いきものがかりの原点回帰にして新たな挑戦 小田和正も駆けつけた『路上ライブ at 武道館』
「ここについたときにもらえた拍手が大きくて、降ってくるみたいで。最初から感動してました。本当に、本当にどうもありがとう!」と涙を浮かべた吉岡は、「明日で25年になるんだけど、タンバリンケースやギターを持って路上ライブをやってるときに、25年経って、こんなに温かい景色や拍手があるとは想像していなかったです。また一歩ずつ進めるって、今日のライブで思えたので、これからもよろしくお願いします」と語った。
「路上ライブは戻ってくる場所であり、前に進む場所でもありました。結成25周年で“新しいことをしよう”と踏み込んだライブだったと思います。それを温かく迎えてくださったみなさんがいたことが、僕らにとっては前に進む力になります」という水野の言葉から、路上ライブ時代から演奏していた「からくり」へ。ピアノと歌で奏でられた〈今日もまたひとつ 生まれたきずなに 想いが 静かに 届く〉というフレーズは、この日のライブにおける美しくて静かなハイライトだった。
ここでステージの真ん中にスクリーンが下ろされ、新曲「会いたい」の制作風景が映し出された。編曲を手がけた世武裕子とのやり取り、レコーディングやMV撮影の様子を紹介し、再びスクリーンが上がるとそこには満開の桜の木のオブジェが。感嘆の声が会場を包み込む中、世武、室屋ストリングス、山本を交えて本編ラストの「会いたい(REC ver.)」を演奏。水野、世武のピアノ、弦カルテットによるアンサンブル、楽曲終盤の華やかで開放的な展開も含めて、この楽曲の魅力を真っ直ぐに響かせた。
アンコールを求める声に応え、吉岡と水野がステージに姿を見せる。「みんな、俺ら今、めっちゃ緊張してんだぜ。尊敬する方が駆けつけてくださいました」と紹介されたのは、スペシャルゲストの小田和正。驚きの声が上がる中、舞台に登場した小田は「お待たせしました!」と張りのある声で挨拶。大きな花束を2人に渡すと、会場全体が大きな拍手で包み込まれた。
いきものがかりのデビュー曲「SAKURA」を小田が聴き、音楽番組『クリスマスの約束2006〜message〜』(TBS系)で共演したことが両者の出会い。
「今日はそのときにやった『SAKURA』を武道館でやっていただけないかと。聖恵はそのときのこと覚えてますか?」(水野)
「『SAKURA』をやるときに、テンポを上げないか? と提案してくださったんですよ。そのとき私は“いや、このままでいきます”と……生意気なまま育ってしまいました」(吉岡)
「余計なこと言ったなって。すごかった、剣幕が(笑)」(小田)
そんなやり取りから、3人で「SAKURA」を演奏。小田と吉岡のハーモニー、水野のピアノによる貴重なセッションが実現し、観客は息を呑むように聴き入った。
「当時はライブにも人が全然集まってくれなくて。そんなときに、まさか小田さんが自分たちの曲を聴いてくれて、それを取り上げて、番組に呼んでくれるなんて思ってもなくて。デビューしたときよりも、大きなライブが決まったときよりも、一番嬉しかったし、励みになって」と感慨深そうに語る水野に対し、小田は「君たちの初々しい感じは今もすごく覚えてます」「これからもいい歌をいっぱい書き続けて、聴かせてください」と答えた。
さらに、吉岡が「歌うこととか、いろんなことで落ち込んでたときにこの曲を聴いて、泣いちゃって。癒されたこの曲を一緒に歌わせてください」と語った「君住む街へ」(オフコース)をコラボレーション。J-POPの源流を作り出したアーティストの1人である小田和正と、その流れを汲みながら自らの音楽表現を広げ続けているいきものがかり。この国のポップミュージックの繋がりを実感できる、きわめて貴重な共演だった。
最後は1stアルバム『桜咲く街物語』収録曲で、山下穂尊の作詞・作曲による「タユムコトナキナガレノナカデ」を2人で披露。〈息づくこの歌がね、きっと届く 弛まぬ流れの中で…〉という言葉を届けた瞬間の吉岡、水野の表情からは、このライブに対する確かな手応えが伝わってきた。
活動の原点と新たなトライアルを共存させた『いきものがかかり 路上ライブ at 武道館』。大きなターニングポイントとなるライブを経て、いきものがかりは25周年のアニバーサリーイヤーを迎えた。ここから2人が奏でる音楽をぜひ、たくさんの音楽ファンと共有したいと思う。
■配信情報
いきものがかり 路上ライブ at 武道館
アーカイブ配信:12月5日(木)12:00~12月19日(木)23:59
出演:いきものがかり
スペシャルゲスト:小田和正、世武裕子
チケット詳細:https://www.streaming-ikimonogakari-budokan.com/