげたっていう歌で、最後はバラバラになった人形が部屋の隅から私を見てるという。そういう歌でした。

――今回こうして、武部さんプロデュースでアルバムを1枚作ってみて、いかがでしたか。

柴田:本当に今回のアルバムは武部さんなくしては語れない、武部さんがいなければ成り立たなかった1枚なんです。なので武部さんプロデュースじゃなくなった私はどうなるのか、今後が全然想像がつかないですね。以前から、音楽活動にまつわるどんな仕事であっても、1つの仕事に対する思い入れが私と違う人とやると「やっぱり自分でやれば良かった」と思う経験を何度もしてきて。だからこそ、何でも自分でやるようになっていったんです。でも今回、武部さんにプロデュースをお願いできたように、音はこの人、照明はこの人、美術はこの人……というように任せられる人をどんどん集めていけば、私は自分がやるべきことだけやれるじゃないですか。「私は紫だと思うけど、この人が白って言うんだから、絶対に白だよな」と思えるくらいに信頼関係のある人が、いろんなところにいてくれたらいいんだろうなと思いました。私にとって音楽を作ることはやっぱり幸せなことで、良い曲ができたと思う瞬間だけが本当に幸せなんです。でも3日くらい経ったら、「この次はどうしよう?」って不安が始まるんです。この職業の人はみんなそうかもしれないですけど、アルバムを作り終えてこうしてお話しするときには、もう不安な状態に入っています(笑)。

――どの曲も歌声がまた豊かで素晴らしいですが、普段どんなケアやトレーニングをされているんですか。

柴田:トレーニングとかしたことないですし、カラオケも行かないです。よくコンサートの前に控室で発声練習をするアーティストもいるじゃないですか。そういうのも全くしないです。歌っているうちに声がどんどん出てくるみたいな、そういう感覚なんです。今回もアルバムのレコーディングで歌いながら、「やっぱり私は歌うことが好きなんだ」という実感がありましたし、「やっぱりこれは私にとって“仕事”じゃないな」とも思いましたね。

◾️リリース情報
柴田淳『901号室のおばけ』
2024年11月20日(水)発売
・通常盤(CD)VICL-66023:¥3,520(税込)
・VICTOR ONLINE STORE限定盤(2CD+PhotoBook)NZS-986:¥6,050(税込)

<CD収録曲>
1.綺麗なままで
2.星の朝露
3.〇〇ちゃん
4.喫茶店にて
5.誰もいない駅
6.短くて長い詩
7.透明な私
8.本当のこと
9.知恵の輪
10.月のあさひへ

オフィシャルホームページ

◾️ライブ情報
『Billboard Live presents Piano Duo Session #7 柴田淳×武部聡志 ~Birthday Special~』
<開催日> 2024年11月22日(金)
<会場> ビルボードライブ東京
1stステージ 開場16:30 開演17:30
2ndステージ 開場19:30 開演20:30
(1日2回公演)

詳細:https://www.billboard-live.com/tokyo/show?event_id=ev-20181

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