リアルサウンド連載「From Editors」第79回:斬新な手法でSpotify創業秘話を描いたドラマ『ザ・プレイリスト』
「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。
第79回は、最近友人と「もしあの芸能人に好きなアーティスト布教用プレイリストを作るなら」というテーマで、一生聴かれることのないプレイリストを作り合い、勝敗を競うというゲームを開始した伊藤が担当します。
斬新な手法で描かれるSpotify創業秘話
あなたが今、いちばん“お世話になっている”と感じる存在はなんでしょうか。
家族でしょうか、恋人でしょうか。もはや恋人よりも大切な“推し”でしょうか。人それぞれ色々とあるかと思いますが、私はどう考えても「Spotify」です。一択です。いつから使っているのか定かではないですが、お世話にならない日はないですし、もう「Spotify」のない世界には戻れません。
自分語りをする企画なので、ちょっと昔話をさせてください。
静岡県の中途半端な田舎で生まれた私は、中学時代に音楽を好きになってから、とにかく地元のTSUTAYAに通い詰めていました。“当日料金”で安く借り、カセットから始まり、MD、iPadと音楽を詰め込んで、朝、学校へ向かう途中に店舗に設置されていた返却ポストに投げ込む。そんな日々です。しかし、TSUTAYAはあるレベルの田舎ですが、とても都会ではないので品揃えはそんなによくありません。貧乏中学生にポンポンCDを購入できるほどの資金もないので、聴きたいのに聴けない音楽がいっぱいありました。
時は過ぎて、大学生になった私。進学に合わせて、神奈川県でワクワクの一人暮らしをスタート。そんなある日、初めてSHIBUYA TSUTAYAに足を踏み入れたときの衝撃は忘れられません。
「え、この棚、全部メタルなんですか……?」
その日からは、定期的に届くメルマガをつぶさにチェックし、“旧作セール”を心待ちにする日々に。一度に30枚程度まとめてレンタルし、CDを取り込んでいるあいだにライナーノーツを眺め、なんだかアーティストを分かったような気になる時間は最高に贅沢でした。
そしていよいよSpotifyが上陸。当時は現在よりはるかに登録アーティストは少ないですが、それでも聴きたかったあれやこれやそれや……。とんでもないコスパで全て聴くことができるではありませんか。中学時代には想像さえしていなかった夢のようなサービスに大感動でした。
自分語りはこのくらいにして、そんなSpotifyの創業秘話を描いだドラマが『ザ・プレイリスト』(Netflix)です。
世界を代表する音楽プラットフォームのひとつになったSpotifyですが、実はスウェーデンの企業。一人の天才がサービスを構想し、仲間を集めながら夢を実現していくサクセスストーリーではありますが、面白いのはその描き方です。創業者が主人公であるかと思えば、実は各話ごとに主人公が異なる構成になっていて、第1話は創業者、第2話は巨大レコード会社の偉い人、第3話は仲間として引き入れた法律の専門家など、基本となる登場人物は共通しながらも、それぞれの視点から物語が描かれるのです。この手法によって、ただのサクセスストーリーではなく、Spotifyを取り巻く光と闇の両面を捉えることに成功しています。
もちろんドラマなので、どこまでが真実なのかは分かりませんが、Spotifyを通して、音楽産業についてあらためて考える機会にもなります。全6話でサクッと観られるのでぜひ。
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