リアルサウンド連載「From Editors」第77回:ついにサブスク解禁! 『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』が傑作である理由

 「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。

 第77回は、特撮とメタルが好きな信太が担当します。

ウルトラマンのかっこよさの“すべて” 極上の映像&脚本で魅せる傑作!

 2024年9月1日、事件は起こりました。なんと、2006年に劇場公開され、今も高い人気を誇る傑作・劇場版『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』が、ついにサブスクで解禁(円谷プロダクション公式サブスク「TSUBURAYA IMAGINATION」にて配信)されたのです! 実家にDVDがあるものの、不意に観たくなったときに手元になかったので、10年くらい観れていなかった今作。待ちに待ちに待ちまくってました! 満を持して再鑑賞したところ、ああ、なんて素晴らしい映画なことか……。ウルトラマンのかっこよさ、全部ここに詰まってるんです。

 まず、今作はウルトラマンシリーズ誕生40周年記念作品として制作されたこともあり、とんでもなく気合いの入った映像になっています。最大の見どころは、シリーズ初期のウルトラ兄弟(ゾフィー、初代ウルトラマン、ウルトラセブン、ウルトラマンジャック、ウルトラマンエース、ウルトラマンタロウ)が、当時の最先端技術によってダイナミックに宙を舞う、極上の戦闘シーン。究極超獣 Uキラーザウルスとウルトラ兄弟が相見える冒頭の月面のシーンだけでも、「こんなに必殺技が乱れ打ち、縦横無尽にウルトラマンが飛び交う夢のような戦闘シーンは観たことがない!」と、映画館で大興奮したことを思い出します。

 さらに本編のメインとなる、神戸のロケーションを活かしたアクションも見応え抜群。例えば、ウルトラマンメビウスと極悪宇宙人 テンペラー星人が戦う場面も、“地上戦→空中戦→海上での必殺光線”という流れがめちゃくちゃかっこよくて美しい。架空の街ではなく、「本当に神戸にウルトラ兄弟がやってきたんだ」という没入感まで満載なのです。

 豪華なキャストも話題になりました。ウルトラマン、セブン、ジャック、エースの人間体(ハヤタ、モロボシ・ダン、郷秀樹、北斗星司)を、久々に昭和のオリジナルキャスト(黒部進、森次晃嗣、団時朗、高峰圭二)が揃って演じていて、4人の関係性もいい感じ。大先輩としての渋み溢れる彼らの演技が、新人ウルトラマンであるメビウス=主人公・ヒビノミライ(五十嵐隼士)のフレッシュさとの対比で、作品に奥深さを与えています。特に、心を閉ざしてしまった少年との向き合い方がわからず、ウルトラマンとして苦悩するミライに対し、ハヤタが「我々ウルトラマンは決して神ではない。どんなに頑張ろうと救えない命もあれば、届かない想いもある」と伝える台詞が泣けます。表では正義のヒーローとして人々に勇気を与えながらも、裏では己の力不足に悔し涙を流し、悩み苦しみ、大先輩たちに相談している……今作はまさに、ウルトラマンを人間そのものとして描いたことが新しかったのです。

 しかも、今作におけるウルトラマンたちはどこか“不完全”。というのも、ウルトラマン、セブン、ジャック、エースの4人は、物語冒頭の戦いで変身能力を失っており、ウルトラマンとしては実質の“引退状態”にあります。地球を守っているウルトラマンは、つい数カ月前にやってきたばかりのルーキー、メビウスのみ。会社でいうと、まるで新入社員と退任間近の重役社員しかおらず、30〜40代くらいの働き盛りの中堅社員がいない……みたいな、ちょっと歪んだ状態にも思えます。だからこそ、心を閉ざした少年と向き合いながら宇宙人連合と必死に戦い、次第に“一人前のウルトラマン”になっていくメビウスの成長に泣けるし、それを見て「もう一度立ち上がらなくては!」と己を奮い立たせるウルトラ兄弟たちの“現役復帰”的な変身シーンにもグッときます。公開された当時、ここまでウルトラマン主体の物語に振り切ったことが、それまでの平成ウルトラマンシリーズの好きだった傾向と異なる気がして、少しだけ違和感を覚えていたのですが、こうして大人になって観返すと、むしろウルトラマン同士の関係にこそ社会性を投影していたんだとわかって、物語の奥深さに胸を打たれるのでした。さすが、数々の傑作ウルトラマンを生み出してきた監督・小中和哉×脚本・長谷川圭一コンビです。

 なお、そうした革新は、ウルトラマンシリーズのその後にも大きく影響を与えたように思います。今ではウルトラマンが劇中でよく喋るのは当たり前ですが、その走り出しも今作な気がしており、ここを経て『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』(2009年)というさらに大胆な“ウルトラマン主体”の作品が生まれ、お喋りなウルトラマンゼロが大人気になり、以降のニュージェネレーションシリーズの礎が築かれました。『ウルトラマンティガ』(1996年)以降に培われたヒューマンドラマの深みを活かしながら、昭和ウルトラマンの醍醐味を再構築し、シリーズ全体のゲームチェンジャー的な役割を果たした作品こそ、『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』なのです。

 最後に。昨年74歳で亡くなった団時朗さん演じる郷秀樹が、本当にかっこいい。特に戦闘中、ウルトラマンジャックとして喋る団さんの声には、沁み入るような渋さと昂るような熱量がいいバランスで混ざっていて、「絶対に防いでやる。たとえこの命に換えても」や「やりましょう。私たちが愛した、この地球を守るために」といった台詞を聞いているだけで特撮心がキュンキュンします。団さん、素敵な作品に出会わせてくれて、ありがとうございました。

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