Wakana、音楽を信じて歌う“一人じゃない”という想い 武部聡志プロデュースで生まれた癒しのアルバムを語る

Wakana、一人じゃないというメッセージ

 ボタニカルボイスと称される透徹した歌声で聴き手を癒すシンガーのWakanaが、ニューアルバム『そのさきへ』をリリースした。カバーアルバム(『Wakana Covers 〜Anime Classics〜』)やライブBlu-rayを挟み、オリジナルとしては前作『magic moment』から3年3カ月ぶりとなる通算3枚目のアルバムは、プロデューサーに武部聡志を迎え、一青窈や清塚信也、半﨑美子、岩里祐穂、松井五郎、鳥山雄司などのプロフェッショナルな音楽クリエイター陣が参加。近年は武部とともに積極的にライブ活動を行ってきたWakanaが“そのさき”に込めた思いとは――。(永堀アツオ)

「音楽が持つ力をちゃんと伝えていかなきゃいけない」

――ニューアルバムはプロデューサーとして武部聡志さんを迎えていますね。

Wakana:アルバム全体をプロデュースしていただくのは初めてなんですけど、音楽監督兼ピアニストとしてライブでご一緒させてもらってきていて。2018年にソロ活動を始めたときに、初めて自分で歌詞を書くという経験をさせてもらったのも武部さんの曲だったので、そういう意味では、ほぼ5年間、一緒にいていただいたんですね。さらに、武部さんの仕事ぶりをもっと深く見ることができたら、ものすごく勉強になるだろうと思って。どこまで自分自身をさらけ出せるのかを問われるんだろうなとは思ってたんですけど、私も覚悟をして臨んだし、いろいろと悩みながらも、とても濃厚な制作期間になりました。

――最初にどんなアルバムにしたいと考えてましたか?

Wakana:武部さんはまず、「僕はこのアルバムのコンセプトとして、“光が射す”というイメージを持っている」とおっしゃっていて。今のこの世界の現状や人々の思いを届けていくべきだとおっしゃっていると感じたし、私もすごく賛同できたんです。音楽をやっている方は皆さん、きっと、音楽で何ができるんだろうって考えたと思うんですね。私自身がずっと思い続けているのは、みんなに暗いところにいてほしくないということと、音楽に癒しを求めてもらって構わないんだよっていうこと。音楽を聴くことはこんなに楽しくて、音楽が持つ力はすごく大きいんだよっていうことを、ちゃんと伝えていかなきゃいけないんだっていう思いが強くなっていて。だからこのアルバムには、武部さんからのコンセプトをもとに、自分が音楽でこうしていきたいというしっかりした思いが刻まれていると思います。

――1曲1曲にWakanaさんの明確な思いが込められているんですね。

Wakana:そうですね。例えば「明日を夢見て歌う」は、一昨年のビルボードライブ(『Wakana Billboard Live 2021』)のために武部さんが作ってくれた曲です。コロナ禍だったからこそ、今の思いを歌詞にしようと思って。まだ、アルバムのコンセプトもタイトルもできる前の曲ですけど、みんなが明るい方に行けたら幸せだなという思いを込めているし、やっぱり光を求めている。同時期にレコーディングしてたM9の「Flag」にもまさに、“その先に行くんだ!”みたいな思いが描かれていて。人はみんないつも希望を抱いているんだってことを改めて感じたし、いろんな作家さんやアーティストの皆さんからいただいた曲も、いつも前向きな気持ちを忘れちゃいけないと訴えているなと感じて。自分が歌詞を書いててもそうだし、歌っててもそうなんですけど、一人じゃないっていうことをすごく感じたんですよね。

――特に後半ですよね。M8「明日を夢見て歌う」以降は〈僕ら〉〈僕たち〉として歌ってますが、前半は物理的や心理的に離れて、一人旅に出たり、孤独を感じたり、一人でどう生きるかという様子が〈君〉や〈あなた〉として描かれてます。

Wakana:すごい! 本当にそうだ。私は気づかなかったけど(笑)。

――(笑)。だから、一人ぼっちのところから、先ほどWakanaさんがおっしゃった「一人じゃない」と思えるようになるまでの過程が描かれているように感じました。本作はリード曲「Butterfly Dream」で幕を開けますが、作詞をWakanaさん自身が手掛けてますね。

Wakana:岸田(勇気)さんから曲をいただいたときに、ファンタジックだなと思って。最初はかわいい感じで書こうかなと思ったんですけど、武部さんに「ちょっとダークさを入れたい」って言われたので、ダークファンタジーという形で、完全に現実じゃないものを書こうと思って。これは、強いメッセージ性というよりは、大切なものをどうしても奪われたくない、自分のものにしたいっていうドロドロした独占欲を描きたかったんです。

――〈君が今一番 欲しいものは何?〉って呼び掛けていますよね。

Wakana:なんか洗脳みたいですよね(笑)。人間に恋をした蝶の気持ちで書いていて。〈君が今一番 欲しいものは何?〉って言ってるけど、「僕が必要だよ」って言いたいだけというか。僕がいないと君は夢から覚めちゃうんだよっていう、ちょっと狂気的な人の歌なんです。

Wakana「Butterfly Dream」Music Video

「半﨑美子さんの仮歌を聴いただけで涙が止まらなかった」

――MVが公開されていますが、断崖絶壁で歌っていますね。

Wakana:めっちゃ高かったです! 栃木県宇都宮市の大谷資料館にある採掘場跡で撮影していて、合成じゃないんですよ。しかも冒頭のシーンで、まさに光が射してるんですけど、すごい偶然で、一瞬だったんですよ。監督が「今、今だ!」って言って、安全帯をつける暇もなく急いで座って。基本的には安全帯をつけて、後ろで男の人がロープで引っ張ってくれてるんですけど、あのシーンだけは安全帯がないままで座ってるから、すごく怖かったし、実際に顔がめっちゃこわばっています(笑)。でも、雲間からの太陽の光は本当に美しかったし、すごく奇跡的な瞬間でしたね。

――続く「Rapa Nui」は作詞:一青窈さんと作曲:マシコタツロウさんのコンビによるカントリーロックです。これは何語なんですか?

Wakana:イースター島の言葉で、ラパ・ヌイ語なんです。もう消えかかっている言語だというところに一青さんは魅力を感じたとおっしゃっていて。すごくカッコいい曲で、私はロックを感じていますし、歌詞がとにかく大好きですね。ラパ・ヌイ語の発音は一青さんにお聞きしたんですけど、何が正しいかがどこにも載ってなくて。だから一青さんに仮歌を聴いてもらって、これで大丈夫かどうかを相談しながら録りました。

――〈1人になろう〉と歌ってますよね。

Wakana:一青さんがイースター島に一人旅したときの思いを書いてくださったんですね。だから、一人になることが必要だっていう瞬間のリアルな曲なんじゃないかと思いますし、それって現代ではものすごく大事なことだと思うんですよね。私もつい、一人でどこかへ行くのは寂しいだけって考えちゃうし、なんなら、一人なら家にいたいって思っちゃう。でも、知り合いが誰もいない、どこか遠くに一人で行って、自分の弱さと向き合うことも大事なんだなと感じて。この曲では、一人になる時間を経て、その先を見据える光へ向かうということを一青さんなりに書いてくれているし、私もイースター島に行ってみたくなりました。

――半﨑美子さん提供のソウルバラード「標(しるし)」は、物理的には一人だけど、心理的には一人じゃないというか。

Wakana:これはすごくピンポイントなんですけど、私の父が2020年に亡くなったときの思いを、半﨑美子さんが曲にしてくれたんですね。私の思いを、ここまでシンプルなのに、とっても優しい、素晴らしい曲にしてくれたことがすごく嬉しくて。最初に半﨑さんの仮歌を聴いたときはもう涙が止まらなかったんです。当時、悲しい気持ちが勝ってしまって、孤独を感じてたんですけど、この曲のおかげで前を向けるようになった。「標」を作っていただいたことで、その先へみんなで行こうっていう思いにより繋がったし、これからもずっと大事に歌っていきたい曲ですね。

――私が今ここにいるということは、あなたがいた証でもあるし、過去の思い出や追憶だけに引っ張られてないんですよね。離れてはいるけど、そばにいるっていう感覚もあって。

Wakana:そうなんですよ。すごいですよね。「同じ場所にいられないだけだよ」って言ってくれるとすごく安心するなと思って。常にここにいるんじゃないかって思えるようになったので、逆に寂しくなくなりましたね。

Wakana「標」(「Wakana Classics 2022 ~Christmas Special~」より)

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