いきものがかりの原点回帰にして新たな挑戦 小田和正も駆けつけた『路上ライブ at 武道館』
原点回帰にして、新たな挑戦——。
いきものがかりが11月2日、日本武道館で単独公演『いきものがかかり 路上ライブ at 武道館』を開催した。グループ結成25周年の前日に行われたこのライブで吉岡聖恵(Vo)、水野良樹(Gt/Pf)は、路上ライブ時代のレパートリー、代表曲から新曲までを網羅しながら、豊かで奥深い音楽世界を生み出してみせた。
舞台には2本の白い木や植物、ベンチなどが置かれ、まるで路上のような雰囲気。ステージ裏も開放され、ステージをぐるりと囲む座席には、小さな子供から年配の方まで幅広い年齢層のオーディエンスが笑顔で開演を待っている。観客の手には、ニューシングル『会いたい』(ライブ仕様盤)のCDが。これは武道館の来場者に配布されたもので、吉岡、水野の直筆メッセージカードも封入されていた。記念すべきライブに足を運んでくれた人たちに、聴き手に対する感情を込めた楽曲を手渡したい。この施策は、そんな2人の想いから生まれたのだろう。
18時半過ぎ、ついにライブがスタート。黒のシックな衣装を着た吉岡と水野がステージに登場すると、大きな拍手が会場を包み込んだ。1曲目は新曲「会いたい(2人 ver.)」。結成25周年を記念して制作され、7月から8月にかけて行われた弾き語りフリーライブツアー『いきものがかり 路上ライブ〜あなたの街でお会いしまSHOW!!〜』でも披露された同曲は、2人がファンとともに育ててきた楽曲。水野のピアノと吉岡の歌で奏でられる「会いたい」が1万2000人のオーディエンスに届けられ、大きな感動とともにライブは幕を開けた。
さらに「今日はよろしくね、みんな!」(吉岡)という声から始まった「Sing!」、シンプルな編成によってメロディと歌詞の素晴らしさを際立たせた「ありがとう」を演奏した後、最初のMCへ。「『いきものがかかり 路上ライブ at 武道館』へようこそ!」(吉岡)、「今みなさんが見ているのが、緊張しているヤツです! 1回言ってみたかった。『路上ライブ at 武道館』へようこそ!」(水野)という挨拶で、冒頭からの緊張感があっという間に解けていく。
翌日(11月3日)に結成25周年を迎えるにあたって、何か特別なことをやろうと思った。路上ライブから始まったグループだけど、ステージでの弾き語りライブは今回が初めて。いつもとは全然違うリズムで進むので、路上ライブに来ているような感じでゆったり、優しく観てほしい——とライブの趣旨を改めて説明した後も、2人だけのステージが続く。水野が初めて鍵盤で作った曲だという「ラブソングはとまらないよ」、さらに水野がアコギが弾き、吉岡が「いきものの曲はみんな好きだけど、この曲のファンです!」と紹介した「Good Morning」、ドラムのキックの音と観客の手拍子をその場で録音し、水野がエレキギターを響かせた「夏空グラフィティ」を続けて披露。楽曲制作時のエピソードを交えたフレンドリーなトークも楽しい。
この日のセットリストには、路上時代からのレパートリーも含まれていた。まずは吉岡、水野がベンチに座り、アコギと歌で披露された「赤いかさ」。「曲を作り始めて、2曲目くらい」(水野)というこの曲は、フォーキーな手触りの切ないラブソング。25年間使い続けているという吉岡のタンバリンの音色も含め、初期のいきものがかりを追体験することができた。続く「くちづけ」は、憂いをたたえたメロディと〈傷のない恋などないのでしょうか〉というフレーズが混ざり合う楽曲。「路上ライブをやってると、聴いてくれる人たちの集中が高まる瞬間があって。この曲はそんなときに3人で目を合わせて、“あの曲いこうか”という感じになった曲です」という水野のMCも印象的だった。
ここで吉岡がバックステージに下がり、水野が1人でトーク。「2人でやってると、みなさんの手拍子や声が励みになります。ここからは弾き語りの枠を超えていきます!」と室屋光一郎が率いる弦カルテットが呼び込まれる。水野のピアノ、ストリングスがクラシカルな前奏を奏でる中、真っ白な衣装に着替えた吉岡がステージに登場。「コイスルオトメ」「あなたは」「SNOW AGAIN」を歌い上げた。季節を巡るように生き生きと連なる歌詞の静謐な世界観をじっくりと堪能することができた。
さらにドラムの山本真綺も加わり、ライブ初披露の新曲「ドラマティックおいでよ」からポップで楽しいいきものがかりの世界へ。ピアノ、ストリングス、ドラム、歌という編成も斬新だった。お揃いの振付で楽しんだ「気まぐれロマンティック」、鋭さと青さがせめぎ合う「ブルーバード」に続き、全員でタオルを振り回し、シンガロングで盛り上がった「じょいふる」では吉岡がステージを左右に移動し、心地よい一体感を演出。言うまでもなく、こういう親しみやすいポップネスこそがいきものがかりの最大の魅力だ。