いきものがかり、丁寧に紡ぎ届ける25年分の歩み 原点を見つめ直した2人が「会いたい」に託すもの
いきものがかりから新曲「会いたい」が届けられた。グループ結成25周年を記念して制作され、日本武道館で行われた弾き語り公演『いきものがかり 路上ライブ at 武道館』の当日(11月2日)に発売されたこの曲は、通算37枚目にして初のノンタイアップシングル曲。12年ぶりのホールツアーの追加公演『いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! 2024 〜あなたと!わたしと!みんなで!歌いまSHOW!!〜 横浜にじゅうまる公演』(5月26日、神奈川・ぴあアリーナMM)で突如披露され、7〜8月にかけて開催されてきた弾き語りフリーライブツアー『いきものがかり 路上ライブ〜あなたの街でお会いしまSHOW!!〜』でファンと共に育まれてきた記念碑的な楽曲だ。
「会いたい」を紐解く前に、ホールツアー以降のいきものがかりの活動を振り返っておきたい。まずはフリーライブツアー『いきものがかり 路上ライブ〜あなたの街でお会いしまSHOW!!〜』。北海道・サッポロファクトリー アトリウムから始まり、兵庫、岡山、愛知、三重、群馬、岩手、福岡のイオンモールを回ったこのツアーは、吉岡聖恵(Vo)、水野良樹(Gt/Pf)にとって原点回帰の旅でもあったはずだ。
ご存じのように、いきものがかりは1999年、路上ライブから活動をスタートさせた。当時の“会場”は、小田急線の本厚木駅や海老名駅の駅前。道行く人たちに向けてオリジナル曲、カバー曲を演奏し、歌ったことがいきものがかりの原点だ。
2021年の夏に2人体制になりーー新体制になって最初のライブも、海老名で行われた路上フリーライブだったーー「うれしくて」「ときめき」「STAR」などの新曲を発表。昨年12月にリリースされたアルバム『〇』は、2人の音楽がさらに豊かに広がっていることを示す作品だった。
前述の通り、12年ぶりのホールツアーを成功させるなど、順調な活動を続けてきたいきものがかり。結成25周年のタイミングで路上フリーライブツアーを行ったのは、“もう一度、自分たちの根本と向き合いたい”という思いもあったからではないだろうか。
フリーライブでは、「気まぐれロマンティック」「ありがとう」などの代表曲を披露。水野はギターと鍵盤を演奏し、2人で意見を交わし合いながら新たな弾き語りライブのスタイルを模索していたという。一番の目的はもちろん、“全国各地のファンに会いに行く”ということだろう。このツアーで新曲として演奏された「会いたい」は、いきものがかりの現在地であると同時に、吉岡、水野の中にあるファンへの想いそのものだ。
明るい光と切なさを感じさせるピアノの音色、〈桜が咲いたね/春が来たよと/祈りをささげる/やさしいひと〉という歌詞から始まる「会いたい」。さらにもう一つのピアノのフレーズが重なり、叙情的な音の風景が生み出される。楽曲の中盤になると重厚なストリングスが加わり、クラシカルな手触りのサウンドへと発展。終盤にドラムとベースが入って一気に疾走感が高まり、最後はピアノの穏やかなフレーズでエンディングを迎える。J-POPとしてはかなり異色なアレンジだが、もちろん違和感はまったくなく、季節が巡るのと同じような感覚で、自然と身体の中に浸透してくる。それはつまり、この曲で伝えられるべき感情、物語、風景を音にするというきわめて真っ当なスタンスの結果でもあるのだろう。編曲は世武裕子。アルバム『〇』に収録された「誰か」と同じく、世武が作る音と吉岡の歌の共鳴をしっかりと堪能できる楽曲に仕上がっている。