ハンブレッダーズ、バンドに対する純粋な想いを再確認 怒涛の結成15周年イヤーに得たもの
結成15周年イヤーを全速力で駆け抜けているハンブレッダーズ。2月の4thフルアルバム『はじめから自由だった』から息つく暇もなく配信シングル「⚡」をリリースした後も、10月に「フィードバックを鳴らして」を配信リリース、さらに新曲「アクション!」を発表するなど、精力的なリリースを展開。楽曲ごとに異なるアプローチで今の時代に自分たちが鳴らすべきロックの可能性を追求している。さらに、3月の大阪城ホール、10月の日本武道館での初のアリーナワンマンを大成功に収めるなど、ここまでのキャリアで積み重ねてきたバンドのパワーを証明するライブを行ったことも記憶に新しい。
リアルサウンドでは9月中旬、ハンブレッダーズのメンバーに話を聞く機会を得た。「フィードバックを鳴らして」「アクション!」といった新曲の話題をはじめ、怒涛の結成15周年イヤーをライブを軸に振り返ってもらった。(編集部)
漫画でもアニメでも“計算を捨てる瞬間”が一番アガる
――9月11日深夜の『ハンブレッダーズのオールナイトニッポン0(ZERO)』聴きましたよ。1時間半ぶっ通しの生放送ライブ、最高でした。
ムツムロ アキラ(Vo/Gt):ありがとうございます。あの日のトークを聞かれたと思うと、恥ずかしいですけど(笑)。
――番組サイドからの提案でライブをすることになったんですか?
ムツムロ:「2曲くらいやりますか?」と提案してもらったんですけど、僕、『オールナイトニッポン』が好きなので、やるからには爪痕を残したいと思って。芸人さんだったら、1時間半喋り続けるのがやっぱり一番活きるじゃないですか。じゃあミュージシャンはライブをするのが一番じゃないかと思って、ぶち抜きでやらせてもらえないかと、こちらから相談した形ですね。
――何事も整えられたり漂白されたりしがちな時代だけど、人間らしい歪さや美しさ、人が手を動かして楽器を鳴らすからこその魅力が、バンドの音楽、特にライブにはあると思っていて。あの放送を聴いて「バンドっていいな」と思った人、きっとたくさんいると思います。
ムツムロ:そう思ってもらえていたら、やった甲斐がありますね。
――「⚡」、「フィードバックを鳴らして」、「アクション!」といった今年下半期の配信シングルも、バンドで音を鳴らすことの喜び、手を動かすことの面白さ、手間がかかる体験の中にある価値、アナログなものをいいと思う気持ち、みたいなところがテーマになっていますよね。
ムツムロ:そうですね。クリエイティブな仕事が今後AIに奪われていくことは、もう分かりきっているじゃないですか。だけど、バンドでせーので音を鳴らした瞬間とか、ライブのような五感を使うエンタメは、AIがまだ奪えないものだと思うんです。そこに対して考えることが多かったから、曲にしたという感じですね。
――「フィードバックを鳴らして」は、TVアニメ『鴨乃橋ロンの禁断推理』2nd Seasonオープニング主題歌として制作された曲ですね。
ムツムロ:アニメが第1期から第2期にかけて、ダークな展開になっていくんですよ。ミステリー作品なので主人公が謎をどんどん解いていくんですけど、全部仕組まれていたんじゃないか、誰かの手のひらの上で踊らされているんじゃないか、みたいなストーリー進行になっていくんです。それって現実でもよくあるなと思いつつ、アニメから着想を得て書いた曲ですね。例えば、自分から「これ欲しいな」と思って買ったつもりが、直前に見た広告や友達との会話に影響を受けていたってこと、わりとあるじゃないですか。
――確かに、これだけ情報が溢れている時代だと、 自分の感情や欲望がどこまで純度あるものなのか分からないですよね。だけど、この曲で鳴っている音は純度が高いなと思いました。みなさんが、童心に帰って鳴らしている感じがするというか。
ukicaster(Gt):ハンブレッダーズって、中二感を持っているバンドだと思うんですよ。「楽器ってカッコいいだろ!」みたいな感じで4人とも鳴らしているというか。ギターに関しては、その中二感を一旦限界まで引き上げてみようと。俺らの世代でカッコいいの頂点といえば、9mm Parabellum Bulletや凛として時雨。中高生の時に刺激を受けた音楽から継承したものを、ドリップせずにそのままアウトプットしたような感じです。
ムツムロ:世界的なトレンドとは真反対の、「足し算!足し算!掛け算!」みたいな曲だよね。
でらし(Ba/Cho):うん。僕も基本的に足し算で作っていきました。最近「ハンブレッダーズといえばギターだよね」と言われることが多いから、完全に食ってかかろうと思って。一番カッコいいベースを弾こうという気持ちで作ったので、完成した今、めっちゃ満足してます。
――ライブでもベースの見せ場が増えましたね。
でらし:みんなが「もっと弾けよ」と言ってくれるんですよね。「やったー、嬉しい!」「弾いていいなら、弾かせていただきます」という感じで、好きにやらせてもらっていて。
木島(Dr):ドラムもこの曲の制作中、「これくらいで、どう?」と聞いたら、「もっといけ!」と言われたんですよ。そう言われても、なかなかイメージできないなと思っていたんですけど、ちょうど制作時期に、パスピエのキーボードの成田ハネダさんと飲みに行く機会があって。成田さんは音楽理論を極めている方なので、「いつもどんな感じで作っているんですか?」という質問をしたんですよ。パスピエは今ドラマーがいなくて、ドラムのアレンジも成田さんが自分で作っていらっしゃるから、どういうふうに考えているのか気になって。そしたら「いや、限界突破っしょ」と言われたんですよね。
でらし:いいね。最高の先輩だね。
木島: 音楽をめちゃめちゃ勉強している人でも、最終的には根性論に行き着くんだなと。成田さんがそう言うんだったら、俺もなんかいけそうだなと思えて。この曲のドラムは、「自分にはこういうルーツがあるから、こういうアプローチをした」「この曲をリファレンスにした」ということではなく、今の自分にできる最大限を出したという感じです。
ムツムロ:そう、そういうことなんだよ。漫画でもアニメでも、 計算をするキャラが、 計算を捨てる瞬間が一番アガるからさ。それをやってほしかった。
――歌詞についても聞かせてください。〈田園風景のポリゴン〉というフレーズは、どんなイメージで書きましたか?
ムツムロ:これはWindowsの待ち受け画面のことですね。「自分にとっての甘い誘惑の象徴といえば何だろう?」と考えた時に「パソコンだな」と思って。
――この曲には、1980~90年代インターネットのモチーフが散りばめられていますよね。歌詞に〈ヴェイパーウェイヴ〉(2010年代初頭にウェブ上の音楽コミュニティから生まれた音楽ジャンル。1980~90年代の大衆音楽をサンプリングし、テンポや音程を操作したり、ビートやエフェクトを重ねたりすることで制作される)が出てくるし、アートワークも昔のデスクトップパソコンですし。
ムツムロ:ヴェイパーウェイブって懐かしさを感じる音楽だと思うんですよ。それも、極端にブーストされた郷愁だから、不思議な感じがする。
――歪な音楽ではありますしね。ブーストされた郷愁というワード、すごくしっくりきました。
ムツムロ:歪になればいいですよね、何事も。自分はずっと「この時代に生きていて、ロックバンドが今歌わなきゃいけないことはなんだろう」と考えながら曲を作っているんですよ。アナログなものが好きだと歌い続けている僕らは、悪く言えば懐古主義的なところがあって、AIの時代が到来しても「それはダメじゃないか!」って最後まで抵抗している気がする。この曲からは、そういう画が見えるなと思いますね。
「フィードバックを鳴らして」「アクション!」2曲で楽しめる振れ幅
――続いて、「アクション!」について聞かせてください。ドラマ『デスゲームで待ってる』(関西テレビ)の主題歌ですが、バンドの衝動が詰まった曲になりましたね。サビは拳を上げながら歌いたくなる感じだし、歪みまくりのベースソロも、3度でハモりながらのツインギターも王道ゆえに最高です。
木島:ムツムロから上がってきたデモを聴いて、全員「これだ!」ってなってからは、結構速いテンポで進んでいったんですよ。ドラマの脚本を踏まえても、メンバー含めチームみんな「いいんじゃない?」という感じだったし、ドラマの制作サイドからも「いいですね」と言ってもらえたので、本当にスルスル進んで。このスピード感だったからこそ、ハンブレッダーズらしさが強く出たのかもしれないですね。
――シンプルな構造だからこそ、今のハンブレッダーズのスケールがサウンドから感じられます。全音符をバーンと鳴らした時の説得力が、前とは段違いというか。
ukicaster:「⚡」も「フィードバックを鳴らして」も「アクション!」も、アリーナや野外の数万人規模のステージにも見合ったスケールの曲にできたので、手応えを感じています。さっきムツムロが「この時代に生きるロックバンドが今歌わなきゃいけないことを考えながら曲を作っている」と言っていたけど、言葉だけじゃなくて、音の作り方、演奏のしかたに関してもそういうふうにやってきたと思っていて。僕ららしさをしっかりと乗せつつ、ちゃんとアップデートできているんじゃないかなと思っていますね、
でらし:「フィードバックを鳴らして」も「アクション!」も、ライブでやっているところを想像できるのがすごくいいなと思ってます。ただ、聴いた人は温度差で風邪引きそうですよね(笑)。
――技巧的な曲とシンプルな曲ということで、真逆のアプローチですからね。
木島:この2曲を立て続けにリリースすることで、幅の広さみたいなものを見せられるんじゃないかと。
でらし:これだけ振れ幅のあるバンドは、同世代だとうちくらいしかいないんじゃないかな? 『秋のグーパンまつりZ 2024』の対バンもうちならではという感じだし、本当に面白いバンドですよ。
ムツムロ:確かにね。「フィードバックを鳴らして」みたいな曲も「アクション!」みたいな曲も好きなバンドだからこそ、あの対バンになるんだという感じはするね。
木島:この2曲とともに、結成15周年イヤーのラストスパートをかけていくことになりそうです。